目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第四話 理事長室

 老人達の前でわたしはふてくされた顔をして突っ立っていた。

「風間くん。分かっているとは思うが」上品な白髪の理事長がデスクに座って書類に見入っている。「きみの学力で、うちの大学に入ることは到底できなかった」

「はい」

 わたしは学長に呼ばれて理事長室に立たされていたのだ。

「しかしだ・・・・・・スポーツ特待生であれば話は別だ。うちの大学の名声を世間に知らしめてもらえると嬉しいのだが」

「野球部に入れということですか。それは父の意向ですか?」

「そうだ。だが残念ながらきみのお父上はもうこの世におらん。きみが入学した後、すぐにお亡くなりになられたのだ」

 そうだったのか・・・・・・。

「・・・・・・もしお断りしたら」

「即退学だ」痩せ細った顔に黒縁眼鏡の学長が、細い目をさらに細くしてわたしを睨みつけた。「なんでもきみは、甲子園では代打でしか出場していないにもかかわらず、ホームラン数が出場校でトップだったそうじゃないか。打率にしたら8割5分3厘。こりゃ驚異的な数字だ」

「でも・・・・・・」

 学長がさらにたたみ込むように言った。

「なのにきみは練習が嫌いなんだって?」

「まあ・・・・・・」

「なら所属だけしたまえよ。その代り野球部以外の声のかかった部すべてにだ。各顧問にはピンチになったらきみを起用するよう伝達しておく。いわゆる助っ人外人みたいなものだな」

「よろしくたのむよ」理事長は興味を失ったという顔をして書類から目を離した。「帰ってよろしい」

 わたしは奥歯を噛みしめてうつむいた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?