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第六話 親友

「菅沼さんて、彼氏とかいるのかな?」


 わたしはそれとなく親友に尋ねてみた。


 彼の名前は三郷祐二みさとゆうじと言う。クラスメイトで同じく中国語研究会の部員でもあった。彼もわたしと同じぐらい長身だった。そのせいか体育の授業でもわたしとワンセットで扱われることが多く、自然と言葉を交わすようになったのだ。


 三郷とキャンパスを歩いていると、ほとんどの女子が我々に振り向いた。それほど三郷はいい男だったのだろうか。たしかに三郷は色白で当時流行ったトラッド・ファッションに身を包み、長い髪を風になびかせて颯爽と歩いていたのは覚えている。


 それに引きかえ真っ黒な顔でもじゃもじゃ頭でいつも汚れたスタジャンにジーンズ姿の野暮ったいわたしとは正反対だったのだ。


「語学指導の美紅先輩のことかい。きみはああいうタイプが好きなの?」


「ええと・・・・・・何て言ったらいいのか。ただなんとなくな」


 母の面影に似ているからとは恥ずかしくて言えなかった。


「そうか。それなら急いだほうがいいぞ」


「なんで?」


「先日校舎の影で、美紅さんに手紙を渡しているやつを見かけた」


「ほんとうか?」


「よく分からんが、彼女ああ見えて結構モテるらしいぞ」


「そうなのか?」


「知らん。慎もアタックすりゃいいじゃん」


「どうやって?」


「東都リーグで彼女に予告ホームランのプレゼントをするとか、箱根駅伝で区間賞のインタビューでテレビに向かって愛の告白なんてのはどうだ。今じゃきみはうちの大学じゃ有名人だしな」


「馬鹿も休み休み言え。そんな恥ずかしいことができるか」


「ならラブレターでも書けよ」


 その後、三郷に言われた通りわたしは美紅に手紙を渡し続けた。


 そのほとんどが当たり障りのない冗談めかした内容だったから、彼女にしてみれば、出来損ないの後輩が悪ふざけをしているぐらいにしか思わなかったのだろう。


 もちろん時々ふざけてアプローチめいたことを書いて彼女の反応を伺っていた。あの頃のわたしは、それほど美紅に振られるのが怖かったのだ。


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