それは凄惨なんて言葉では表現できないくらい、酷い光景だった。
ライセサマの舌は硫酸でも分泌しているのか、一舐めする度にキミカちゃんの顔がズタボロになっていった。
とてもじゃないけれど、いつもの私なら正視し続けることはできなかったと思う。
吐き気を覚えながらも、それでも目を離すことができなかったのは自覚があったからだ。
キミカちゃんが今、殺されるよりも酷い目に遭わされているのは私のせいだって。
こんなはずじゃなかった。
私は自分だけが綺麗にこの世から消えればそれで丸く済むと思っていた。
だけど、現実は……。
その時、キミカちゃんが吠えた。
それは言葉になっていなかったけれど、キミカちゃんの小さな身体からは想像がつかないほど、大きな声だった。
キミカちゃんは怒っていた。
キミカちゃんは抵抗していた。
ライセサマの拷問にも屈することもなく。
思わず涙が出た。
だけど、この涙はさっきまでと違い怖いからでも悲しいからでもない。
悔し涙だった。
一体、私は何をやっているんだろう?
キミカちゃんがあんなにも必死で戦っているのに。
確かに私は自ら命を断とうとした。
パッとせず、逆転の見込みもない人生から逃げ出したかったから。
だけど、私を死に導こうとしたものの本性を知り、やっと理解できた。
私は死にたいわけじゃなかった。
むしろ、その逆だった。
本当は私、ちゃんと生きたかった。
だけど、そんなことできないと決めつけて、自分を直視することが怖くて……。
だから、あんな下らないゲームに洗脳され、自分を壊す卑屈な快楽に負け続けた。
と、ライセサマがチラリと私を一瞥し――フン、と鼻を鳴らしそっぽを向く。
私などいちいち構う価値もないということか。
それも当然なのかもしれない。この化け物から見て、私などいつでも息の根を止めれるチョロい獲物なのだ。
と、その時だった。
「唱え事を行い……、我に帰依せよ……」
頭の中でそう呟く声が聞こえた。
それはお婆ちゃんの声、だったような気がする。
続いて頭の中で閃いたのは、ウサギのぬいぐるみのラビ太。
私が自分で火を放ち、燃やしてしまった。
ライセサマの口車に載せられるぐらい、私が馬鹿で弱かったからだ。
ごめんなさい。本当にごめんなさい……。
大切なものを自分で踏みにじった私はここで死んだっていい。
ライセサマのあまりにおぞましい姿に怖じ気づいただけで元々死ぬつもりだったんだから。
だけど、その子は――、キミカちゃんだけは……!
床に横たわったまま、私は血に染まったまま雄叫びをあげ続けるキミカちゃんに手を伸ばしていた。
そして、唱え事をする。
たった一度、キミカちゃんに聞かされただけで意味も分からないのに——
自然に、そしてよどみなくその詞は私の口からついて出ていた。
オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ。
オン ヒラヒラ ケン ヒラケンノウ ソワカ。