クリスマスから年末にかけて、アリスの家にくる町人は少なかった。
アリスは祖母の残していたコートを着て、森を歩いた。
「ねえ、貴方は魔物を見たの?」
アリスは井戸の傍に生えたリンゴの木に訊ねてから、ゆっくりと頷いた。
「そう、見かけては居ないけど、気配は感じているのね?」
アリスは、これ以上森の奥に行くのは止めようと思った。
「それじゃ、畑の世話をしましょう」
アリスは井戸でくんだ水を畑にまくと、雑草を摘んだ。
「ごめんね、痛いよね。でも、私が生きていくために必要なの」
雑草を取り終わると、いつものように作物を収穫した。
「いつも美味しい実をありがとう。果物もお野菜も、すごく美味しそう」
アリスはそう言って収穫を終えるとエルバの町に出かけた。
町は賑やかに彩られていた。
「あら、アリス様、こんにちは!!」
「イルさん、こんにちは」
「今日は買い物ですか?」
「ええ。それと、森で取れた新鮮な野菜と果物を売りに来ました」
イルはにっこりと笑った。
「ちょっと待ってて下さいね」
アリスが言われたとおりに待っていると、イルは自分の家からご馳走の入ったかごを持ってきた。
「アリス様、今年は沢山お世話になりました。よかったら、お持ち下さい」
「まあ、いいんですか? 申し訳ありません。大したことはしていないのに」
アリスがかごの中を覗くと、そこには何かのパイと鳥のももを焼いた物が入っていた。
「ありがとうございます。素敵なご馳走ですね」
アリスはイルに礼を言うと、イルは両手を横に振って言った。
「なんだか家の残りもので悪いんですけど、良かったら食べて下さいね」
「帰ったらゆっくり頂きます」
「それじゃ、良いお年を」
イルはそう言って、雑踏に紛れていった。
アリスは呟くように言った。
「これだけあれば、買い物はしなくても年を越せそうですね」
アリスはいつもの通り市場で森の畑の収穫物を売ると、パンと牛乳だけ買って家に戻った。
そして年越しの夜になると、町の方で花火が上がった。
「まあ、何て綺麗なんでしょう」
アリスは家の二階から花火とライトアップされた町を眺めて、イルから貰ったご馳走を食べた。
「ハッピーニューイヤー、アリスさん」
「ブルーノ様!! この寒い中、ここまで来て下さったんですか!?」
「ええ。元気にしているかな? と思いまして」
「はい、元気です」
アリスは慌ててブルーノを家に上げた。
「ホットココア、飲みますか?」
「いただきます。ありがとうございます」
アリスはココアを入れて、パンケーキを焼くとブルーノの座っている席の机に並べた。
「簡単な物だけで申し訳ありません」
「いいえ、よかったらこれをどうぞ」
そう言ってブルーノは、よく煮込まれた肉の塊と葡萄のジュースを荷物から取り出した。
「まあ、ありがとうございます。でも、なぜ?」
「貴方に喜んで欲しかったからですよ」
ブルーノはそう言って微笑んだ。
アリスはよく分からなかったが、礼を言い、もらった肉と持っていたパンを早速切り分けてテーブルに並べた。
「あの、一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいと思うので一緒に食べて下さい」
アリスの言葉にブルーノはにっこりと笑った。
「そうですね。頂きます」
アリスとブルーノはパンに肉を挟んで食べた。
「美味しい!!」
「そうでしょう? 町で一番のお店で買いましたから」
「ありがとうございます、ブルーノ様」
アリスとブルーノが昼食を終えると、外から日差しが差し込んできた。
「気持ちよく晴れましたね。今年も良い年になると良いですね」
「そうですね」
アリスは魔物のことをしばらく忘れて、ブルーノの笑顔に見とれていた。