レオ兄様を襲おうとした賊が自害しただって?
爺やの一報に私が首をかしげていると、アオイとヒイロがサッと目配せをし、顔色を変えた。
「賊が自殺?」
「一体どうして……」
アオイとヒイロどうしたんだろう。
不思議に思いつつも、私は爺やに尋ねた。
「ってことは、レオ兄様を狙った黒幕は分からずじまいってことなの?」
「そうなの?」
モアが身を震わせる。
「ではまたいつ狙われてもおかしくないわね」
アビゲイル義姉様もハンカチで口元をぬぐいながら眉根を寄せる。
「ああ、そう?」
だが当のレオ兄様ときたらとぼけた顔だ。
全く、自分が狙われているというのに呑気なものだ。
私があきれながらお兄様の顔を見ていると、不意にアオイが手を挙げた。
「そういうことでしたら、姉にその死体を見せて頂けませんでしょうか?」
「えっ、ヒイロ様に……でございますか?」
困惑した表情の爺やに、アオイはにっこりと笑ってこう言った。
「ヒイロ姉様は透視能力の持ち主なのですわ」
へえ、透視能力……。
私がヒイロの顔をチラリと見ると、ヒイロはいきなり自分の右目を押さえだした。
「ふふ……どうやら私の暗黒邪鬼魔眼を見せてやる時が来たようだな……」
足を組み換え偉そうにするヒイロ。
えっと……中二病かなにかですか、あなた。
「えっと……姉は魔眼により、生前の記憶を読み取れるのです」
私たちにヒイロの能力をかみ砕いて教えてくれるアオイ。
「魔眼! いいなー、カッコイイ!!」
レオ兄様まで目を輝かせる。
こいつの知能はきっと小学五年生辺りで止まっているに違いない。
その反応に、ヒイロは気を良くしたように鼻で笑った。
「ふん、当然だ。私の力、見せてやる」
……魔眼ねえ。
どうにも半信半疑のまま私たちは食事を食べ終えた。
食事が終わると、私とモア、そしてヒイロとアオイは爺やの後について、賊の捕らえられていた地下牢へと向かった。
「……で、どうしてミア様とモア様までいらっしゃるので?」
爺やがあきれ顔で私たちを見るので、私は頭をポリポリ書きながら答えた。
「どうしてって……なんとなく、魔眼が見たくて。モアは?
」
私の問いに、モアが答える。
「決まってるでしょ、お姉様が他の美少女といちゃつくなんて許せないもの!」
いや、ただ単に自殺した賊を見に行くだけで、いちゃつく要素なんてこれっぽっちもないんだけど。
「全く、お二人とも、遊びではありませんぞ」
眉を寄せしかめっ面をする爺や。
「まあまあ、怖そうだったらすぐに帰るよ」
「私も遠くからちらっと見たら帰る」
そんな話をしながら地下牢へと続く階段を降りると、さっそく私たちは暗殺犯の死体と対面した。
「ウッ」
苦しげな顔の遺体を見て、私は少し吐きそうになる。
「お姉さま~、怖い~!」
だが、モアが柔らかな体を押し付けて抱きついてくるので、私は一瞬にして気分が良くなった。なんて柔らかくていい匂い!
「どいて」
モアの匂いを嗅いでいる私を押しのけてヒイロが遺体に近づく。
そしてカッ、と目を見開いたかと思うと、ヒイロの目が炎のようの赤く輝き出した。
すごい、これが魔眼か。何が起きてるのかさっぱり分からないけど!
ヒイロはしばらく赤い瞳でしたいと見つめ合うと、紙にサラサラと何かを書き始める。人の似顔絵のようだ。
「どうやらこの人物が殺しを依頼したみたいだ」
ヒイロが爺やに似顔絵を渡し。
「これは」
すると似顔絵を受け取った爺やの顔がみるみるうちに青くなり、表情が固まった。
「どれどれ、どんな奴?」
私も横からのぞき込むと、そこには金髪で髭を生やした細面の男の絵があった。この顔、どこかで……。
私が首をかしげていると、横でモアが蚊の鳴くような声を上げた。今にも倒れそうだったので、私は背中に手を回し支える。
「嘘でしょ、グンジ叔父さんが」
グンジ叔父さん?
モアの声に、私はもう一度似顔絵を見た。
言われてみれば、その似顔絵は先代国王、つまり私たちの親父の弟、グンジ叔父さんに似ていなくもない。
「まさか。なんで叔父さんが?」
「でもありえるね。あのおじさんのことだ」
私はあの細面のギラギラした瞳を思い出した。
いつも父上や兄さんを馬鹿にした態度をとって、私やモアを舐めるような目で見ていた叔父のグンジ。
はっきり言って私はあまりグンジ叔父さんが好きではない。でも……。
「そうだな。陛下が居なくなれば次の王になるだろうし、動機もある」
ヒイロが無い胸を張りながら言う。
「ですが、透視結果だけでは証拠になりませんぞ」
爺やが神妙な顔をする。確かにそれだけじゃ証拠としては弱い。
その時、私の頭に妙案が浮かんだ。
「みんな、聞いて。私にいい考えがある!」