モアが紙に書かれた呪文を唱え終わった。が、何も起こらない。まだ足りないのだ。最後の欠けている部分が。
そこはモアが自分で呪文を作らなくてはいけないのだ。自分の言葉で。自分の気持ちで。
「モア、何でもいいから言って!」
私は叫んだ。
するとモアがぎゅっと杖を握りしめ、うなずいた。
「お姉さま! モア、お姉さまがモアのお姉さまで良かった! だってお姉さまは強くて可愛くて格好良くて……お姉さまはモアにとって最強のお姫様で勇者なんだから! だから負けるはずが無い。モアは信じてる。だからだから……」
モアの言葉が詰まる。魔法はまだ発動しそうにない。ドラゴンが鋭い爪を振るう。
「ミア!」
モアに気を取られていた私を、ゼットが庇って倒れる。
「ゼット!」
倒れたゼットに駆け寄ると、ゼットは力ない笑顔でこう言った。
「大丈夫だ……お前の妹なら!」
私はうなずいた。モアを信じて、再び斧を手に駆け出す。途切れていたモアの声が、再び聞こえ出す。
「だから……お姉さま頑張って!!」
モアは力の限り叫んだ。
――それは最古にして、最強の魔法!
「お姉さま大好きーーーー!!!!!!」
その言葉を聞いたとたん、体の奥底から温かなオーラが、力が湧いてくる。
今まで感じたことのない感覚。高揚と浮遊感。なんだかワクワクして……凄いよモア、今なら何だってできそうな気分だ!
鏡の悪魔の判断は正しい。教科書通りの魔法じゃ、こんなに力は出せなかった。
私は斧を握り直す。
身体中から湧き出すパワー。
私は飛んだ。
「でりゃあああああああ!!!!」
モアの魔法で最大限に強化されたパワーを信じ、力の限り斧をドラゴンに叩きつける。
そして光はあたり一面に広がり、ダンジョン全体を包んだのであった。
「お姉さま、お姉さまっ!」
「……ん」
モアに揺り起こされる。
どうやら一瞬だけではあるが、私は気絶していたようだ。
「あいつは……」
「凄いよお姉さま! あの大きなドラゴンをやっつけちゃったんだから!」
モアがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「そうか……それは良かった」
起き上がり、地面をみると、そこには巨大なドラゴンが横たわっている。死んだのだろうか?
「悪いけど、喜んでる場合じゃない」
そう言ったのはヒイロだ。どうやらヒイロとアオイもあの牛鬼を倒し私たちに追いついて来たようだ。
「そうですね、このままだとこのダンジョン、崩れますよ」
アオイも不安そうにパラパラと土埃が落ちてくるダンジョンの天井を不安そうに見つめた。
と同時にダンジョン内に大きな揺れが襲う。大きな土塊がバラバラと降り注いだ。
「急ごう」
私たちはダンジョンを出ようとした。
すると巨大な影がぬっと起き上がった。倒したはずのドラゴンが息を吹き返したのだ。
「きゃあ!」
「ドラゴンが起き上がった!?」
私たちが武器を構え直すと、ドラゴンは呑気な口調で欠伸をした。
「ん、何か凄い魔力の気配がしたと思ったら貴様か」
何食わぬ顔で言うドラゴンに、全員が固まる。
「どうしたんだ人間たち。」
鏡の悪魔がほっと息を吐き出す。
「どうやら気絶した拍子に正気に戻ったみたいじゃな」
「そうなのか」
なんだよもー! びっくりさせないでよ!
「ところでこれは、なんの騒ぎだ?」
私はドラゴンに事のあらましを説明した。
「ここにいたら危ないんだ。どうにかダンジョンが崩れる前に外に出ないと」
「それなら任せろ」
ドラゴンが羽を広げる。どんどん大きくなっていく体。その巨体は天井を突き破り、見上げると首が痛いほどになる。
「こんぐらい大きくなれば大丈夫だろう。さあみんな、背中に乗るのだ」
すると、夜風に吹かれてドラゴンの体からボロボロと灰色の土埃が剥がれ落ちる。
月光に照らされたドラゴンいつの間にか真っ白なドラゴンになっていた。
「お前、ホワイトドラゴンだったのか!」
私は目を丸くした。