あれから私達は人目につかないよう移動しながら、私の近況、レインくんの事やお兄さんの事などを話した。
現在はエリシア自宅に辿り着いたところだ。
「大丈夫なのエリシア? 私なんか」
「親友を家にあげてなんの問題があるのよっ? それに、ママとパパはいつも通り泊まりの仕事で当分帰ってこないから全然平気」
軽い調子で玄関の扉を開く親友の当たり障りのない、いつも通りの反応に心が救われる。
「それに、その格好……女子としてヤバいよ? お風呂も入ってないんでしょ?」
「ぅ、確かに。私の制服どこ行っちゃったのかな」
「制服なんて目立つ格好してどうするのよ、あたしの服貸してあげるから」
「ありがとう」
掛け値のない優しさが、今はとても心に響く。
エリシアは玄関でもたつく私を急かすように背中を押して、そのまま浴室へと連れ込んだ。
「ぇ、ちょっちょっと? エリシア?」
悪戯な笑みを浮かべるエリシアはいそいそと私から服を剥ぎ取ると、自分もその場で脱ぎ始める。
「いいじゃんっ! 久しぶりに背中流しっこしようよぉ」
「ぃやっちょっと……恥ずかしいって」
「むふふ、相変わらずの、びにゅう」
「むぅ、それ、超イヤミだからね」
背後から私の胸を弄ろうとするエリシア、同時に豊満な感触を背中に押し当てられ、その差を見せ付けられているような仕打ちに目くじらを立てて向き直る。
大きければ良いと言うことはない、これはしっかり調査済みである。
情報によれば、世の男性は意外と大きさよりも、形や質感、そして掌に収まるベストなサイズを求めると書いてあった。
つまり、エリシアのように大きすぎる果実は逆効果、私のようにやや小振りでも掌に収まる方がウケがいいはず。
——それはそれ! やっぱり悔しい‼︎
頬を膨らまして半目で睨む私を「ごめん、ごめん」となだめるエリシア。
むしろ何の「ごめん」なのだろうか、と突っ込むのは余計に傷口を広げるのでやめておいた。
「ぷはぁ、熱いシャワー最高! 生き返るぅ!! ずっと外にいたから身体冷えちゃった」
「エリシア、おじさんみたいだょ? そういえばエリシアは何であそこにいたの?」
二人で交互にシャワーを浴びながら、髪を流す。
まるで心のわだかまりも流れ落ちるように気持ちが楽になった。
「あそこにいけば、ルゥシィに会えるかもって」
「エリシア、もしかしてずっと」
髪を洗い終えた彼女は隣にいた私に寄り掛かるように頭を預けて鼻をすすり始めた。
「本当に、無事でよかった。あのまま『おねぇちゃん』に会えなかったら、あたし」
「うん、ありがとう。私も嬉しいよ」
子供のようにすすり泣く親友の暖かさに自分も甘え、そっとその頭を抱きながら二人してのぼせるまでそのまま浴室で温まった。
***
私達はその後、エリシア自慢の手料理を食べ、何気ない会話をしながらありふれた時間を過ごした。
私が無くしたと思っていたささやかな日常を、親友は与えてくれた。
そうして、夜も随分と更け、緊張のほぐれた心と身体は眠気を感じ始め。私達は二人でエリシアのベッドへと潜り込む。
「エリシア、聞いてもいい?」
「うん、どうしたの?」
同じベッドで、向き合う私達は先程までの眠気が嘘のように目が冴えていた。
「天職、エリシアは何だった?」
「あぁ、それ聞いちゃう? そうだよねぇ? 最悪だった」
「ぇ!? そうなの? 何で」
「うちのママとパパ〈楽士〉と〈指揮士〉って言うスーパー音楽夫婦だからさ、あたしも同じく音楽系だろうと期待も高まっていたわけだよ」
「——ダメだったの?」
「ダメどころか、擦りもしない〈調教士〉って言う動物と心通わせる天職でさ」
「ぅわぁ、でもエリシアらしいよ! いいなぁ、女の子っぽい」
私は純粋に羨ましく思い、同時に彼女にピッタリの天職だと感じた。しかし、エリシアは遠い目をしながらため息を吐く。
「がっかりさせちゃったんだよねぇ、それで大喧嘩して」
「そんな、立派な天職なのに……大丈夫?」
「ん、まだ、なかなおり出来てなぃ——」
話の途中で眠気に勝てなかったエリシアはそのままスヤスヤと寝息を立て始めた。
「寝ちゃった、ふふ、可愛い——エリシアも大変なんだね」
そのままエリシアの寝顔を眺めていた私は、熟睡したことを確認してホッと胸を撫で下ろす。
私はエリシアを起こさないよう、静かに身体を起き上がらせ『彼の自宅』から持ってきた古びた革の鞄、その中から取り出した〈魔装銃〉を構えてゆっくりとベッドから立ち上がった。
幸せそうに寝息を立てている親友の姿を見つめる。
「ごめんね、エリシア……」
月夜が鈍く、手の中にある銃口を照らしていた。