小さな嘘が発端だった。
ある若い男が、酒場でジャツキ片手に自慢していた。
「俺は、あの勇者の子孫だ。これは勇者の使用した剣、俺が譲り受けた家宝なんだ。」
かって魔王が、世界を蹂躙いていた時代に召喚された勇者は、忽ちの内に魔王軍を蹴散らし、魔王を倒した。そんな伝説の勇者が存在した。
若い男は、辺境の貧しい農家の生まれだった。
ただ、勇者と偶々、姓が同じだった事から小さな嘘を付き、酒場で奢って貰いながら、嘘のエピソードを最もらしく語ってその日をくらしていた。
剣とて、納屋に有ったボロい剣を持ち、最もらしく語り尽くしていた。
男は冒険者を生業として、その日を暮らしている。
レベル7で、スキルも乏しく、ステータスも普通に過ぎないランクDの剣士。
親しい仲間も無く、1人でゴブリンを倒して暮らし、酒が入ると誰彼と構わず小さな嘘で酒をたかる日々。それもこの日が最後となった。
何時もの様にギルドで依頼を受け取り、森へ向かう。何故かその日は一匹もゴブリンに出会えず、諦めて帰ろうとした時に、朝黒い大きなオーガが目の前に立ちはだかる。
「お前か、勇者の子孫は。しかし、妙だな。お前からは一向に覇気が感じられない。本当に勇者の係累なのか?・・・まぁ良いか。勇者の子孫を倒す事で俺の株も上がる事だ。勇者を恨むんだな。ワッハハハ。」
男は、震えが止まらないが、一端の剣士では有る、剣を抜き構えてはみたが、足が動かない。
オーガは震えを見て、バカにする様に、
「勇者の子孫よ。お前のレベルじゃ、俺に一太刀も出来まい。しかし、俺は優しいんだ。お前が死ぬ前に一太刀だけ受けてやる。冥土の土産話にするが良いさ。ガッハハハ。」
「・・・。」
「早く来いよ。待ってやるぜ!」
男は逃げる事も叶わない。覚悟を決めてオーガに向かい渾身の一太刀を浴びせたが、ガチーン。オーガの固い皮膚に跳ね返され、男の剣は折れた。
仕方なく、背をっていたボロい剣を構えてみたが、錆び付いた剣は、より一層の悲壮感を漂わせるだけだった。
オーガは、笑いながら「覚悟は良いな。」と吠える。ドシリドシリと間を詰めるオーガ。逃げる事も出来ずに後退りする男。
そこに「助太刀をする。」との掛け声。
振り向くオーガに浴びせる魔法と剣。
冒険者グループがオーガに攻撃を加えた。
偶然の出会いに男は、女神様に感謝した。
突然の攻撃で後退りするオーガ。
追い討ちを掛ける男たち。
魔法がオーガに降り注ぎ、鋭い矢が急所を狙う。
剣がオーガの首すじをかすり、血が吹き出す。
オーガは、大振りの手で冒険者達を倒そうとするが、咄嗟にかわして太刀を浴びせる。
そしてオーガは倒れた。
「大丈夫か?」冒険者達は男に駆け寄った。
男は「ありがとうごさいました。」と震える手足と声で答えた。
話し合いの結果、オーガの一部は男に大半は冒険者達へ譲り渡す。
男は命拾いと伴に急激なレベルアップに襲われた。スキルもステータスもレベルアップに依り、上昇する。
男のその後は、上級冒険者として活躍したと伝えられている。
本当に勇者の子孫かの問いには、歴史書は触れていなかった。