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4.護衛

 かよは口を開いた。

「その前に、私たちだけで話をさせてください」

 女子高生2人と情報の共有と、身元の把握をしておきたい。ジョバロンは「いいでしょう」と言って、ほかの男女とともに部屋の隅へ移動した。

 かよは女子高生2人に近づき、屈んだ。

「私は品川かよ。25歳のOLで、自分の部屋にいたの。あなたたちは?」

 女子高生2人は不安そうに顔を見合わせたのち、小さく頷きあった。茶髪のロングヘアーの女子高生が口を開いた。

「下野彩芽、高校2年生。この子と一緒に街にいたら、突然光に包まれて」

「わたしは大垣百合花です。同じ2年です」

「下野さんと、大垣さんね。……あのジョバロンって男の言うことを信じるなら、ここは異世界で、聖樹って存在に祈りを捧げなければ、私たちに命はないみたい」

「え、殺されるってこと?」

 不安そうな下野に、かよは頷く。

「な、なんでわかるんですか?」

 かよは尋ねてきた大垣に答えを述べた。

「さっきの会話で『聖樹は栄養を欲しているとだけ言っておく』って言ったでしょ? 私たちを肥料に、つまり死体にするって圧力かけられたの」

 下野と大垣の顔が青くなる。

「じゃ、じゃあ、アタシたち、どうすれば……」

「彩芽……」

 かよは、下野と大垣の肩にそっと手を置く。

「とにかく、今は彼らの言うことを聞くほうがいいと思う。もし、困ったことがあったら、私にも教えて。彼らと交渉してみる」

 下野と大垣は小さく頷いた。かよは「行こっか」と言って、2人にペースを合わせながら立ち上がる。

「お待たせしました」

 かよは下野と大垣の前に立つ。

「かまいませんよ。では、改めて護衛を紹介しましょう。どうぞ外へ」

 そのとき部屋の扉が開いた。2人は20代くらいの女性だが、残る1人は人間ではなかった。真っ黒な毛に覆われて青い目、二足歩行をしているクロヒョウのような存在だ。おそらく獣人と呼ばれる種族なのだろう。毛の雰囲気から察するに、かよたちより30歳から40歳くらい年上だと思われる。

「聖女様がた、お初にお目にかかります。我らはこの【ジュネの祈り】に属している騎士団、【聖樹の盾】のものです。私は団長のケイ・ホリアと申します」

「アイネ・シャーラです」

「ネージェ・クライです」

 3人の騎士は自己紹介をすると、同時に頭を下げた。

「それでは、護衛に部屋を案内させますので、ついて行ってください。なにかあれば彼らにお申し付けを。それでは、頼みましたよ」

「承知した。聖女様がた、ご案内いたします」

 かよは口を開いた。ある提案をするために。

「下野さんと大垣さんを、先に案内してください。ジョバロンさん、少しお話があるんですけど、いいんですか?」

「ええ、もちろんですとも」

 下野と大垣が不安そうに、かよのほうを見た。かよは微笑む。

「それとも一緒に行ったほうがいい?」

 下野と大垣は小さく何度も首を縦に振った。今2人を不安にさせるのは、よくないだろう。

「わかった。ちょっとここで待っててくれる? すみません、2人をお願いします」

「御意に」

 かよとジョバロンは再び部屋に入った。かよの前方にいるジョバロンが、こちらを向く。

「それで聖女様、話というのは?」

「交渉をしたくて」

「交渉?」

「ええ。祈りを捧げた時間や質で、私たちの滞在が決まるって考えていいんですかね?」

「ええ、そうですね」

「それなら、私が長めに祈りを捧げます。なので、あの2人を早めに元の世界に帰してあげてください。ここではどうかわかりませんが、私たちの世界では、あの子たちはまだ子どもなんです」

「なるほど。……わかりました、いいでしょう」

 要求が通ったが、かよは安堵したことを悟られないように気をつけた。なんとなく、ジョバロンにすべてを見せてはいけないような気がする。

「それから、このことは2人には伝えないでください」

「わかりました。ほかにご要望は?」

「……ああ、食事に関してですけれど、あの2人にアレルギーがないか、確認してください」

「ああ、体質の問題で食べられない食材があるという。わかりました。聖女様には、アレルギーというものはありますか?」

「いえ、特に。それでは」

 かよは扉を開け、外に出た。

 廊下にいた下野と大垣は、かよを見ると安堵の表情を浮かべた。

「ごめんね、お待たせ。すみません、部屋の案内をおねがいします」

「はっ。こちらです」

 先頭を団長のケイが進む。2人の女性の騎士は、かよたち3人の後ろについた。

 カーブを描いた階段を上がり、すぐそばにある扉の前でケイが立ち止まり、説明をはじめる。

「こちらの横並び3部屋が聖女様がたのお部屋です。それぞれ部屋同士は、室内にある別の扉で繋がっております。それから向かって左側のお部屋の隣2つは、我々聖女つき騎士の部屋です。ご用がありましたら、中に置いてあるベルを鳴らすか、どちらかのドアをノックしてください」

 中での移動が可能なら、騎士たちに内密にしながら3人で話し合うことができる。

「部屋の割り振りは、私たちが決めても?」

「もちろんです」

 かよは下野と大垣のほうを振り返った。

「2人はどの部屋がいいとかある? 隣同士のほうがいいかな?」

 下野と大垣は互いに顔を見合わせ、ほぼ同時に頷いた。予想どおりだ。

「どっちの隅でも大丈夫? 騎士さんの部屋に近いほうがいい?」

「彩芽、どうしよう?」

「アタシは百合花と隣だったら、どっちでも大丈夫」

「わたしも」

「じゃあ、私が騎士さんの隣の部屋でもいい?」

 下野と大垣が再度首を縦に振る。

「それでは、我々は失礼いたします」

 ケイと女性騎士たちは軽く頭を下げ、立ち去った。

「それじゃあ、私、部屋に入るね」

 かよは一足先に扉を開けた。

 部屋は一つなのにも関わらず、かよの自宅よりずっと広かった。家具は白色でところどころ金があしらわれている。ベッドは天蓋つき。天井にはシャンディアが吊るされている。

(漫画やアニメでしか見たことがない豪華さだっ)

 ベッドもキングサイズで、1人で眠るのが少々もったいなく感じる。入って右側の壁にはたしかに別の扉があった。ケイが話していたものだろう。しかし左に扉はないので、騎士は外から入るしかなさそうだ。

 窓から外を見る。どうやら夜のようだ。

 そのとき、扉が閉まる音が2つした。どうやら下野も大垣も部屋に入ったようだ。かよはこっそりと部屋を出て、隣にある騎士の部屋の扉を控えめに叩いた。

「はい」

 部屋から出てきたのはケイだった。かよは小声でケイに頼んだ。

「あの、下野さんと大垣さん……私以外の聖女には、もし可能であれば、女性の騎士さんに対応をお願いしてもいいですか? 私はあれくらいの年齢のとき、同性のほうが安心できたので」

「承知しました」

「ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」

 かよは隣にある自分の部屋に戻る。

(今、下野さんと大垣さんのところに行ったら、ほっとする時間がないよね。多分頭の中や心も整理したいだろうし。……私も少し休も)

 しわ一つないベッドに飛びこむのに、なんとなく抵抗があったので、ソファーに横たわった。

(ああ、すごくふかふか。……ここは、なんて名前の世界や国なんだろう? 地理は? 食生活は?)

 考え出すと、きりがない。かよは思考を強制終了するかのように、ゆっくり目を閉じる。なにも見えない暗闇は心地よかった。


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