「うん、美味しい。やっぱりポテチはコンソメが一番美味しいわ」
「……お前、それで三袋目だろ? 間食はあまり身体に良くないぞ?」
「大丈夫。うち、骨皮筋子ってあだ名つけられるくらい痩せ型やから」
「俺が言いたいのはそういうことじゃ……。ていうか、何だそのあだ名? 今度、そのあだ名で呼ばれたらそいつを店まで連れてこい」
太陽が西に大きく傾き燃えるような茜色に染まる頃――。
うちとリョウは再び、廃墟となったラブホテル・キャッスルランドの駐車場に車を停めていた。
いわゆる、ハリコミと言うやつ。
刑事ドラマなんかでよくやっている、あれ。
夜の廃墟なんて一人では絶対に訪れたくない場所だけど、リョウがいてくれたら大概のことは何とかなるだろうという安心感があったし、二人でペチャクチャ世間話しながら食べる小豆サンドは美味しかった。
と、うちのスマホが鳴った。
メッセージの着信を伝えるBGMだった。
「あ、ごめん。ちょっと確認するわ……」
リョウにそう断りながら素早くアプリを立ち上げて内容を確認。
差出人はユカリだった。
『キミちゃん。今日は残念だったね。みんなもやっとキミちゃんと遊べると思ってたのに、って言ってたよ。私も相談に乗るから、今度、みんなに何か埋め合わせを考えようね!』
文面からうちのことを気遣ってくれるユカリの気持ちが伝わって来る。
思わずウルッと来たが、埋め合わせをしようとの提案に少し考えこんでしまう。
具体的にどんなことをすればいいんやろ?
例えば――童ノ宮をみんなでお参りする、とか?
ユカリのメッセージになんと返信しようかと考えあぐねていると、
「……おい、あれを見ろ」
運転席に身を沈めていたリョウが囁くような声を発する。
思わずうちは息を飲んでいた。
ほんの一瞬だったから影しか見えなかったけど――、誰かが建物の裏側へと歩いていくのが見えた。うちとリョウは正面から正々堂々侵入したから気がつかなかったけど、勝手口か何かがあってそっちに回ったのかもしれない。
そう思った瞬間、うちは全身の筋肉が強張るのを感じた。
呼吸が荒くなり、鼓動も高鳴る。背中の真ん中あたりからドッと冷や汗が溢れてくる。
緊張を覚えるのも当然と言えば当然だった。
これからうちは自らその命を断とうとしている人間と直面することになるのだから。
今更だけど、人の生き死にを目の当たりにするのは辛い。
あればかりは何度経験しても慣れることはないと思う。
「……怖いなら無理することないんだぞ」
うちを一瞥し、リョウが言った。
「俺がひとっ走りして馬鹿を捕まえてくる。キミカはここで待ってろ」
「ア、アホなこと言わんといて」
声をうわずらせながらもうちはリョウを睨む。
「何べんも同じこと言わせんといてよ。今回、直接、神様に頼まれたんは――」
「わかった。そこまで言うなら好きにしろ」
明らかにムッとした様子で遮るようにリョウ。
だけど、と言葉が続けられる。
「万が一、モウジャや怪異の類が現われたら――キミカ、お前は逃げろ。俺のことはもちろん、童ノ宮の頼み事も全部、放置でいい」
思わず、うちはリョウを見返す。リョウもうちを見ていた。
そこには揺るがない意思が光となって宿っていた。
「約束しろ。さもなきゃ、このまま家に連れて帰る。誰がどうなろうと俺の知ったことじゃないからな」
「こ、この期に及んでそんなこと……」
「俺は本気だ。約束しろ。――分かったな、キミカ?」
リョウの圧が強くなり、うちは言葉を詰まらせる。
急に頭を押さえつけられるのは正直、愉快じゃなかったけどこういう態度を大人が取る時、考えなしに逆らうのは得策じゃないことも知っていた。
だから、
「……わかった。……約束する」
渋々ながらもうちはうなづくしかなかった。
「本当だな? もし、ウソだったらデコピンするからな」
「しつこい! わかった言うてるやろ!」
思わず声を荒げながらうちはシートベルトのロックを外していた。