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第39話

「良かった良かった。これで当分の宿代はまかなえそうだね」


 薬草を売ってお金に変えた私は上機嫌でスキップした。初めてのクエスト成功は気分がいい。


「でも、宿代と食費を引けば、ほんの少ししか残らないよ」


 モアは財布を見ながら険しい顔をする。


 薬草30束を売った金額から宿代と食費を引いて残った報酬は670フェル。


 今日の二人分の朝ごはんの代金より少し多いくらいだ。


「これだけあれば上々だ。そうだ、これでモアの装備と魔法書を買おう」


「えっ、お姉さまの武器は?」


「私はこのままでいいよ。とりあえずモアは魔法を上手く制御できるようにならないと」


 私がそう言うと、モアはしゅんとする。


「王宮でもっとちゃんと魔法を習っておけばよかった」


 聞けば、モアは初めは家庭教師に魔法を習っていたのだが、魔力が大きすぎてコントロールに手こずり、途中で飽きて習うのを止めてしまったのだという。


「だって、魔法を唱えるより殴った方が早いし」


 そう言ってしょげるモア。


 なんだか私が剣術を止めた経緯に似ている気がする。モアは俺に全然似ていないと思っていたが、こういう所はさすが姉妹といったところか。


「ま、杖を買えばなんとかなるよ。コントロールがきかないだけで魔法そのものは使えてたし」


 私は冒険者協会の受付に置いてあった『冒険者の手引き』を開いた。そこには、冒険に便利な安宿や酒場、武器屋に薬屋など様々な情報が載っている。


「お姉さま、この店にしない? 下にクーポンもついてるし」


 モアが「新規登録10%オフ」と書かれた店を指さす。


「本当だ! モアは買い物上手だなあ」


 私が言うと、モアは顔を真っ赤にしながら笑った。


「えへへへへ」


 もう、相変わらず可愛いなあ!


 私はチラシをじっと見つめた。クーポンのついている店の名は武器屋アックス。


 チラシを見ると「初心者向けの安い武器あります!」「中古品買取いたします!」「クーポンを見せると10%引き!」の文字が踊っている。


「よし、今から行ってみよう!」


 私たちはさっそく、武器屋アックスに向かった。


「いらっしゃいませ~!」


 『武器屋アックス』は、冒険者協会から徒歩十分ほどの所にあるこじんまりとしたログハウス風の店だ。


 広い店内には整然と武器が置かれていてなかなか綺麗な武器屋だ。


 店舗は床も壁も新品の板が敷かれていて、豪華ではないが、清潔感がある。


 中には『竜を真っ二つにできます』だとか『Aランク以上の方向け』と鮮やかなポップで書かれた武器もある。


「すごいな。ゲームに出てくる武器屋ってこんな感じなのかな……」


 私は一人つぶやいた・


 だがRPGゲームと違うのは、金さえ積めば低レベルでも高威力の武器を買えるということ。世の中金だ。


「お姉さま~、杖のコーナーはここみたい!」


 モアが店の奥で叫ぶ。


「どれがいいかなあ?」


 モアが首をかしげる。


 目の前には様々な長さや太さの杖が並んでいる。


 木でできたもの。金や銀でできたもの。宝石が着いているもの......やっぱり安いのは木かな?


 私が木の杖を手に取ると、若い店員のお姉さんがニコニコとやってきた。


「何かお探しですか?」


「ええと、初心者用の杖を」


「それでしたらこちらに」


 お姉さんが杖置き場の一角を指さす。そこには竹や木で出来た安っぽい杖が雑然と樽に刺さっている。


 うげっ、いかにも安いセール品と言った感じだ。


「あの、もうちょっと良さそうなのは……」


 私が言うと、お姉さんが壁際から一本の杖を持ってきた。


「ではこちらなんかいかがでしょうか? 中身はコナラの木なんですが、銀メッキを塗っているのであまり見た目も安っぽくなくて人気なんですよ」


 モアが勧められた杖を振ってみる。

 銀の杖を持つモアは妖精みたいで本当に可愛い。


「それからこちらは少しお値段が張るんですが白樺です。後々まで使うことを考えると魔力を増幅しやすいナナカマドもオススメです」


 モアが言われるがままに色んな杖を持つ。どれも似合っているんだけど、あまりに沢山あり過ぎてどれがいいのか分からない。


「あのう、魔力を抑える杖ってありますか?」


 私が尋ねると、店員のお姉さんは困ったような顔をする。


「魔力を抑える……ですか。難しいですね。ここにある杖は魔力を増幅するものがほとんどなので」


 まあ、そりゃそうだよな。


 その後も姉さんと店を探し回るも、それらしき杖はない。


「もう諦めようか」


 モアがため息をついた。

 モアに合う杖、なかなか無いのかなあ。

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