それから1ヶ月経った。
あれ以来、敵の襲撃は無い。
僕らの気も緩んでいた。
「ハク、家に閉じ籠るのも飽きて来たんだけど、どこかに気晴らしに行かない?」
桜花が、猫撫で声で言う。
「ダメだ。敵に襲われたらどうする?」
「もう1ヶ月経つんだし、大丈夫だよ。」
「ダメだ。そう言う油断は命取りだ。」
「ケチ。」
「ケチで結構。」
とはいえ、確かにこのままでは息が詰まる。
たまには息抜きもいいか。
「よし、明日、遊園地に行こう。」
「本当に?やったー!」
こうして、僕らは遊園地に行くことになった。
翌日。
マジックランドは、老舗の遊園地だ。
乗り物は、地味で古い物が多いけど、まあまあ楽しめる。
「ハク!ジェットコースターに乗ろう!」
「よし。乗ろう。」
ここのジェットコースターは、開園当時からある。
古くて別の意味で怖いコースターだ。
レールが軋む音がして、不安になる。
「怖かったー。」
桜花の笑顔が見れて良かった。
「次は、メリーゴーランド行こー!」
ここのメリーゴーランドもなかなか年季が入っている。
そして、意外に目が回る!・・・うっ、酔ってしまった、、、。
「大丈夫?ハク?休憩しよっか。」
「うん。そうしよう。」
僕らは外にある屋根付きのテーブルに座った。
「じゃあ、ポップコーンでも、買ってくるよ。」
「飲み物もお願いね。」
「わかったよ。」
僕は、ワゴンに向かった。
その時、桜花を狙う者がいる事に、僕は、まだ気付いていなかった。
「桜花、とりあえずポップコーン買ってきた。ドリンクも買ってくるから、もう少し、待ってて。」
「うん、わかった。」
僕は自販機に走った。
シューっと、何かが風を切る音がした。
バシッ。
桜花の結界に、それが刺さる。
念のために結界をはっておいて良かった。
これは矢だ!どこか遠くから、桜花を狙っている!
「桜花!こっちだ!」
僕が叫ぶと、すぐに桜花がこっちに向かって走り出した。
シューっ、バシッ。
シューっ、バシッ。
矢は何本も飛んでくる。
桜花が僕のところまできた。
すると、
ウオーっ!
筋骨隆々のイカつい男が、すごい勢いで僕らの方に向かって来た!
僕は魔法を唱えた。
「岩よ、出でよ。ウォール!」
巨大な岩の壁で足止めする。
ドカッ
「ナンノこれしき!」
岩の壁が簡単に破られた。ならば!
「氷よ、出でよ。ブリザード!」
男を氷の雨が襲う。
体が氷漬けになり、男の動きが止まった。
「クソー!」
男はもがいているが動けない。
シューっ!バシッ!
矢がまだ飛んでくる。
シューっ!バシッ!
僕は、矢が放たれた方を見て目を凝らした。
木の陰に弓矢を持った人影がいる。
僕は魔法の範囲を絞り込み、狙いを定めた。
「炎よ、出でよ。フレーム!」
炎の矢が人影に向かって飛ぶ。
うわぁ!
命中だ。
僕は念の為、大男に、もう一度アイスの魔法をかけたあと、木の影に向かった。
そこには、弓矢を持った女が倒れていた。
僕は女を捕え、大男のところに連れて行った。
「桜花、頼む。」
「うん、わかった。束縛せよ、チェーン!」
2人の敵が、魔法の鎖で捕縛された。
僕らは場所を変えることにした。
さて、2人から情報を聞き出そうか。
男の方は、明らかに戦士(ウォリアー)だろう。
いかにも戦士という感じの体も顔もいかつい男だ。
女の方は、弓使い(アーチャー)だ。
金髪で長い髪を結んでいて、外国人のような顔をしている。目つきは鋭いが、吸い込まれそうな碧い瞳をしている。
そして、恐らく、2人とも転生者だ。
「君らは、何者で、誰から指示された。言え。」
「俺は戦士のジェット。あいつは、アーチャーのイボンヌ。2人とも、この世界の人間じゃない。」
「転生者と言うことだな?」
「そうだ。」
僕らの他にも転生者がいた。日本には一体、何人の転生者がいるんだろう?
「どうやって転生したんだ?」
「俺とイボンヌは、同じパーティだった。ある日、強力な魔物に遭って、死んだんだ、そして、気付いたらこの世界にいた。」
「それで?」
「そこに、ある男が現れた。君達に力になって欲しいと言われた。訳がわからなかったが、ついて行ったよ。そしたら、何から何まで世話してくれた。この世界のことも教えてくれた。」
「男の目的は?」
「この世界の魔王になると言っていた。」
あいつだ。『日記の男』!
「その男は、転生者なのか?」
「自分も転生者だと言っていた。名はアバン。」
「アバン・・・。聞いたことがあるような。」
「アバンにはさらに上のボスがいるらしい。」
「さらに上・・・そいつの名は?」
「そいつの・・・グッ、ガハッ、」
ジェットが急に苦しみだした。
そして、血を吐いて絶命した。
「・・・なんて、惨いことを。」
桜花は思わず手で顔を覆う。
僕は、桜花を抱き締めた。
イボンヌには、今のところ異常がない。
「あ、あたしは、死にたくない!!助けてくれ!!」
イボンヌが泣き叫ぶ。
「桜花、イボンヌに掛かった呪いを無効化できるか?」
「やってみる。無効化せよ。ヴォイド!」
桜花のかざした手が青白く光り、イボンヌを包む。
イボンヌを包んだ光が四散して飛び散った。
「大丈夫。呪いは解けたよ。」
「ほんとかい?あ、ありがとう。恩にきるよ。改めて、あたしはイボンヌ。アーチャーだ。」
「イボンヌ。君は行く場所はあるのかい?」
僕は聞いてみた。アーチャーが仲間になれば、遠距離攻撃が出来るし、心強い。
「今のあたしに行く場所なんて無いよ、都合がよすぎると思うけど、もし良ければ、あんたの仲間にしてくれるかい?」
「もちろん。」
こうして、イボンヌが仲間になった。
「イボンヌさん、よろしくね。私はヒーラーの桜花。」
「僕は、魔法使いのハッ、博(ハク)。」
「ハク、あんた、もしかして『大魔法使いハック・フォクサー』かい?」
「・・・その名前は、こっちの世界では使ってない。」
「やっぱり、ハックか!私はとんでもないお方に喧嘩を吹っ掛けたんだね。」
「やめてくれ。君はもう仲間だ。」
「ありがとう。ハク。」
イボンヌは笑って言った。
こうして、僕らはイボンヌが加わり3人パーティ(?)になった。
家に戻った僕らは、ひとまず休息を取ることにした。
幸いなことに、まだ空き部屋があったので、イボンヌには桜花の隣の部屋を使ってもらうことにした。
「イボンヌさんのこと、詳しく教えて?元の世界では、どんな感じだったの?」
桜花はイボンヌに興味津々だ。
「あたしは、この世界では普通の人間だが、もともとはエルフだ。」
「エルフ。不老不死の?」
「エルフでも急所に致命傷を受ければ死ぬ。あたしも勇者ユウ一行に憧れて冒険者になったんだけど、旅の途中で運の悪いことにドラゴンとの戦いになってね。ジェットもあたしも死んだんだ。」
「イボンヌさんは日本での記憶は無いの?」
「それが、思い出せないんだ。アバンの魔力のせいかも知れない。2人分の記憶があっても混乱しそうだし、このままでもいい気がするけど・・・。」
「私たちは、こっちの人生の記憶もあって、元の世界の記憶はあいまいなの。だいぶ、戻っては来てるけど。」
「アバンを倒すつもりなら、本来の力を取り戻さないとと無理なんじゃないかな?」
「そうかー。ハク、もっと鍛錬しなくちゃだね。」
桜花に言われて、僕は深く頷いた。