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第四話 理事長室

 老人達の前でわたしはふてくされた顔をして突っ立っていた。


「風間くん。分かっているとは思うが」上品な白髪の理事長がデスクに座って書類に見入っている。「きみの学力で、うちの大学に入ることは到底できなかった」


「はい」


 わたしは学長に呼ばれて理事長室に立たされていたのだ。


「しかしだ・・・・・・スポーツ特待生であれば話は別だ。うちの大学の名声を世間に知らしめてもらえると嬉しいのだが」


「野球部に入れということですか。それは父の意向ですか?」


「そうだ。だが残念ながらきみのお父上はもうこの世におらん。きみが入学した後、すぐにお亡くなりになられたのだ」


 そうだったのか・・・・・・。


「・・・・・・もしお断りしたら」


「即退学だ」痩せ細った顔に黒縁眼鏡の学長が、細い目をさらに細くしてわたしを睨みつけた。「なんでもきみは、甲子園では代打でしか出場していないにもかかわらず、ホームラン数が出場校でトップだったそうじゃないか。打率にしたら8割5分3厘。こりゃ驚異的な数字だ」


「でも・・・・・・」


 学長がさらにたたみ込むように言った。


「なのにきみは練習が嫌いなんだって?」


「まあ・・・・・・」


「なら所属だけしたまえよ。その代り野球部以外の声のかかった部すべてにだ。各顧問にはピンチになったらきみを起用するよう伝達しておく。いわゆる助っ人外人みたいなものだな」


「よろしくたのむよ」理事長は興味を失ったという顔をして書類から目を離した。「帰ってよろしい」


 わたしは奥歯を噛みしめてうつむいた。


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