第5話
「この・・・捏造野郎!」
罵声を浴びせかけられて、だがとは緊張しました。明らかに、日頃の彼らと違います。ちゃちまとの交接および結婚の権利の取得が、彼らにとってはかなり不快なインパクトであるという点については、だがとにも理解はできます。もし仮に、こいつらのうちの誰かがちゃちまを射止めていたら、きっと自分も複雑な想念にとらわれてしまうでしょう。心では許しても、芯から疼くような若い肉体がそれを認めようとするかどうか。
彼らもそれぞれ、ちゃちまになんらかのモーションをかけていることは知っていました。自分も持つような様々な欲望や肉体的反応やどろどろと渦巻く想念。彼らも、自分と同じ存在なのです。だがとは16歳にして、この世の中の理をひとつ思い知りました。
自分の、死ぬほどの幸せは、時として他人の、死ぬほど狂おしい不幸なのだ、ということを。
だがとは少し距離を保ち、腰を低くして身構えました。彼らは、昨日までの彼らではない。彼らと、ちゃちまを射止めた自分との関係値は決定的に変化した。彼らは、昨日までの友ではない。今そこにある危機、今そこにいる明確な肉体的脅威なのです。
だがとの脳髄は、高速度で回転しました。もちろん、これらのことを明確に言葉にして考えたわけではありません。半ばは生物学的な反射作用、半ばはややぼんやりとした古代人特有の非言語的思考で、とにかく彼は自分の直面する重大な事態を理解しました。
要するに彼は、狩られる寸前の獣でした。そして同時に、彼らを狩る狩人でもありました。一対一、素手で組み合えば、彼らには負けません。しかし彼らは三人であり、全員が石刃か石斧で厳重に武装しています。そして、ちゃちまの神さまを大切に抱える彼は、ほぼ丸腰です。
これは、どう見ても圧倒的に不利な状況でした。もちろん、足の疾さには自信があります。一目散に逃げてしまえば、とりあえず生命の危機からは脱することもできましょうが、しかし彼は小脇に、大切な大切な、神さまを抱えているのです。この、落としたらあえなく砕け散ってしまうであろう土の塊を保護したまま、高速で駆け続けるわけにはいきません。そして彼が神さまを取り落として、割ってしまったら・・・それは、他ならぬちゃちまの命を奪うのと同じことになってしまうのです。
そう。ひとくちに言うなら、だがとは八方塞がり、まさに絶体絶命の大ピンチにいたわけなのです。彼は、浮き立つような気分の命ずるままに、こんなところに来てしまった自分のうかつさを呪いました。しかし、いくら自分を呪ったところで、大地の神さまが何か良い知恵を授けてくださるわけでもありません。
彼は覚悟を決め、静かにちゃちまの神さまを、そっと脇の地面に置きました。そして、それには絶対に手を出すな、とかつての仲間たちに申し渡しました。その代わり自分は逃げぬ。卑劣なお前らの騙し討ちを、あえて素手で受けて立つ。だから、だから・・・。
絶対にちゃちまの命のしるしにだけは、手を出すな。