頭の中が真っ白になる。
回らない思考の中、私は必死に考えを巡らせ、アオイがレオ兄様に押し倒されていた時のことを思い出した。
「あ、もしかしてあの時……?」
「そうだ、あの時に男だって確かめたんだ! ふー、ようやく誤解が解けてよかった!」
ええええええええ!? 本当に? 本当にアオイは男なの?
だって、どう見ても女の子にしか見えないし……どっからどーーみても美少女なのに!
すると、足元にいたムータが毛を逆立ててアオイを威嚇した。
おっぱいが大好きで、男の子が大嫌いなムータが……ということはやっぱり……。
「すみません」
アオイが頭を下げる。
「ま、しかたない。アオイはその辺の女の子なんかよりぜんぜん可愛いんだから」
ムータを抱き上げると、なぜか嬉しそうに勝ち誇った顔をするヒイロ。うう。みんなして騙してたの!?
すると黙って話を聞いていたモアが首をかしげる。
「でも『確かめた』ってことはその前からレオ兄様はアオイが男の子だって確信していたんだよね?」
モアが首をかしげる。そういえばそうだ。
全く、モアは可愛いうえに賢いときた!
レオ兄さんはニコニコしながら言う。
「最初からだよ。舞踏会の時、転んだアオイを俺は抱き留めたんだが、その時なんか男っぽいなって思ったんだ。ほら、男と女で抱き心地って違うじゃん? なんか関節とかがさ、がっしりしてるなって思ったんだよね」
うーん、そんなもん、なのかな?
「でもなんで、アオイは女装なんてしてるの」
私が聞くと、アオイの代わりにヒイロが答える。
「そんなの、可愛いからに決まってるじゃないか!! 男の子なのに女装してるっていうのが良いんだよ!!!」
血走った目のヒイロ。もしや、アオイはヒイロの趣味で女装してる??
「えっ? アオイはそれでいいのか?」
恐る恐る聞くと、アオイはにこりとしながら答えた。
「はい、私は何でも似合うので」
いや……いやいやいや! そういう問題?
「女装をすれば皆さん褒めてくださるので悪い気はしません。それに男物の服って、お洒落したくても色が黒とか茶色ばかりでつまらないですし」
「アオイは何でも似合うからな」
うんうん、とうなずきウットリとした顔をするヒイロ。
「というわけで、私は男だったわけなんですが、それでも、私のお姉さまでいてくれますか?」
アオイが潤んだ瞳で聞いてくる。
「それは……」
「駄目だ」
「駄目ーーーっ!!!!」
俺が返事をしようとすると、レオ兄さんとモアが割り込んでくる。
「男の子を側に置くなんて、絶対にダメだ!」
「そうだよ! アオイはお姉さま好みの女の子な上、男の子だからお姉さまと結婚できるんだよ!? そんなのずるいーーっ!」
詰め寄るモアとレオ兄さん。ちょ、ちょっと待て! 何かよくわからなくなってきた!
そんな二人の様子を見て、アオイは小さなため息をついた。
「大丈夫です、私とお姉さまはそういう関係じゃありません。私の好きな方は他にいるんです」
アオイが言うと、私たちよりも先にヒイロが食いつく。
「え? だ、誰よ!」
「それは……」
アオイの潤んだ目が、じっと見つめる。その視線の先には……。
「えっ」
視線の先にいた兄さんが固まる。
「レオ兄さん!?」
「あの夜、レオ様のたくましい腕に抱かれて、私、ドキドキしてしまって」
頬を赤らめながら言うアオイ。
「ちょちょちょちょっと待った!」
狼狽えるレオ兄さん。
「どどどうしよう。アオイは男で……でも女の子より可愛いし……そこまで言うのなら……イケるか!?」
「イケるか? じゃありません」
アビゲイル義姉さんが笑う。ちょっと、目が……目が怖い!
「だだだだだ駄目たわそんなの! そんな男の子同士だなんて……ああっ……!」
ヒイロはヒイロでなぜか興奮しだすし~!
「なあんだ! そうなんだ!」
モアは、ぱあっと顔を輝かせた。
「じゃあ、お姉さまとは」
「はい、単なる憧れの存在です♪ 格好良くて可愛いので」
アオイがそう言うと、モアはアオイの手をがっしりと掴んだ。
「そうだよね!? お姉さま、格好良くて可愛いの! やったー! これからは妹同士、仲良くしようね!」
「はい♪」
硬く握手を交わし合う二人。もー、訳が分からない……。
私はポリポリと頭を掻いた。
「分かったよ。アオイ、お前は俺の妹分だ。お姉さまでも何でも、好きに呼べ」
「わーい♪ ありがとうございます、お姉さま」
やれやれ。