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第31話

「さて、ここを抜ければフェリルだね」

「そうね、お姉様!」


 私とモアが隣国フェリルへと抜ける関所にたどり着いたのはその翌朝だった。


 私たちがわざわざ隣国、それもフェリルを目指すのには理由がある。


 まずはアオイに貰った名刺の店『始まりの酒場ロゼ』に行くため。


 それから冒険者になるにも、私たちの生まれ育ったエリスよりもフェリルのほうが冒険者協会の規模が大きい。


 そのため、依頼やクエストをこなすにしても、仲間を探すにしてもやりやすいこと。


 そして、いつまでも国内に留まっていたらいつ爺ややレオ兄様に見つかるかわからない。


 そんな理由で、私達は国境を超えるべく国境近くの町に来ていたのだった。



「いてててて」


「お姉さま、大丈夫ー?」


 私は背中と腰を押さえた。


 昨日、宿代をケチって安い宿に泊まったのが悪かったらしい。私は背中が痛めた背中を必死でさすった。


「関所を通る方はこちらに一列にならんでくださーい!」


 やがて関所の前で若い兵士が大声で呼びかける声が聞こえてきた。


「あそこみたいだね」


 私たちが声のする方へ行ってみると、関所の前には大勢の市民が押しかけていたのだ。


「最後尾はこの辺かな」


 とりあえず私たちは列の最後尾と思しき所に並んでみた。

 だけど列が動く気配はなく、全然順番が回ってこない。


「どうしてこんなに混んでるんですか?」


 私は前に並んでいた老婆に尋ねてみた。


「おや、あんた達知らないのかい? 二週間後に年に一度の大祭『薔薇祭り』がフェリルであるんだよ」


 どうやら祭りがあるせいで関所が混んでいるらしい。


「祭りは二週間後なのに今からフェリルに行くんですか?」


「早く行って場所取りしないといい場所は取られちまうし、宿も埋まっちまうからね」


「そうなんですねー」


 すると、私の腕をふいにモアが引っ張った。


「お姉さま、ちょっとこれ見て!」


 モアが指さしたのは、関所の壁に貼られた手配書だった。



『城から行方不明になった二人の姫を見つけた者に報酬100万エリ』


 その文字を読み吹き出しそうになる。

 私たちじゃないの、これ!


 100万エリといえば、庶民の年収の約三倍。

 これを見た国境の住人は血眼になって俺たちを探すだろう。


 似顔絵なので微妙に似てないが、金髪と銀髪の若い女の子二人組というだけで疑われるのに充分だ。


「おそらく爺やか兄さんのしわざかな......? 参ったね」


 とりあえず私たちは列を抜けた。このまま関所を通れば確実に見つかる。


 悩んだ末、私は町の市場で帽子を買い、髪を三つ編みにして伊達眼鏡をかけた。


 モアの銀髪もかなり目立つので茶色のウィッグを買い麦わら帽子をかぶる。


 うーん、茶髪になったモアも可愛い!


「これでなんとか国境を抜けられるといいけど」


 改めて関所の列に並ぶ。


 エリスは国の周囲を塀でぐるりと囲っているので、関所を通らなくては隣国に行けない。ここはなんとか無事に通り抜けたいところだ。


 一時間後、やっとのことで順番が回ってくる。


「はい、次の方、身分証明書を見せて」


 髭を蓄えた兵士が俺たちに尋ねる。


「へ?」


 しまった。身分証明書!


 よく考えれば分かることなのに、私たちは身分証明書を用意するのをすっかり忘れていたのであった。


「え、えーと、その、家に忘れてきて」


 しどろもどろになる私たちを訝しげな顔で兵士は見やる。


「何? 忘れただと?」


 ど、どうしようー!


 すると聞き覚えのある声が後ろから降ってきた。


「どうしたの? 先がつかえているけど」


「ハッ! お嬢様、すみません、この二人がどうも怪しいもので」


 兵士が姿勢を正す。


 振り返ると、そこには栗色のボブカットに、はち切れんばかりのぷるんぷるんのスイカバスト。


「マロン!」


 そう、立っていたのは、昨日ルーラの屋敷で一緒だったマロンであった。





「よしっと。ここなら誰も来ないと思うわ」


 私たちはマロンと共に、関所内にある取調室にやってきた。


 聞けば、マロンは国境沿いのこの町の領主の娘で、マロンのお兄さんは関所の長官も務めているのだという。


「びっくりしたわ。まさかあなた達が手配書のお姫様だなんて。でもよく見たら高貴な顔立ちだし、姫って言われても驚かないわ」


 うっとりした目で俺を見つめて手を握ってくるマロン。うう……顔が近い!


「姫様はやめろって」


 私が言うと、マロンは少し頬を染めて言った。


「じゃ、じゃあ、私もお姉さまとお呼びしますわ。お姉さま♡」


 なんでそうなるんだろう。


「もう、お姉様ったら女たらしなんだから……」


 モアは不満げ目で私を見てくる。な、なんだよ、私のせいじゃないってば!


「なあマロン、ところで何とかしてこの関所を抜けれないかな?」


 私がドギマギしながら尋ねると、マロンは胸を張りきっぱりとした口調で言った。


「方法はあるわ。私に任せて」


「ありがとう、助かるぜ、マロン」


「わーい! やったね、お姉さま!」


 私とモアが手を取り喜んでいると、ゴホンとマロンが咳払いをする。


「ただし、条件があるの」


 上目遣いで見つめるマロン。


「え? 何だ? 金なら――」


 マロンはもったいぶった顔をして顔を赤らめモジモジとすると、フフフ、と笑った。


「違うわ。私にキスしてほしいの。ね? 簡単でしょ? 女の子同士だし♡」


 頬を赤らめて身をよじるマロン。ぷるんぷるんと豊満なバストが揺れる。



 キ、キ、キス……!?



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