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第41話

 そして武器を手に胃荒れた私たちはその後何度か森に足を踏み入れ、ちまちま薬草を売って小銭を稼いだ。


 そして一週間後、私たちはいよいよ試験を受けに再び冒険者協会へとやってきた。


「試験ってどこでやるのかな」


 私がキョロキョロしていると、モアが入り口のポスターを指さした。


「お姉様、あそこ!」


 そこにはデカデカとこう書かれていた。


『冒険者一種試験を受ける方は第二研修室へお集まり下さい』


 ……分かりやすいことで。


 第二研修室というのは冒険者協会の二階にある椅子と机があるだだっ広い会議室のような部屋だった。


 そこには私たちを含む四十人が試験を受けるため集まっている。


「結構人が多いね」


 ドキドキしながら私たちが受付番号の通りに席に着くと、背後からこんな声がかかる。


「そりゃお前、年に二度しかない試験だからな!」


 振り返ると、そこには腕を組み偉そうにしたゼットが居た。


 げっ。こいつ、私の後ろの席だったのか!


「負けないからな~」


 なぜか燃えているゼット。


 すると若い冒険者の男が馬鹿にしたような顔をする。


「見ろよ、あんな小さな女子供まで受けてるぜ! 遊びじゃないのによ、まったく」


 その場に若い女と言えば私とモアしかいない。


 私は言い返そうとしたが、丁度その時試験官が入ってきたのでぐっと怒りをこらえる。


「筆記試験を始める!」


 試験は三十分の記述式試験で、地理や歴史、魔法史などの基礎問題が出される。


 何の試験対策もしてこなかったので不安だったが、城で一流の家庭教師から教育を受けた私たちからすると拍子抜けするくらい簡単だった。


 転生する前は全く勉強なんて好きじゃなかっし頭も良くなかったが、いい家に生まれていい教育を受けられたというのはそれだけでチートみたいなものなのかもしれない。


 こちらの世界の歴史や魔術史はファンタジー小説みたいで面白いしな。


 だがゼットにしてみればそうじゃなかったみたいで……。


「あーやべー、これは落ちた。絶対落ちた。ちくしょー」


 この世の終わりみたいな顔で机に突っ伏すゼット。


 お前、さっきまでの自信はどこに行ったんだよ!


「だ、大丈夫だよ! きっと受かってるよ!」


 モアが必死に励ます。


 いや、別にそんなやつ励まさなくてもいいんだぞ?


 なんでも採点は魔法で自動的にされるらしく、三十分後には試験結果が発表された。


 試験を受けた四十人中受かったのは二十五人らしい。十五人は落ちたってことになる。中々厳しい。


 私とモアはもちろん合格。


 あれだけ自信無さそうにしていたゼットも合格していた。


 大きくガッツポーズをするゼット。


「ふっふっふー! 実技試験は明日だそうだな! 首を洗って待っていろ!」


 なぜか捨て台詞を吐いて去って自信満々に行くゼット。


「ゼットって、何だか面白い人だね!」


 モアが笑う。

 全く。どこが面白いんだか!




 翌日、ついに実技試験が始まった。


 試験の内容は、協会から徒歩五分ぐらいの所にある小さな人工のダンジョンに一人づつ入っていき、脱出するまでの時間と倒したモンスターの数で成績をつけるというもの。


「一人づつかあ。大丈夫かなあ」


 不安そうにうつむくモア。


「大丈夫だって! ちゃんと買ったステッキと魔法書、持ったんだろ?」


「うん!」


 モアは買ったばかりの杖を出した。可愛らしいクマちゃんがキラリと輝く。


 うう……こうしてみるとやはりおもちゃにしか見えない。

 まあ、モアが持つんだからなんでも可愛いけど。


「森の中だから木属性のモンスターが多いんじゃないかと思って火属性と、あとは光属性も覚えてきたんだ」


 ローブのポケットから魔法書を取り出し、光属性の呪文をブツブツ呟くモア。


 火属性の魔法は水属性の魔物に弱かったりするが、光属性は特に弱点もなく安定した魔法が多いので、覚えておいて損はない。いい判断だ。


 全く、モアは可愛いうえに天才か?


「モアなら大丈夫だよ!」


 するとモアが出したクマさんロッドを見て、若い男冒険者がプッと吹き出す。


「なんだよあの杖~! お遊戯会じゃねぇんだぞ! これだからお子様は」


 その顔には見覚えがあった。筆記試験の時にも女子供がどうとか言ってたやつだ。


 私が席を立とうとすると、ゼットがいきなり割り込んできた。


「うるさい。女子供だとか、そんなの関係あるか!」


 私たちを馬鹿にしていた男はチッと舌打ちするとその場から立ち去ってしまった。


「よお。調子はどうだ? 受かる自信はありそうか?」


 私がゼットに声をかけるとゼットは胸を張った。


「もちろん、絶好調だぜ」


 だが、ゼットの剣を持つ手はカタカタと震えている。


「ゼット、緊張してる?」


「おお俺はぜぜぜぜ全然緊張してないんだからなっ!」


 ガチャガチャと音を立て続けるゼットの剣。こいつ絶対緊張してるだろ!


 そして実技試験が始まった。一人一人名前が呼ばれダンジョンに入っていくのを、私たちは緊張しながら見送った。


「次、モアナさん」


「は、はい!」


 モアがダンジョンに入っていく。


「お、お姉さま~!」


「大丈夫だよ。頑張れ!」


 私が声をかけると、うなずいてダンジョンへ入っていくモア。右手と右足が同時に出てる。


 私がハラハラと見守っていると、不意に叫び声が聞こえた。


「うぎゃーーーー!」


 ダンジョン内にこだまするモアの声。


「モア!?」


 私は思わず背伸びをしてダンジョン内を見た。


 だけど暗くて中がどうなっているのかは全く見えない。


 モア、どうしたんだ!?

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