「しかしあれは、何なんだろう?」
若い記者が、1人だけ離れて倒れた受傷人骨のほうを指さした。
「彼の手のかたち。いや、いま私が指さしたように、骨を、いや指を突き立ててますね。あれはきっと・・・中指だ。」
言われて、はるみも気付いた。完全に人骨を掘り返して研究室に運び、各種機材を使い詳細調査をする前の段階なので、まだ簡易な視認調査程度しかしていない。それもかなりいい加減なもので、観察時の注意力の多くが、より重要な頭骨の打撃痕のほうへ割かれてしまったのは、まあ、彼女だけの落ち度というわけでもない。
この時代の完全な人骨は、ちゃんと埋葬されていれば指の折り方やそのかたちにさまざま呪術的な意味などが込められていることが多いが、本件については事故、ないしなんらかの殺害意図によるまさに屋外での現場であり、彼らは埋葬されていたわけではない。ただ単に野晒しの状態で倒れ、風化し、その過程で
「まるで外人さんの、例のポーズみたいだな。」
別の記者が、腕を組み合わせてその、例のポーズとやらを再現してみせた。左手の中指が、中天指してピンとつき立った。
「もちろん意味は違うでしょうが・・・たしかに、何らかの濃密な想念を感じさせるポーズのようにも、思えますね。」
はるみは苦笑しながら言った。言いながらふと気づくと、緒方が向こうのほうで、何か言いたげに微笑んでいるのが見えた。
翌日、この三体の受傷人骨の写真はメディアにデカデカと取り上げられ、インターネットではその後数週間に渡って引用され、シェアされ、リツイートされ、加工され、そして尽きせぬ無責任な妄想と憶測の素材になった。
有名な大喜利アプリでは、この川の字に並んだ三体にいろいろなセリフを語らせてボケる、というネタを投下し、またたく間に数十万もの「作品」投稿を記録した。アプリの運営会社は、無限に増殖する投稿作品群のページ・ビューと連動して伸びる広告枠からの、いわば濡れ手で粟の収益にほくほく顔であった。
Twitter上にはまさに、このネタによるボケ合い、あるいはちょっと真剣な知識や憶測の較べ合い、マウント取りなどによる多数のツィートが溢れ、そこから8,637件の考古学ファンや歴史愛好家同士のバトル、251件の学者、作家、政治家、評論家、芸能人そしてインフルエンサー各種などの大人げない「論争」を生起させ、関連ツィートの総数はおおよそ数千万を記録し、派生したリアルの揉め事で17件の訴訟事案、はては殺人事件までもが起こったが、いずれも本稿主旨には関係ない些事に過ぎないので、これ以上は触れないでおこう。
しかし、これら一連のネット拡散の過程で、一体だけ離れて倒れていた人骨の成す左手の指のかたちが、単なる強烈な画像メッセージとして世界中の人の心をとらえ、彼 (の指のかたち)は地球上の全ての
「