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第三話 握手

 実はこれまでわたしは女性とまともに口をきいたことがなかったのだ。もちろんこんなにグイグイ引っ張られたこともない。

 わたしは学生会館の喫茶室に、まるでのっぽの宇宙人がNASAの取り調べ室にでも連行されているかのような格好だった。四人掛けの白い丸テーブルに差し向かいで腰を掛けると、美紅は獲物にとびかかるオオカミのような挑戦的な目でわたしの瞳をじっとのぞきこんだ。

「わたし菅沼美紅っていうの。二年生よ。中研で語学研修をやっているの。あなたは?」

「慎一・・・・・・風間慎一」

 いささかこの時わたしは緊張していた。

「慎ちゃんね。よろしく」

 そう言うと、美紅はわたしに握手を求めてきた。わたしはてのひらの汗をズボンでゴシゴシぬぐってから女の手を握りかえした。その瞬間、どこかで天使たちが吹くファンファーレの音が鳴り轟いたかのような幸福感が全身を包みこんだのだった。

「陸上部のほかにはどこに入ったの?」

「ええと・・・・・・野球部、剣道部、アメリカンフットボール部、水泳部、バレー部、それにバスケット部だったかな」

「あきれた」美紅が目を丸くした。「それ全部どうするつもり?」

「だいじょうぶです。練習には出ないことになっているし」

「はあ?じゃあなんで入部したわけ」

「そういう約束だから」

「誰とよ?」

「理事長と学長」

「それどういうこと?」

 美紅は驚いた小動物のような顔をして首をかしげた。

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