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第34話

 窓辺に柔らかな朝日が差しこむ。

 ちゅんちゅん、という小鳥のさえずりで私は目を覚ました。


「んー」


 もう朝?


「お姉さま、おはよう!」


 カーテンを開ける音。モアの銀髪が朝日を受けてきらきらと輝いている。


「ん、ここは」


 私は辺りを見回した。


 無造作に丸太を組んだような天井の隙間から日の光が差し込む。見慣れない天井だ。ここはどこだ?


 木の板でできたベッドと机、椅子の置かれた簡素な部屋。辺りを見て、思い出す。宿屋だ。


 そうだ、私たちは冒険者なるために、そして勇者になるために旅に出たんだった。


「今日は一緒に冒険者協会に行くんだよね!」


 モアがベッドの上で飛び跳ねる。よくよく見るとモアはもう着替えを済ませていて髪も綺麗に梳かしてある。


「ん? 今何時だ?」


「九時すぎだよ」


 モアがニコニコと答える。私はガバリと飛び起きた。


「えーっ、何で起こしてくれなかったんだよ!」


「だって、ぐっすり眠ってたから」


 実を言うと、私は早朝、五時過ぎに一度目を覚ましている。


 二週間後、ここフェリルでは、薔薇祭りという年に一度の祭りが行われる。


 この世界では電話やネットで宿を予約するということができないので、ほとんどの人は何週間も前から直接宿に行き、連泊して宿の確保をする。


 そのため、宿屋に空きがほとんどなかった。


 やっと空いてる部屋があったと思ったら一人用の部屋で、それでもいいからと泊まり、狭いベッドで私とモアは二人で寝ることにした。


 だけど朝、寒いと思って目を覚ますと、毛布は全部モアにかかっていて、私は何もかけずに硬い床の上で寝ていたのだった。


 寝るときは二人寄り添って寝ていたのに、恐らくは寝相の悪いモアが私のことを蹴飛ばしたのだろう。城でも何度かそういう事があった。


 しかし、ここは城と違いベッドも狭いし毛布も小さい。


 私はモアを起こさないようにそっと毛布の端っこをかけると再び眠りについた。で、起きたのが今、という訳だ。


「あーっ! 混雑を避けるために早く宿を出ようと思ってたのにーっ!」


 私は急いで朝ごはんを食べると、モアと共に冒険者協会へと向かった。


 冒険者協会の建物は他の木造の建物と違いレンガ造りで、どことなく市役所や図書館を思わせる外観をしている。


 中に入ると、剣や杖、弓などを持った冒険者で溢れかえっていた。


 おおー、すごい! ゲームの中の世界みたい!

 ここが冒険者協会かあ……。


 私たちはそわそわしながら「新規登録」のブースに並んだ。


 ここに来る冒険者のほとんどがクエスト受注が目的なので、私たちは案外あっさりとカウンターに通された。


「お待たせいたしました」


 にこやかに対応してくれる受付のお姉さんをみて、私は息をのむ。


 白いスーツにスレンダーな体を包んだその美人受付は、昨日町の入口で出会ったあの緑の髪の美女であった。


 名札を見ると「エル」と書いてある。エルさん、綺麗な名前だ!


「あら、あなたたちは」


「また会ったな!」


「その節は、ありがとうございました」


 嬉しそうにするエルさん。


 私はエルさんの手を煩わせないように、なるべく速やかに、必要書類に必要事項を記入していった。


「そう、てっきり強いから冒険者かと思っていたんだけど、これから登録するのね」


 にっこりと笑うエルさん。


「はい」


「あなたたちならきっとすぐ上に上がれるわよ」


「ありがとうございます」


 私がデレデレしていると、モアが不審そうな目でこちらを見てくる。私は慌てて表情を引き締めた。ふう、危ない危ない。


 私書類に記入していると、エルさんは奥からガラス瓶と羊皮紙、注射器のようなものを持ってきた。


「これから血を少し採りますね」


 え?


 私が首をかしげていると、エルさんは、目にもとまらぬ早業で私のの親指に針を刺した。


そしてそれを血を妖しげな魔法陣の書かれた羊皮紙に落とし、ガラス瓶に入っていた謎の緑色の液体をピペットで掬うとそこに一滴たらした。


 羊皮紙が白く光る。


 エルさんはそれを見ると申請書に何やらすらすらと書いた。


 隣ではモアも同じように血を抜かれている。


 ふふっ、血を抜かれているのを見ないように懸命に目を瞑っているのが可愛いな。


 するとモアの血を抜いたお姉さんが、エルさんに何やらヒソヒソと耳打ちをした。


 エルさんはモアの血を落とした羊皮紙を一瞥すると席を立ち、奥から白髪のお爺さんを連れてきた。


 お爺さんはモアの血を吸った羊皮紙をしげしげと見つめて目を丸くする。


「ほう、これは珍しい! 五色元素属性じゃないか!」


 え? 何それ?

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