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メールの下書き

※2030年■月■日に発見された白虎機関傘下の寺院「救衆院」に逗留中だった、浜田ジュンイチの部屋から発見されたタブレットに下書きされた書きかけのメール。

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キミカちゃんへ。

この間は僕の誕生日にみんなで来てくれてありがとう。


キミカちゃんもそうだけど、シロウとタカも相変わらず元気そうで安心しました。


早いもので、僕がこのお寺でお世話になって5年にもなります。


……あの時は、まるで自分がホラー映画のなかにいるみたいで、あれよあれよと言ううちに物事が進んでいくのがすごく怖かったけれど、今となってはここに来れて良かったなって思います。


キミカちゃんには今さらなお話だけど、ここ、救衆院では日本全国から怪異に苦しめられる人達が集められ、必要な措置を取っています。


ちょっと仲良くなった人たちの話をすると――


例えば大阪から来た中小企業の社長さんは商売敵に恨まれ、目には見えないイタチにいつも体のあちこちを引っかかれているし、元ホステスさんのおねーさんは半人半獣の姿形をした生霊とその本体であるストーカーの両方に怯えています。この間、東京からやって来た小学校一年生の男の子は餓鬼に憑かれ、自分の家族を食べてしまったそうです。


すごいと思ったのは、この人達は僕と同じぐらい、いや、ひょっとしたらそれ以上に怖い想いをしているかもしれないのにどの人もいつか、自分はいきて元の生活に戻れると思っているところです。


……嫌味じゃないよ?


キミカちゃんには釈迦に説法だと思うけど、何かを信じられるということは力だと思います。


だから、僕も信じたかったんです。いつの日か、キミカちゃんやキミカちゃんのお父さん、ライシンさん、このお寺でお世話してくれるスタッフの皆さんのおかげで家に帰れるって。


だって、あいつらしつこすぎるんだもん。


お清めやお祓い、御祈祷を受けるたびにあいつらは僕から遠ざかるけど――、また時間が経てば同じことの繰り返し。

あいつらは姿形こそ人間に似ているけど怪異だ。自然災害と同じように僕ら人間に害をもたらす。どんなに頑張っても切りがない。


だから僕は完全につかれてしまいました。


そう思うと自分の中でも何かが吹っ切れて、少し楽になれたような、力を抜くことができたと思います。

いつどんな形でそれが僕に訪れるかはわからないけれど、いつかは必ずおいつかれる日が来ます。


だから、僕はそうなる前に――、童ノ宮の神様に身を委ねようと思っています。


キミカちゃんには言い出しにくかったんだけど、最近、僕も視界の隅とか物陰の中にとかボンヤリ見えるようになっています。

天使みたいな笑顔を浮かべた子ども……。鷲のような大きな翼を背中に生やした稚児姿の男の子が。


だけど……。


嫌だ。やっぱりまだ逝きたくない。


キミカちゃんにも話したよね?


僕には将来やりたいことやチャレンジしたいことがやまほどあるんだよ。

それなのにもう時間切れなんて。


こんなことならあの日、あの公園に入ったりしなければ


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※同室には大量の血痕および脱ぎ捨てられたと思しき浜田ジュンイチの衣服が残されていたが、浜田ジュンイチ本人は未だに発見されていない。



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