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第33話

『森と木の都・フェリルの町へようこそ!』

『ようこそ冒険者の聖地へ』


 リスやウサギの可愛らしいイラストをあしらった木の看板が、私たちを出迎える。


 木と森の都、というのはここフェリルの町が森に囲まれており、木材加工で有名だからなのだそうだ。


 そしてこの町には冒険者協会の本部がある。


 多くの冒険者がこの町を拠点に活動したり、この町から冒険者を始めるので、フェリルは別名「冒険者の町」だとか「始まりの町」とも呼ばれるらしい。


「へ~ここがフェリルかあ」

「エリスとなんか雰囲気が違うね」


 私たちは、完全にお上りさん状態でキョロキョロ辺りを見回しながら町を進んだ。


 露店の立ち並ぶ埃っぽい大通り。建物は森の近くだからなのか、ログハウスみたいな可愛い木造住宅が多い。

 玄関先には薔薇祭りのシンボルである真っ赤な薔薇や、薔薇の飾りで周りを縁どった鏡がかかっている。

 エリスにある住宅はほとんどがレンガ造りだったから、なんだか凄く新鮮だ。


「フェリルの町へようこそ!」

「お姉さん、フェリルの町名物・森のナッツまんじゅうはいかがっすかー!」


いきなり露天商に話しかけられ、私は思わずビクッと身を震わせた。


「えっ……いえ、私は先を急いでいるので」


 愛想笑いをして商人たちから離れる。

 お嬢様暮らしの箱入り娘だからか、どうにもこういうのは慣れない。


 ちなみにここフェリルの公用語は私たちの産まれたエリスと同じ北部言語と呼ばれる言葉で会話に支障はない。


 たまにイントネーションが違ったり原住民由来の知らない単語があったりもするが、文脈で判断できるレベルだ。


 通りでは薔薇祭りの薔薇飾りのほか、名物らしいナッツ類やドライフルーツ、フェリルまんじゅうやフェリルカステラ、オーナメントに何に使うのか分からない木彫りの熊なんかが売っている。


 子供たちが地元の民謡らしい歌を歌いながら元気よく通り過ぎていくのを、私とモアはほほえましい気持ちで眺めた。


「オルドローザが~言うことにゃ~、満月の夜~真っ白なドラゴン現れて~」


 最後の方は訛りがひどくて聞き取れなかったが、どうやらオルドローザの伝説について歌った歌らしい。


「わあ、何だか外国って感じ!」


 モアが目をキラキラと輝かせる。可愛いなあ、本当。


 私は一つの露天の前で足を止めた。薔薇をあしらったアクセサリーを売っているお店だ。


 可愛いペンダントや指輪、ピアスが沢山並んでいる。


「これ可愛いな。モアに似合うんじゃないか?」


 私が手に取ったのは小さな鏡の周りに赤い薔薇をあしらったピアスだ。ちょうど各家の玄関に飾っている飾りによく似ている。


「それは薔薇祭り限定アクセだよ。白やピンクもあるけどおそろいでどうだい?」


「おそろいかあ」


 鏡を縁取る赤い薔薇白い薔薇。それを見て、私はアオイとヒイロを思い出した。元気にしているだろうか。


「青い薔薇は無いんですか?」


 私が尋ねると屋台の兄ちゃんがそれを笑い飛ばす。


「馬鹿言うんじゃないよ。青い薔薇なんてものは存在しないよ」


 そうだっけ。私は向こうの世界で青い薔薇見たことがあるような気がしたのだが。


 もしかしてあれは品種改良された花で自然には生えないのかもしれない。


 残念だな。赤と青があればヒイロとアオイにぴったりなのに。


「じゃあ赤二個、白二個の四つ下さい」


「四つなの?」


 モアが不思議そうな顔をする。


「ああ、アオイとヒイロにも渡してやろうと思ってさ」


 私が答えると、モアは天使の笑顔でニッコリと笑う。


「そっか。会えるといいね!」


 その後も私たちは、しばらくアクセサリー売り場を物色した。


 そういえばモアは、城にいたころも何度か宝石商からアクセサリーを買っていたっけ。


 ここにあるのは城で買ったのとは全然違う安物だが、それでもモアは楽しいらしい。


「あっ、これも可愛い!」


 モアがドングリや木の実でできたネックレスを手に取る。

 よくよく見ると、本物の木の実ではなくガラスでできた偽物のようだ。


「これはね、オルドローザ様が森で迷った時にドングリを撒いて居場所を知らせたという伝説を模したものなんだ」


「へえ、これも買ってやろうか?」


「え? でも買いすぎじゃない? 大丈夫?」


 モアが心配そうな顔をする。


「イヤリングも買ったからおまけしてあげるよ! それにこれはね、防御力アップの魔法もかかってるから可愛いだけじゃなくて役に立つしね」


 露店の店主に言われ、ネックレスも購入する。まあ冒険者になってクエストでもこなせば金も入ってくるだろうし、大丈夫だろ。


 モアは上機嫌でスキップする。


「外国って~楽しいな~!」


 うんうん、私も楽しいよ、モア!

 こうして私とモアは、初めて異国の土を踏みしめたのだった。




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