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第10話

<ミリィ=マクスウェル>

種族:獣人(狼)

ジョブ:バトルメイド

スキル:家事Lv.4、暗器術Lv.1、奉仕の心、被虐体質

状態:隷属(愛)


スマホの画面を見ながら、俺の頭にはいくつものクエスチョンマークが浮かんでいた。

えっと、まずは何処から突っ込もうか。

「この、バトルメイドと言うのは?」

「まずそこから聞きますか。もっと他に突っ込むところがあるでしょう」

いや、手始めに……。

「まぁ良いです。ハヤトさんには最初から期待してませんでしたから」

盛大に溜息をつきながらも、リゼルは説明を始めてくれた。

「バトルメイドは、その名の通り戦うメイドさんですね。主の生活を守り、またある時には主の身を守る。ハヤトさんの居た世界で言う、家政婦とSPを足して二で割ったようなジョブです」

ふむ、なるほど。

「それじゃあ次に、なぜもう隷属しているんだ?」

しかも、すでに(愛)だ。

「そりゃあ、彼女がハヤトさんの事を主人と認めたからでしょう。隷属スキルの発動条件は色々ありますけど、今回はレアケースです」

つまり、ミリィ自身が奴隷になることを望んだからってわけか。

確認するようにミリィを眺めていると、なぜか頬を赤らめて目を逸らされた。

……最後の質問だ。

「被虐体質って、なんだ?」

むしろ、これが今回もっとも気になっていたことだ。

名称もさる事ながら、効果が全く分からない。

それどころか、マイナススキルなのかどうなのかも分からない。

「それは、パッシブスキルですね。私も見るのは初めてですけど、『相手から与えられる苦痛を軽減する』らしいです」

リゼルがどこからか取り出した冊子を見ながら解説してくれる。

つまり、そういう気質ってことで良いのか?

「まぁ、概ねそれで良いと思いますよ。夜の生活にも効果があるみたいですし」

……エロスキルじゃないか。

チラッとミリィを見ると、なぜか照れられてしまった。

この子の考えていることがイマイチ良く分からない。

「そもそも、童貞のハヤトさんに女の子の気持ちなんて分かりっこないでしょう」

まぁ、そうなんだけど……。

それにしても、あんまり女の子の前で童貞童貞言わないでくれないか?

「別に、ハヤトさんが童貞でもなんの問題もないでしょう」

「そうそう。私には関係ないし」

「わ、私も経験ないから大丈夫ですっ。一緒です!」

口々にそう言われて、なんだか泣きそうになってくる。

ともかく、これ以上この話をしていても実りはないので話を戻そう。

「戻すったって、これ以上突っ込むところなんてないでしょう」

「別にここは、ミリィのステータスに突っ込もうの会じゃないだろ。他にも話すことはある」

たとえば、今後の方針とか。

正直、今回は被害が多すぎた。

「そうかしら? あれくらいなら想定の範囲内じゃない?」

「想定の中でも最悪寄りの、な」

ゴブリンの約半分が殺されて、残りの二割が負傷してしばらく使えない。

しかも、分断に使った降下天井は元に戻すのにもポイントを使ってしまった。

二回目に使った奴は放置しておいても良いだろうが、最初の奴は入り口付近で使ってしまったから戻さない訳にはいかない。

それだけで、殺した冒険者一人分くらいのポイントが飛んでいってしまった。

この戦闘によって得たものは冒険者の女ひとりに、男を殺したことで得たポイントから必要経費を差っ引いた300ポイント。

それから目の前にいる可愛い可愛い獣人娘だけだ。

これからダンジョンを経営していく上で、これじゃ心許ない。

「まぁ、ゴブリンを増やすためには一人じゃ到底足りませんしね」

「そう言うものなの?」

「人間一人が一度に産めるのは、せいぜい5匹まで。それに、時間が掛かる」

って、書いてあった。

「そうですねぇ。ゴブリンの妊娠期間は短いですけど、それでも五日に一回程度でしょう」

それなら、もっと強いモンスターを召喚してそれをコツコツ増やした方がはるかに建設的だ。

「かと言って、強いモンスターを召喚するにはポイントが心許ないですし」

「これじゃあ、最悪は次の襲撃で負けてしまう」

しかも、帰ってこない冒険者を探す為にこの間より強い者が来る可能性だってある。

準備期間が二、三日あるだろうけど、それではたぶん時間が足りない。

切り札のネールも、出来るだけ使いたくないのが本心だ。

「だけど、出し惜しみしてる場合じゃないわよ」

確かにその言葉にも一理あるけど、例えネールを使って撃退しても次はもっと強い奴が来るだろう。

そうすれば、いくらネールだってタダじゃ済まないだろう。

できることなら、ネールを危ない目に遭わせたくないしな。

「甘いですねぇ。まっ、そこがハヤトさんの良い所なんでしょうけど」

やれやれと肩を竦めながらも、リゼルに文句はないらしい。

「だけど、それならどうするんです?」

話についてこれていなかったミリィも、何とか理解できたみたいで質問をしてくる。

そう、それなんだよな。

あれは嫌、これは駄目、ではなにも決まらない。

腕を組んで考え込んでいると、どこからかクゥーっと可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。

顔をあげると、真っ赤な顔をしたミリィがお腹を押さえて怯えている。

その表情は、今にも怒られる事を恐れているみたいでなんとも可哀想だ。

一度ついてしまった習慣は、なかなか消えないんだろうな。

ここにはそんな事で怒る人間はいないと言うことを、少しずつ教えていくしかないな。


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