「ようこそ、学園ギルドへ! 受注ですか? 報告ですか?」
カウンターに座る受付嬢が、明るい声でルークたちを迎えた。
「すみません、俺たち今日初めて来たんですけど、登録できますか?」
ルークが先導して尋ねると、受付嬢はにこやかに頷き、数枚の紙を取り出して渡してきた。
用紙は三種類――登録用紙、注意事項、主な仕組みの説明。それが人数分。
「登録ですね! では、登録用紙に沿って名前、得意な役割、使用できる魔法属性などを記入して、MADと一緒に提出してください」
三人はそれぞれ用紙を記入し、MADと共に提出する。
受付嬢は確認を終えると、手際よくMADを返却し、続けた。
「確認完了です! ギルドカードができるまで、簡単にご説明しますね」
カウンター越しに、受付嬢は要点をまとめて話し始める。
「学園ギルドは、基本的に通常のギルドと似た仕組みになっていますが、いくつか違いもあります。最大ランクはSランクまで。普通のギルドだとSSSランクまであるので、そこが大きな違いですね。ですが、卒業後はここで得たランクをそのまま引き継げます!」
「なるほどな。仮想ダンジョンなら、負けても死ぬことはないし、どんどんクエスト受けたほうが得だな」
ガイが感心したように言う。
学園所有の仮想ダンジョンは、入学試験と同じ技術が応用されており、内部で死亡しても強制転送によって救われる仕組みだ。
安全に実戦経験を積める環境――まさに学生の特権だった。
「その通りです。ただし、報酬ポイントは通常ギルドの十分の一しかありません。安全な分、対価もそれなり、というわけですね。それに、ランクアップ試験も厳しく設定されています。実力が伴わなければ昇格は難しいですよ」
ルークは頷きながら聞いていた。上手い話には裏がある。それが世の常というものだ。
「仮想ダンジョンって、パーティ組んだら報酬はどうなるんですか? 例えば、EランクとSランクで組んだら、高ランククエストを楽に回れそうだけど」
ララが疑問を口にする。
「いい質問ですね。パーティを組む場合は、一番ランクの低い人のレベルに合わせたクエストしか受注できません。それと、報酬は均等割り。さらに、個々の討伐履歴や活躍状況は記録されていますので、意図的な妨害行為があった場合、厳しいペナルティが科されます」
「なるほど!」
ララが元気よく返事をすると、受付嬢は思わずクスリと笑った。それに気づいたララは、はっとして頬を赤らめた。
その様子に、ルークとガイも思わず笑みを溢す。
「もー! 笑わないでっ!」
「わるいわるい、っふ」
ガイが口元を押さえながら謝るが、笑いを堪えきれていない。
ルークも微笑みながら、心の中で別の推測を巡らせていた。
(ランク差があってもパーティを組めるってことは……上位ランク者にキャリーしてもらう抜け道も存在する。でも、学園がそれを黙認してるってことは、当然それ相応のカラクリがあるはずだ)
彼の読みは、あながち外れていなかった。ただ、それを知るのはまだ少し先の話になる。
「説明は以上です。何か質問はありますか?」
三人は顔を見合わせたが、特に異論はなく、首を横に振った。
「では、こちらがギルドカードになります。クエストの閲覧、受注、報告は受付カウンターでのみ行えますので、その際はカードを忘れずにお持ちくださいね」
「「「ありがとうございます!」」」
カードを受け取った三人は、端へ移動してそれぞれのギルドカードを確認した。
表には名前、役割、使用魔法属性。そして、ランク。
「ん? ビギナーランク?」
ガイが眉をひそめた。ルークとララも確認するが、二人も同じだった。
しばし考えた後、ルークが推測する。
「これ、Eランクのさらに下ってことじゃないか?」
「はぁ? Eランクが一番下じゃねぇのかよ」
「私もルークの意見に賛成。確かに、私たちまだランクアップ試験受けてないしね」
ガイはため息をついた。
Eランクといえば、冒険者の中でも底辺。ギルド登録さえできれば誰でもなれるようなレベルだ。そのさらに下など、想像するだけでも嫌になる。
当然、受けられる仕事も限られるだろう。雑務、肉体労働、あとは地味な奉仕活動――。
だが、それこそが冒険者という職業の本質でもあった。民を助け、国に貢献する。
派手な戦闘ばかりが仕事ではないという現実を、最初に叩き込むためのシステムだ。
それを、ガイはまだ理解していないようだったが。
「絶対雑用しかねぇだろ、これ。さっさとランクアップしてぇ……でも、試験は夏の終わり頃らしいな」
ガイがMADを操作しながらぼやく。
ルークも画面を覗き込む。ランクアップ試験には厳しい条件が課されていることが確認できた。
最初の壁は、予想以上に高そうだった。