「九月初め、夏休み明けに行われる“学年別闘技大会”。その優勝者には、王国から特別報酬が贈られる。その中に、例の実りが含まれていた」
「まじかよ……」
ガイが目を見開いた。
ララも驚きつつ、眉間に指を添えて考える。
「学年別闘技大会って学園の風物詩みたいになってるよね。たしか、ランキングにも大きく影響与えるから皆こぞって参加するイベントだったような」
「ああ。皆、死に物狂いで優勝を狙いにくる。簡単には取らせてくれないだろうな」
メイジスが言う。
「僕たちが優勝すれば、“世界樹の実り”が手に入る。つまり――サシャさん、モニーのお姉さんを救えるかもしれない」
ルークの心臓が、わずかに早鐘を打った。
目の前に差し出された可能性。それは、どこか現実感が薄くて、けれど確かに――希望だった。
「どうする、ルーク? 個人的には信頼出来る仲間を募って、誰かが優勝できればいいと思っているんだが」
メイジスがまっすぐな眼差しで問う。
その横で、モニカもそっと手を握りしめながら、小さくうなずいていた。
「やるしかないっしょ」
ガイがにやりと笑う。
「私も、やるよ」
ララが静かに言う。
「……ああ、取りに行くぞ。――優勝」
ルーク達の決意にメイジスは笑みを浮かべ礼を言う。
「ありがとう! なら決まりだな。僕、リオ、モニカ。そしてルーク、ララ、ガイ――六人で優勝を取りに行こう!」
皆が満足げに頷いたそのとき――
「私も、その中に入れてくれるかしら?」
扉の方から、どこか場違いなほど艶やかな声が響いた。
「ミレーナ……?」
振り返ると、そこには病衣を脱ぎ、すっかり元の制服に着替えたミレーナが立っていた。
すらりと伸びた足、涼やかな瞳、そして――意思を秘めた笑み。
「ルークの力になりたいの。今度は私が、支える番だと思って」
その言葉に、メイジスたちは素直に驚き、そして好意的に頷いた。
「歓迎……します!」
モニカがすぐに笑顔を向ける。
「戦えるなら、戦力は多い方がいいしな」
ガイも同調する。
だが――
「ちょっと、待って」
ララの声だけが、冷たく響いた。
「ミレーナちゃん……前回の件でルークに迷惑かけたのを忘れたわけじゃないよね? そもそも、まだ完全に回復したわけじゃないでしょ?」
「……あら。そう言うなら、ちゃんと回復してるかどうか、あなたが見極めてみたら?」
ミレーナが挑発気味に微笑む。
ララも目を細め、火花が散るような空気が流れた。
「はい、ストップ」
ルークが二人の間に割って入る。
「ここは喧嘩する場所じゃない。目的は“勝つこと”だろ?」
ララはむっとしながらも、視線を逸らす。
「……わかってる」
ミレーナも小さく肩をすくめた。
「なら、決まりだ」
メイジスが場を整えるように言う。
「そのためには、まず実力の把握だ。今のままじゃ、どれだけ戦えるか未知数すぎる」
ルークは頷き、立ち上がった。
「演習場を借りよう。……模擬戦だ。全員の力を見せてもらう」
◆
数十分後。
ルークたちは学園の演習場に集まっていた。
陽が傾き始めた広い土地に、七人の影が並ぶ。
「全員まとめて相手する。手加減はしなくていいぞ」
そう言って剣を構えたルークに、全員が本気の構えを取る。
「こっちこそ、全力でいかせてもらうわ」
ミレーナが目を細める。
号令とともに、一斉に飛びかかる六人。
――が。
「うわっ、動きが……!」
「は、速っ!」
「くっ……重心を崩された……!?」
わずか数分。演習場の中央には、ぜぇぜぇと肩で息をする六人と、一人だけ平然と立つルークの姿があった。
座り込むララ、寝転ぶガイ、額に汗を浮かべるミレーナ。
メイジスたちも膝をつき、その差の大きさに歯噛みするしかなかった。
そんな様子を見下ろして、ルークが言う。
「……全然ダメだな」
「お前……ほんと、強すぎ……」
ガイが情けなく倒れたまま呻いた。
ルークは剣を腰に戻し、静かに言葉を続ける。
「今のままじゃ、優勝は無理だ。……だから、俺から一つ提案がある」
全員の視線がルークに集まる。
「聞くか?」
ルークの問いに、全員が頷き、息を呑んだ。