エルバの町に着くと、アリスは呆然とした。
町、とは言ってもずいぶん寂れていて人々は痩せていた。
「アリスさん? どうしましたか?」
ブルーノの問いかけに、アリスはハッとした。
「いえ。あの、ずいぶん町が荒れているなと思いまして」
ブルーノは苦笑した。
「ああ、この町は緑の魔女が居た頃は、森の恵みでずいぶん栄えていたらしいのですが」
「緑の魔女?」
アリスはその言葉に反応して、体をびくりと震わせた。
「はい。昔、アリスさんが住んでいるお屋敷に住んでいたそうです」
ブルーノは目をつむって、何かを思い出している。
「そうそう、名前はマリー・スミスと言ったそうです」
「まあ、それは私のおばあさまです」
「それじゃ、貴方も緑の魔女なのですか?」
「それは分かりません」
アリスはブルーノにも気味が悪いと言われるのでは無いかと思い、植物と話せることは黙っていた。
「ところで、この荷物の中身は何ですか?」
ブルーノはアリスと持っていた大きな袋を、のぞき込んだ。
「これは、森で取れた果物や薬草、きのこです」
「え!? あの森は切り開かれて、もう林くらいに小さくなっていたはずでは……?」
アリスはしまった、と思ったが白状することにした。
「私が祈りを捧げたら、森は復活しました」
「やっぱり、緑の魔女の子孫なのですね」
ブルーノは黒い瞳を輝かせて微笑んだ。
「ところで、この果物や薬草、きのこを売りたいのですが、良い場所をご存じですか?」
「それなら市場へ行きましょう」
アリスはブルーノに手を引かれて市場へ行った。
そこには川魚の干した物や、しおれかけの薬草が並んでいた。
「じゃあ、ここで。ありがとうございました」
アリスはブルーノに別れを告げると、荷物から大きな布を出し広げた。
そしてその上に森で取れた果物や薬草、きのこを並べると、あっというまに人が集まってきた。
「りっぱな果物に薬草、きのこまであるのね」
「この辺じゃ、なかなか手に入らない物ばかりだ」
「昔は森で沢山取れたっていうけどね」
そう言いながら住民達が次々とアリスから商品を買っていった。
「ありがとうございます」
アリスはパンパンに膨らんだ小銭入れを袋に入れて、市場を後にした。
「パンとチーズが買えると良いんだけど……」
町の中を歩いていると、パン屋とチーズ屋が並んでいた。
アリスは三日分のパンとチーズを買って、家に帰っていった。
「ブルーノさん、元気になって良かった」
アリスは一人呟いた。
「市場も果物や薬草が売れるって分かったし。あとは家の掃除かしら」
アリスは湖の脇の家に帰ると、部屋を色々と開けて回った。
すると、書斎をみつけた。そこには古い魔法書や祖母の日記、料理のメモなどが置いてあった。
アリスは祖母の日記をそっと覗いた。
そこには、アリスが生まれた日のことがかかれていた。
<孫が生まれた。名前はアリス。元気な声で泣く、可愛らしい女の子だった。アリスが泣くと、花が咲いた。どうやらこの子には緑の魔女の血が濃く現れているようだ。幸せに育ってくれると良いのだけれど……>
アリスは優しかった祖母のことを思い出した。
「そういえば、おばあさまはよくカリンのジャムを作ってくださっていたわ。レシピがあると良いのだけれど」
書斎を探していると、祖母の手で書かれた森の食材を使った料理のレシピ集があった。
「これなら、色々作れそう」
アリスは買ってきたパンとチーズを食べて、森で取ったリンゴをかじった。
「……掃除は明日にしましょう」
アリスは寝室のベットに入ると、疲れて眠ってしまった。