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第39話 ありがとうの言葉

一粒の涙が頬を濡らす。


辛い戦いは、魔王との一騎討ちとなり、お互いの刃が体を貫き、ここで記憶が途切れた。


どれだけ長い時間が過ぎたのだろうか。いや、本の一瞬だったのかも知れない。


暗闇の中を静かに落ちて行く、そんな妙な感覚が頭の中を支配していく。


今の頭の中に浮かぶのは、何なんだろうか。

何か懐かしく、嬉しかった記憶。


不意な召喚から始まった理不尽な戦い。

あの脂ぎった王の野郎。ズル賢しこく嫌な宰相。

威張り散らす能無し騎士団長。らが何故か懐かしい。

それ以上に俺を助けてくれた食堂のおばちゃん。

何時も心配して、常に声を掛けてくれたギルドのお姉さん。

武器屋のおっちゃんには、だいぶ世話になったな。

あの人も、この人にも、心配掛けたっけ。

皆元気でいるかな。


嗚呼そうそう!パーティーメンバーも、最初はギクシャクしていたが、いつの間にか打ち解けとけ冗談を言い合える仲間になっていた。良い仲間に出会えた。本当に感謝しかないな。

この戦いで怪我をした彼奴は無事に帰れたかな。


何故か無性に悲しくて、涙が溢れていた。

そして、声にならない言葉が、自然にこぼれた。

「ありがとう」


そして、記憶が徐々に薄れていく、これが死ぬ事なのか。


来世は、静かに暮らしたいな・・・。





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