「これだけで旅の資金に足りるかなあ?」
札束を数える私の手元を、モアが心配そうにのぞきこむ。
確かに私たちが王宮から持ってきた金額よりも、ルーラの財布に入っていた金額は少なそうに見えた。
わたしはチラリと気絶しているルーラの指を見た。
そこにはいくつもの高そうな指輪がきらめいている。
「そうだなあ。念のため、指輪とか貴金属もはぎ取っておくか」
私が言うと、モアも両手を挙げて賛成した。
「さんせーい」
私はルーラの指から、悪趣味極まりないバカでかいダイヤやルビーの指輪を抜き取った。こいつ、男の癖に何個指輪してるんだ。
「こんな古い指輪まで」
高そうな指輪や装飾品を奪い取った私は、最後に指に残ったのは古びた銅の指輪を見た。
他の指輪に比べて地味で錆び付いたその指輪は、上部に悪魔のような怪しげなデザインをしている。
なんだか他の指輪とは少し趣が違う感じだなあ。
私がじっと指輪に見入っていると、モアはその指輪を見てビクリと身を震わせる。
「お姉様……それ」
「モア、どうしたの? この指輪がどうかした?」
動きを止めたモアに私が尋ねるとモアは指輪を見て眉をしかめた。
「お姉さま、そんな悪趣味な指輪を持っていくのはやめようよ~。モア、なんだか怖い」
「えっ? そうかな。私は気に入ったよ、これ」
私はルーラの指から抜き取った指輪を、自分の右手の人差し指にはめた。
あの成金でがめついルーラがただの古くて汚い指輪をするわけがない。
そう考えると、この指輪はなんだかすごい魔力がするような気がするし、デザインは悪趣味だけどきっと由緒正しい指輪に違いない。
私がじっと指輪を見つめていると、モアは少し引いたような顔をする。
「えっ? お姉様、それ、指につけるの?」
「うん。そんなに派手じゃないし、中々パンクとかメタルみたいで格好良いって思ってさ」
「ぱ……ぱんく??」
モアが首をかしげる。
さすがに異世界にパンクはないか。
「あ、いや、ちょい悪な感じでかっこいいじゃん」
私は指輪をはめた手を目の前にかざした。
うん、格好良い。実は向こうの世界にいた時はドクロのついた指輪とか十字架のチョーカーとか集めてたんだよな。
だからこういう中二病的なアイテムって凄くワクワクするんだ。
「ふーん。まあ、お姉さまがそこまで言うなら」
モアは納得してないようだが、私はこの指輪が気に入ってしまったのでウキウキとこの戦利品を眺めた。
「……ん?」
その時であった。どこからか強い視線を感じたのは。
すぐさま振り向いて辺りを確認するも、周りには誰もいない。
「どうしたの? お姉さま」
「いや、気のせいか」
今、確かに誰かに見られていたような気がしたんだけど、きっと気のせいだな。
*
「あの、ありがとうございました!」
マロンが頭を下げる。
「本当にもう行ってしまわれるのですか? もしよろしければ、家に招待いたしますので、少し休んでいかれては」
折角の招きだが、一刻も早く隣国に行きたいし、警察が来たりしてボロがでて正体も大変だ。
「いや、先を急ぐんで」
「そうですか……」
私が断ると、マロンは残念そうな顔をした。
「いいわよ! 早く行きましょう、お姉さま!」
ふくれっ面をするモア。一体どうしたんだ、さっきから。
そうして、私とモアは、マロンに見送られ、ルーラの家から盗んだ馬にそれぞれまたがり、さっそうと大きな一本道を走って行った。
「あ~あ、ずいぶん身軽になっちゃったわ」
「でもモア、凄く楽しかった!」
モアがウキウキした顔で言う。
「あのなあ、一応大ピンチだったんだよ?」
私はため息をついた。もしかすると、モアは俺よりもずっと大物なのかもしれない。
この道をまっすぐ行けば関所のある街に着く。
関所を越えれば、そこはまだ見ぬ土地。
冒険者の聖地、木の都フェリルが私たちを待っているのだ。