「ふう、えらい目にあったわ」
私は一息つくと馬車の中を見回した。
馬車の中にはヒイロとだけでなく、なぜか狙われている当の本人のレオ兄様とアビゲイル義姉様までいる。
「レオ兄様まで行くの? 命を狙われているのに大丈夫なの?」
私が尋ねると、レオ兄様はにぃと口の端を上げた。
「ああ。お前の案はグンジ叔父さんの家に忍び込み証拠を手に入れるというものだったが、どうせなら直接乗り込んでやろうと思ってな」
ヘラヘラした顔で笑うレオ兄様。本当に大丈夫なの?
「のこのこ殺しに来たところを現行犯逮捕するつもりよ」
アビゲイル義姉様まで楽しそうに笑う。
「そんな危険な提案、よく爺やが承諾したね」
私なんて、部屋のドアに板まで張られていくのを阻止されたのに。
納得がいかない気持ちで尋ねると、レオ兄様は軽くウインクしながらこう言った。
「誰かさんが上手いこと爺やを引き付けてくれたからな」
それってもしかして、もしかしなくても……私のこと!?
くそっ、まんまと囮にされたってわけね。
「そういえば、アオイの姿が見えないけど、一緒じゃないの」
私はキョロキョロと馬車の中を見渡した。
馬車の中にいるのはヒイロとレオ兄様、アビゲイル義姉様、それとお伴の兵士二人だけだ。
「アオイには先にグンジ叔父さんの城に忍び込んで家探ししてもらっているわ」
アビゲイル義姉様が答える。
確かにアオイは、どこかに忍び込んだりとかそういうのが得意そうだ。くの一みたいだもんな、あの子。
ヒイロがため息をつき、皮肉っぽい口調で言ってくる。
「いいですかお姫様、ついてくるのは勝手ですけれども、くれぐれも我々の足を引っ張らないように」
私はその言いぐさを聞き、ムッとしながらヒイロを見つめた。
「ミアでいいよ。脚は引っ張らない。そっちこそヘマするんじゃないわよ」
「当然だ」
ヒイロはぷい、とそっぽを向く。
「お姫様らしく、せいぜい部屋でおとなしくしていてるんだな」
もー! なんなんだよこの子は! あれか? 貧乳と呼ばれたことがそんなに気にくわないの? 可愛くないなあ、ホント!
そんなこんなで馬車は街を抜け、郊外の暗い森の中へと入っていく。グンジ叔父さんの城までもう少しだ。
やがて不気味な気配に包まれた灰色の大きな城が見えてきた。
尖った鉄製の門が、錆びた音をたてて開く。
私たちの乗った馬車が門をくぐると、バタン! と大きな音をたてて背後で門が閉まる。
「ようこそいらっしゃいました。レオ王子御一行さま」
頭を下げて私たちを出迎えてくれたのは、銀色の長い髪をツインテールにした、小柄の可愛らしいメイドさんだった。
目の周りが黒くてちょっとゴスロリっぽい派手なメイクだが、それがすごく似合っている。
私は家事をするのには不向きそうなフリフリの短いスカートとガーターベルトを凝視した。
な、なんてセクシーな! まさかグンジ叔父さんの趣味……なの?
「ああ。命を狙われてるみたいなんで、しばらくこの城に避難させてもらうぞ! よろしく! 可愛い子リスちゃん☆」
レオ兄様がヘラヘラした笑顔で笑い、メイドの手に口付けする。
全くもう、相変わらずだな。
このメイドが好みなのは分かるけど、少しは緊張感を持て!
だが美少女メイドは表情も崩さず無表情に私たちを客間に案内した。
「こちらへどうぞ。グンジさまはもうすぐお帰りになると思いますので、それまでごゆっくり休んでくださいませ」