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第二章 七話「乾杯の向こうにあるもの」

「とりあえず、条件満たしてランクアップ試験を待つしかないな。試験の受注条件ってどうなってる?」


 MADを操作しているガイに尋ねる。


「あー……、あった。クエストを十件達成すること、だってさ。内容はまだわかんねぇけど、条件自体は難しくなさそうだな」


 最初の壁はそこまで高くないように見えるが、ルークはどうにも受付嬢の言葉が引っかかっていた。


 しかし次のランクアップ試験も、夏の終わり頃。時間にはまだ余裕がある。


「じゃあ、当面は生活資金を稼ぎつつ、授業も受ける感じだね!」


 ララが前向きにまとめると、ルークも軽く頷いた。


「まぁ、それが現実的だな」


「とりあえず――夕飯にしないか?」


 ルークの提案に、誰も異論はなかった。

 三人は学園ギルド内、三階にある食堂へと向かう。


 階段を上がった先に広がるのは、香ばしい匂いと、賑わいに満ちた空間だった。


 テーブルはほぼ満席。ダンジョン帰りの生徒たちが、思い思いに食事を楽しんでいる。


「ルーク、ガイ~! こっちこっち!」


 手を振る声に目を向けると、ララが一足先に席を確保していた。


 だが、そのテーブルにはすでに三人の先客が座っている。


 戸惑うルークたちに、ララがにっこり笑って紹介を始めた。


「紹介するね。右のイケメンがメイジス君、真ん中の賢そうな人がリオ君、そしてこっちの可愛い子がモニカちゃん! 入学式で仲良くなったんだ~。三人でパーティ組んでるんだよ」


 ブロンドの髪をなめらかに流した、美形のメイジス。目を細め、どこか鋭い雰囲気を持つリオ。そして、ララに抱きつかれている、小柄で人形のような可愛らしさを持つモニカ。


(どこかで……見たことあるような……)


 モニカを見た瞬間、ルークの中に微かな既視感が走った。


「初めまして、ルークです」


「俺はガイだ」


 二人が手を差し出すと、メイジスが立ち上がり、笑顔で握手を交わしてきた。


「メイジスだ。よろしく頼むよ!」


「私はリオ。眼鏡を忘れてしまってね。目つきが悪かったら許してくれ」


「こ、こんばんわ……モニカ……です」


 モニカは小さな声で挨拶しながら、恥ずかしそうに手を伸ばした。


 皆で握手を交わし、自然と空気が和らいでいく。


「ささ、座って座って。一緒に食事をしよう!」


 メイジスたちが気を利かせて席を詰めてくれる。


 ルークたちは礼を言って、彼らの向かい側に腰を下ろした。


 リオがメニュー表を三人に差し出す。写真付きの料理一覧に目を通すと、どれも美味しそうで目移りしてしまう。


 そこへ店員のおばちゃんがオーダーを取りに来た。


「注文は決まったかい?」


「僕らはもう頼んだから、ルークたちでどうぞ」


 メイジスの言葉に促され、それぞれ注文を決める。


「俺はリップスと香草チキンのステーキ、あとバケット!」


「俺はリップスに、ワイルドボアのシチューとスモークチキンとチーズのフィローネ」


「私はアストレアポークと春野菜のペンネで!」


 オーダーを済ませると、飲み物だけ先に運ばれてきた。


 ララが勢いよくグラスを手に取り、立ち上がる。


「ね! せっかく集まったんだし、乾杯しようよ!」


 戸惑う空気が漂ったが、意外な人物が乗ってきた。


「わ、わたしも……そういうの、やってみたい……」


 モニカが、控えめにグラスを掲げたのだ。その姿に、メイジスとリオも驚きを隠せない。


「モニーがそんなこと言うの、初めてだな」


「本当に。ララ、君の影響力は恐ろしいな」


 二人の目線は、どこか兄や親のようだった。モニカのか弱さが、自然と守りたくなる気持ちを引き出すのだろう。


 そんな空気の中、ガイがさらっと言った。


「ははっ、ララに影響されてるなら、そのうち悪影響に変わるな!」


 間髪入れず、ララの拳がガイの頭に落ちる。


「次言ったら、もっと強く殴るよ!」

「いってぇ! 今ので十分だろ!」


 そんなやりとりに、皆が笑い声を上げた。


 ルークは微笑みながら、グラスを掲げる。


「じゃあ、夫婦漫才が見れたこの集まりに――乾杯!」


「は?!」

「ちょ、なにそれ――」


「「「かんぱーい!」」」


 ツッコミを置き去りにして、グラスが触れ合う。


 程なくして料理が運ばれ、食事が始まった。どれも美味で、量も多く、成長期の生徒たちにはまさに理想的な食堂だった。


 楽しい時間が流れる中、メイジスがふと問いかけた。


「ところで、みんなはどうしてアストレア学園に?」


 テーブルの上に静かな間が落ちる。この学園は、誰もが簡単に入れる場所ではない。


 ここを目指した理由は、それぞれにあるはずだった。


 そして、口火を切ったのはガイだった――。

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