私の考えた妙案。それはこうだ。
「グンジ叔父さんの家に忍び込んで暗殺未遂の黒幕である証拠を見つけよう!」
私はみんなの前で叫んだ。いい案だと思ったんだけど、爺やや双子の反応は鈍い。
えっ、いったいどうして?
私が困惑していると、モアが恐る恐る口を開いた。
「お姉さま、危険よ。それに、もしグンジ叔父さんが無罪だったら?」
モアまで……どうして?
私は大きく手を広げてなるべく明るい声を出した。
「大丈夫だよ、危険なことなんてないし!」
すると爺やが眉間にしわを寄せ盛大なため息をつく。
「姫様、あなたがあれこれ首を突っ込むこと自体が無謀で危険なのです」
「なんでよ、爺や!」
「ミア姫様、お疲れのようですので部屋に戻って休まれては?」
爺やの言葉に、みんながうんうんと頷く。何だよみんなして。
結局私は納得できないままみんなに連れられて無理やり部屋へと戻った。
*
「……ってこら! なんで閉じ込めるの!!」
私は自室のドアをドンドンと叩いたけれど、ドアはびくともしない。
どうやら爺やが、私が部屋に戻った隙にドアに板を張って開かないようにしたらしい。
そこまでする?
「なりませぬぞ姫様! 叔父上殿の城に忍び込もうなどと考えては! その件に関してはヒイロ殿とアオイ殿に頼みましたゆえ、姫様は黙って城にいてください!」
ドアの外から爺やの声が聞こえる。
城で黙ってろって?
何でうちの家族のことなのに、部外者のヒイロとアオイに頼んで、私が出て行っちゃだめなのか納得できない。
レオ兄さんとこの家……ひいてはこの国のピンチなんだよ?
この国の姫である私が何とかしようと思って当然じゃない?
「ふんっだ。爺やのいじわる!」
私はゴロリとベッドに横になった。
ダイヤ温度があしらわれたシャンデリアがキラキラと揺れている。
しばらくして、部屋の外から気配がしなくなった。爺が他の用事か何かで外出したのだろう。
「ふん、爺やなんか知るもんか!」
私はズカズカと部屋のドアに近寄った。すう、と大きく深呼吸をする。そして――。
「せいやっ!」
私は部屋の扉に向かって思い切り正拳突きした。
――バキッ。
威勢よく木の割れる音。見るも無残に破壊されるドア。砕け散った板の隙間から、廊下の向こう側が見えた。
「よいしょっと。こんなの簡単簡単」
私は扉に空いた穴に身をくぐらせ、部屋から難なく脱出することに成功した。
「さて、ここからどうやって城の外に出るかな」
私は渡り廊下の窓から外を見た。すると一台の馬車が今にも城の正門に向かって走り出そうとしていた。
あれはもしや、ヒイロトアオイか!? さては叔父さんの家に出発するつもり!?
私は窓を開けると、外へと飛び降りた。邪魔なドレスをたくしあげ、ひらりとそのまま一階の屋根に着地。そして屋根の上を全速力で走り抜けた。
すたたたたたた。
転生の際に女神に貰った脚力を生かし、屋根の上を軽やかに走り抜ける。頬に当たる風がすがすがしい。
「でやっ!」
城の端まで来ると、私は勢いをつけて、馬車に向かってジャンプした。
私恵まれているのは握力や走力だけじゃない。ジャンプ力もなかなかのものだ。風を切って空を飛ぶ私。スカートがバタバタとはためく。
エントランスの屋根から馬車の屋根へ、少しよろめきながらも無事着地を果たした。
だが――。
「おのれ、なに奴!」
馬車の中からブスリと刀の切先が顔を出す。私はそれをひょい、とジャンプしてかす。
ひえっ、危ない!
「しくじったか」
着地地点からすぐ先に、またもや刀が顔を出す。この声はヒイロ!?
「おわっ、ち、違う! 敵じゃない。私だよ! 私、私!」
「私私言うやつは大抵詐欺師と相場が決まってる」
「違ーーう!」
私は必死で叫んだが、刀の嵐は止みそうにない。
ついには板張りの馬車の天井は穴だらけになり、私の体の重みで天井は崩れ落ちた。
「わーーっ!」
私は無様にもお尻から馬車の中に転がり込んだ。
「貴様は……まさかミア姫?」
私に向けていた刀を下ろすヒイロ。まさかじゃないでしょ、あんた、最初から知ってたでしょ。
私がじろりとにらむと、ヒイロはふん、とそっぽを向いた。
もう、どうなってるの!?