「懐かしいな。初めて魔物を倒した草原。スライムだったかな。」
草原に佇む男は、懐かしそうに辺りを見渡している。隣の女性は、微笑みながら男を見詰めていた。
「あぁ!ここ、ここ。ここで魔物に反撃を食らって死に掛けたっけ。」
「そして、この道を下ると小さな町が有るんだ。」
男は、足取りも軽く道を進む。
町に近付くに従い人々が増えてきた。
門の前には入場を待つ列がある。しかし、男は門番に咎められる事なく門を潜る。
町に入ると人々が多く行き交う だが、誰ひとりとして、彼らに気付きもせずに歩いて行く。
周りを気遣う事なく、二人の話は続く、
「召喚された直後、直ぐに[ 能無し ] と言われて放逐された。そして、やっとこの町に流れ着いたんだ。ひもじい思いをしながらも冒険者として立てた時は、嬉しかったな。」
「大変だったのね。」
「そうでも無いさ。あぁ!ここで彼奴らと初めて出会った。懐かしいなあ。」
「始めての仲間?」
「彼奴らとは、ある事が切っ掛けで出逢い、直ぐに意気投合したのさ。気の良い連中だったな。」
「どんな人達だったの。」
「ハンターのリーダーとタンクの筋肉男と優男の剣士。そして回復術士の彼女の四人だよ。」
「彼等は、今は?」
「・・・。頼む、妖しげの洞窟へ。」
「わかったは、転移。」
女性の魔法で、洞窟の中にとんだ。
目の前には、眠そうなドラゴンがいる。ドラゴンは、彼らに気付いたのか、閉じていた目を少し上げて見詰めたが、直ぐに目を閉じた。
「このドラゴンに仲間は、俺と回復術士の彼女を残して殺されたよ。」
「貴方と彼女は大丈夫だったの。」
「あぁ!危なかったよ。しかし、これが切っ掛けで、俺と彼女は覚醒したのさ。勇者と聖女としてな。」
「死んだ彼奴は、本当にいい奴らだったよ。何時までも一緒に居たかった。生きていて欲しかった。」
「辛かったわね。彼らの冥福を祈りましょう。」
「ありがとう。」
「その後は、俺と聖女を中心に新しい仲間が加わったが、今一溶け込め無かったな。だから彼女以外に余り思い入れが無いんだ。奴らには悪いが、ただ、感謝はしているよ。」
「彼らには、何らかで伝えておくわ。」
「ありがとう。ただ心残りは、彼女の事かな。幸せになって欲しいな。それだけだ。」
「彼女は、未だに悔いているわよ。」
「仕方ないさ。出会ったから五年間離れる事なく、共に戦って来たからな」
「鈍感!」
「酷い言われようだな。でもサヨナラも言えなかった。ひどい男さ。」
「さあ!もう良いだろう。そろそろ逝かないか。」
「そうね。そろそら時間かも。心残りは無いの。」
「幾らなんでもキリが無いさ。」
「わかったは。この先はどうするの? 死んだ仲間の元に行く?それともふるさとに帰るの?」
「どうするかな。・・・。仲間の元に送ってくれないか。そこで彼女が来るのを皆て待つよ。」
「了解。そしてありがとう。」
「此方こそありがとう。そしてサヨナラ。」
勇者は、静かに天へ登った。
「勇者様。魔王を倒して、力尽きて亡くなった貴方の望みを叶えました。あなたの忘れ得ない風景を共に楽しく見て回りました。喜んでいる貴方を見ていて、私も楽しかったわ。聖女の事は任せて頂戴、必ず幸せな人生を約束してあげるわ。」
「・・・さようなら。そしてありがとう。」