「感謝しなよ。彼女はほんの少しだけ狙いを外した。矢は突き刺さらず、頭に穴だけ開けて下に落ちた。おまえはたぶん、頭のなかから血が流れ切るまで・・・あと少しのあいだだけ、生きていられる。」
頭上から、
「それにしても、あの距離からよく当てるよな。見事なもんだ。おまえさんは、そんな彼女のお師匠さんだ。そしてなにやら勘違いし、彼女の心も射止めたと思い込んだ。」
「
「おまえさんが・・・おまえさんだけが、彼女を上回る射手だからだよ。」
「彼女は、常にナンバー・ワンじゃなきゃ気が済まないんだ。最初から、おまえさんの技術だけ盗むつもりで近づいたのさ。そして、もう習い覚えることがなくなったと悟り、おまえさんはもう用済みだ。」
「なんで・・・なんで!」
「彼女はな、俺のようなイケメンが好きなんだ。おまえらなんか、元からお呼びじゃない。」
「この2人は、とうに死んだよ。」
と言いながら、ぷらぷら揺れる2つの死体を片手で押さえ、無造作に頭部から矢を抜き取りました。友の血が、どっと噴き出て地面を濡らしました。
「この鏃は貴重品でな。俺が遠方から来た海商人から仕入れたものだ。仕上げが滑らかで、誰が射ようと遠くまでよく翔ぶ。そして彼女なら、おまえさんに習った技で、必ず狙い通りに当てる・・・そうさ、彼女は悟ったんだ。おまえさんに追いつき、おまえさんを超えるにゃ、技じゃない。あとは道具の力を借りればいいんだと、ね。頭がいいよな。そして、まさにそのものズバリの道具を彼女にもたらして、最後にあの極上の心も身体もゲットしたのが、最後の勝者、イケメンのこの俺さまという訳さ。おっと・・・。」
「忘れるとこだった。こいつは、もう俺のものさ。いや、とりあえずは彼女に返しておくかな。おまえさんの、愚かな友人たちをおびき出すにゃあ必要な小道具だった。まさか奴らが口先だけで、おまえさんをちっとも殺そうとしないのは計算外だったがな。ま、結果オーライだ。じゃ、あばよ勇者さん。残された時を、せいぜい楽しみな。」
声が遠ざかっていきました。
そうか。
気の強い娘とは思っていた。あと弓矢に対する執着は異常だと思っていた。でも、でも、まさか。
そういうことだったのか・・・。
恋人とひとしきり抱き合ったあと、
2人の姿は、そのまま林間に消えてしまいました。きっと集落にも戻らず、海商人の船でどこか遠くに行ってしまうのでしょう。
ひとり残された
この現場を発見した誰かが、確かな陰謀の証拠を、決して見逃すことのないように。
やがて、