わたしと美紅との出逢いは大学に入りたてのキャンパスだった。
小春日和のメイン通りに立て看板が立ち並び、各サークルのメンバー達が新入生を勧誘するための呼び込みとビラ配りを行っていた。
そのうちの一人がわたしに声をかけてきた。
「きみ、いい体格してるね。陸上部に入らないか?」
わたしは
わたしは声を掛けてきた小柄な坊主頭の大学生を一瞥した。
「いいですよ。だだし練習に出なくても構わなければですが」
上級生は珍しい生き物でも見るかのように長身のわたしを見上げた。
「きみ、もしかして
わたしはモジャモジャ頭を掻きながら苦笑した。どうやら大学の運動部全体にわたしの名前が知れ渡っているようなのだ。
「はい、そうですけど」
「やっぱりそうか。それじゃあ名前だけでも入れてくれないかな。学長からもそういうお達しだから。なんでもきみは史上最強の
わたしはある有力者の
わたしはその後孤児として育てられた。よくある話で中学、高校とわたしはグレていた。それでも運動神経だけはよかったので、高校の担任に半ば強引に野球部に所属させられたのだった。
もちろん野球部の顧問が難色を示したのは言うまでもない。問題児をかかえて、もし暴力沙汰でも起こされた日には、甲子園出場の夢が
ところが名前も顔も知らない父親の圧力があったのだろう。校長の一声でそれは一蹴された。当然のことながらわたしは練習には参加しなかった。それでも試合がピンチになると、監督は渋々わたしを代打として起用したのだった。
ところが意に反してわたしの放った長打がチームに勝利をもたらし、全校あこがれの甲子園で上位を獲得することができたのだった。
「ねえきみ。うちの部に入らない?」
そのとき背後からわたしの
「ちょっと!」坊主頭が眉をつり上げた。「中研は後にしてくれないか。いま彼と交渉中なんだ」
「チュウケン?」
わたしはドギマギして女子大生の顔を見つめ直した。
「中国語研究会よ」彼女は健康的な白い歯を見せて笑った。「主に留学生と交流したり大学対抗の弁論大会に参加したり、学祭で中国語劇を披露したりする活動を行っているの。いま世間ではもっぱら“これからは中国が世界をリードする時代が来る”なんて言われているのよ」
坊主頭が割って入る。
「バカ。このひとが文化部になんて興味があるわけないだろう?」
「ちょっと待った」わたしは男子学生を掌で制した。「あとで名前を書くから。それでいいよね」
男は挑むような目をわたしに向けた。
「ああそれなら・・・・・・絶対に約束だぞ」
男は手を振って次のターゲットを探しに雑踏の中へと紛れて行った。
「あのう・・・・・・」
わたしは彼女に向き直った。
「さあ、行きましょう」
女は強引にわたしの袖をつかんで歩き出した。