一粒の涙が頬を濡らす。
辛い戦いは、魔王との一騎討ちとなり、お互いの刃が体を貫き、ここで記憶が途切れた。
どれだけ長い時間が過ぎたのだろうか。いや、本の一瞬だったのかも知れない。
暗闇の中を静かに落ちて行く、そんな妙な感覚が頭の中を支配していく。
今の頭の中に浮かぶのは、何なんだろうか。
何か懐かしく、嬉しかった記憶。
不意な召喚から始まった理不尽な戦い。
あの脂ぎった王の野郎。ズル賢しこく嫌な宰相。
威張り散らす能無し騎士団長。らが何故か懐かしい。
それ以上に俺を助けてくれた食堂のおばちゃん。
何時も心配して、常に声を掛けてくれたギルドのお姉さん。
武器屋のおっちゃんには、だいぶ世話になったな。
あの人も、この人にも、心配掛けたっけ。
皆元気でいるかな。
嗚呼そうそう!パーティーメンバーも、最初はギクシャクしていたが、いつの間にか打ち解けとけ冗談を言い合える仲間になっていた。良い仲間に出会えた。本当に感謝しかないな。
この戦いで怪我をした彼奴は無事に帰れたかな。
何故か無性に悲しくて、涙が溢れていた。
そして、声にならない言葉が、自然にこぼれた。
「ありがとう」
そして、記憶が徐々に薄れていく、これが死ぬ事なのか。
来世は、静かに暮らしたいな・・・。