病床の男は夢を見ていた。
過ぎ去った日々が走馬灯の様に、時には輝き、時には苦渋に苛まれた瞬間として刻みながら流れて行く事を・・・。
思えば、15才でクラスメートと共にこの異世界に召喚され、勇者と持て囃されながら、魔王軍との長い戦いが始まった。
最初は40名いたクラスメートは、一人欠け、二人欠けと被害の噂が飛び交っていく。
男のパーティーも二人の友を失い、残ったメンバーも怪我の為、再起不能となり、解散を余儀なくされた。
残った男は、他に合流することなく、ただひたすらに剣技を磨き、魔物を倒し続けたが、一人での限界を感じた頃に一人の女性と知り合い、共に戦う中で彼女を信じそして愛し、心身共に永遠のパートナーを得た。
二人で背中を守り相いながらの戦いで確実な戦果を上げつつ、魔族の追撃を撥ね付ける時に生きている実感がまざまざと感じられた。
魔王軍との戦いは、一進一退ながら各地で僅に残っている勇者達の奮闘で、少しずつ魔王軍を追い返し、更に追い詰めて、魔城に立て籠る魔王の死で終りを告げる。
各地に残った勇者達も無傷では収まらず、幾人かの訃報が男の耳にも入って着ていた。
それでも僅かに残った勇者達には、王様からの華やかな祝賀と褒賞が行われ、男は彼女と共に晴れやか衣装を纏い出席する。
厳粛な神へ祈りの最中に忽然と現れる一人の魔族、突然の事に慌てる人々。
魔族は、己の身を爆発させる事で人々を恐慌に陥れる。
続いて少数の魔族が、王様を狙い襲い掛かる。
男は咄嗟の判断で王様の前に立ちはだかり、魔族の凶弾を身に浴びた。
魔族達は、直ぐに鎮圧され、男は急ぎ病院へ担ぎ込まれる。
彼女が、泣き叫び男に寄り添う。
その晩未明に、男は夢を見ながら息を引き取った。
彼女への思いを伝えられない悲しみを持って・・・。
男の目にひとしずくの涙を残して。