閉じていた目を開くとそこは、かよの自宅ではなかった。石畳に石の壁。大きな円の中には直線で木のようなものが描かれており、それとは別に描かれている三角形の頂点にある小さな円の中に、かよは倒れていた。ゆっくりと起き上がると、別の小さな円2つには、制服を着た女子高生が1人ずつ横たわっていた。女子高生2人も目を覚ましたのか、上体を起こす。
「
「
同じ制服の女子高生2人はどうやら友人同士のようだ。円の外から出て抱きあっている。
そのとき、足音がした。音がしたほうを見ると、そこには50代くらいの男性を中心に、男女合わせて4人が立っていた。
「お初にお目にかかります。3名の聖女様。こちらは、あなたがたの世界とは異なる場所でございます。我々の世界にある、聖樹のために、召喚魔法を用いてお呼びしました」
かよは目の前にいる男性の言葉が、にわかに信じられなかった。しかし直前の緑の光に包まれて落下したことも含めて考えると、いたずらとも考えられなかった。かよの自宅に、第三者が手品のタネを仕込むことなどできないのだから。
見ると、女子高生2人は不安そうに抱き合っている。
(ここは、私がしっかりしなくちゃ)
かよはひそかに握り拳を作った。
「用件を話す前に、せめて名乗るくらいのことは、したらいかがでしょうか」
守らなくては、自分より10歳近く年下の子たちを。かよは、中央の男性を見つめる。すると中央の男性は「失礼しました」と恭しく腰を折った。
「ワタクシはジョバロンと申します、聖女様がた。お三方の力をお借りしたく、召喚魔法でお呼びしました。どうか、話を聴いていただけませんでしょうか?」
かよは、中央の男性をじっと観察した。穏やかそうに見えるが、わざわざ未成年を2人も召喚しているのだ、すぐに信用していいはずがない。情報を聞き出さなければ。
「話、というのは、あなたがたの目的についてですか? それとも現状について?」
「どちらも、です」
「……わかりました。話を聴きましょう」
一言一句聞き逃さぬよう、かよは耳をそばだてる。
「まずは、ここが聖女様たちの世界とは異なる、という点からご説明いたします。ここは聖樹によって支えられ存在しており、聖樹が枯れてしまうと、世界が崩壊すると言われています。ほかには、そうですね。こちらを見ていただくほうが早いかと」
そう言って中央の男性は上着を脱ぎ手のひらを、かよたちに見せる。そして聞き取れない言葉を呟いた。すると手の中にサッカーボール大の炎が現れた。上着を脱いだ男性の服は七分袖で手首になにか隠しておくことはできない。中央の男性はさらに、もう片方の手に球体の水を出した。
かよは念のため握り拳に強く力を込めた。痛い。つまり、現実だ。
「……話も進みませんし、とりあえずは信じます」
「ありがとうございます。聖樹を枯らさないためには、強い願いの力が必要なのです。あなたがたには、聖樹のために一定期間、祈りを捧げていただきたいのです」
一定期間。便利な言葉だ。かよは確認のために2つの質問を投げかけた。
「具体的にどれくらいの期間なんですか? それから、私たちをわざわざ召喚する理由は? 祈りを捧げさせるためなら、こちらの世界の人間でもいいでしょう」
「聖女様の言うことはごもっとも。順に説明を。まず、具体的な期間についてですが、はっきりと申し上げるのは難しく。長くて2年半くらいかと」
「短かったら?」
「1年くらいでしょうか」
ずいぶんと幅がある。そこは祈りの時間や質次第なのだろう。中央の男性、ジョバロンは続けて、かよの質問に答えた。
「続いて、なぜ異世界の
つまり、かよたちが初めての聖女ではないわけだ。どうりで説明に淀みがなく、証拠を見せる方法ですぐに魔法を選べたわけだ。
「なぜ私たちなんですか? どんな基準なんですか?」
「願いの力の強さです。祈りとはつまり、願う力。聖樹へ枯れないでほしいと強く願える方を聖女として召喚しているのです」
ジョバロンの言葉をどこまで信じていいのだろうか。かよは、1番重要なことを尋ねる。
「もしも、聖女の任を拒否したら?」
「そうですね。……聖樹は常に栄養を欲している、とだけ言っておきましょうか」
「……そちらには、ずいぶんと利益があるようですけど、こちらには?」
「衣食住の確保はもちろん、丁重にもてなします。ここ、【ジュネの祈り】の建物から外に行くことは叶いませんが、敷地内は自由に散策していただいて問題ありません。祈りの時間以外は、自由に過ごしてください。もちろん、護衛もお付けします」
護衛、といえば聞こえはいいが、おそらく見張りだろう。ジョバロンは微笑みを浮かべている。
「それでは護衛を紹介します。どうぞ、こちらへ」
自分の都合のいいように事を運びたいようだが、そうはいかない。3人の中で最年長なのは、かよだ。しっかりしなければ。