アリスが久しぶりにエルバの町に行くと、人々から避けられるのを感じた。
「何かあったのかしら? マーク医師から何か言われているのかしら?」
アリスがパン屋に入ると、イルが居た。
「こんにちは、イルさん」
「こんにちは、アリス様。大丈夫ですか?」
「え? 何がですか?」
アリスはイルの問いかけに、不安な顔で答えた。
「アリス様が森の魔物を復活させたって、町では噂になってるんですよ」
「ええ!?」
アリスは買ったばかりのパンを落としそうになった。
「アリス様はそんなことはしないって、私は否定しましたけど……」
イルはそう言ったあと俯いた。
「マーク医師が、やはり森の魔女は信じてはいけないって言い始めたんです」
アリスはうなだれて呟くように言った。
「……そうだったんですか」
「でも、言い出したのは占い師のエメリー・フリントですよ。彼女も緑の魔女を恨んでいましたから」
「まあ、そうなんですか?」
アリスは驚いた。アリスの祖母である緑の魔女は、人に恨まれるようなことをしていないはずだったからだ。
「ええ。インチキな占いで高いお金を取ったり、怪しい石やペンダントをお守りとして高額で売りつけていましたからね。昔の森の魔女様が現れてから、商売が傾いてましたから」
イルは小声で話し続けていた。
「それでは、私はこれで」
「ありがとうございます、イルさん」
アリスはパン屋を出ると、チーズ屋へ向かった。すると、途中でブルーノに出会った。
「こんにちは、ブルーノ様」
「やあ、アリスさん。こんにちは。森は大丈夫?」
「え?」
ブルーノは言った。
「森の魔物が増えているって話です。今週も討伐隊が編成されて、私も森の魔物を狩ってきたんですよ」
「そうだったんですか? 森の奥には行っていないから知りませんでした」
アリスは心配そうなブルーノにそう言うと、困った顔で笑った。
「笑い事ではありません。どうか、十分気をつけて下さい」
「はい、ありがとうございます」
アリスは町での買い物を終えると、一人で森の家に帰っていった。
「魔物が来たら、どうしましょう……」
アリスが家についたとき、辺りは暗く、何か獣の鳴き声が響いていた。