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第7話 遊園地

それから1ヶ月経った。

あれ以来、敵の襲撃は無い。

僕らの気も緩んでいた。


「ハク、家に閉じ籠るのも飽きて来たんだけど、どこかに気晴らしに行かない?」

桜花が、猫撫で声で言う。

「ダメだ。敵に襲われたらどうする?」

「もう1ヶ月経つんだし、大丈夫だよ。」

「ダメだ。そう言う油断は命取りだ。」

「ケチ。」

「ケチで結構。」

とはいえ、確かにこのままでは息が詰まる。

たまには息抜きもいいか。

「よし、明日、遊園地に行こう。」

「本当に?やったー!」

こうして、僕らは遊園地に行くことになった。



翌日。



マジックランドは、老舗の遊園地だ。

乗り物は、地味で古い物が多いけど、まあまあ楽しめる。

「ハク!ジェットコースターに乗ろう!」

「よし。乗ろう。」

ここのジェットコースターは、開園当時からある。

古くて別の意味で怖いコースターだ。

レールが軋む音がして、不安になる。

「怖かったー。」

桜花の笑顔が見れて良かった。


「次は、メリーゴーランド行こー!」

ここのメリーゴーランドもなかなか年季が入っている。

そして、意外に目が回る!・・・うっ、酔ってしまった、、、。


「大丈夫?ハク?休憩しよっか。」

「うん。そうしよう。」

僕らは外にある屋根付きのテーブルに座った。

「じゃあ、ポップコーンでも、買ってくるよ。」

「飲み物もお願いね。」

「わかったよ。」

僕は、ワゴンに向かった。



その時、桜花を狙う者がいる事に、僕は、まだ気付いていなかった。


「桜花、とりあえずポップコーン買ってきた。ドリンクも買ってくるから、もう少し、待ってて。」

「うん、わかった。」

僕は自販機に走った。


シューっと、何かが風を切る音がした。

バシッ。

桜花の結界に、それが刺さる。

念のために結界をはっておいて良かった。

これは矢だ!どこか遠くから、桜花を狙っている!

「桜花!こっちだ!」

僕が叫ぶと、すぐに桜花がこっちに向かって走り出した。


シューっ、バシッ。

シューっ、バシッ。


矢は何本も飛んでくる。


桜花が僕のところまできた。

すると、

ウオーっ!

筋骨隆々のイカつい男が、すごい勢いで僕らの方に向かって来た!

僕は魔法を唱えた。

「岩よ、出でよ。ウォール!」

巨大な岩の壁で足止めする。

ドカッ

「ナンノこれしき!」

岩の壁が簡単に破られた。ならば!

「氷よ、出でよ。ブリザード!」

男を氷の雨が襲う。

体が氷漬けになり、男の動きが止まった。

「クソー!」

男はもがいているが動けない。

シューっ!バシッ!

矢がまだ飛んでくる。

シューっ!バシッ!

僕は、矢が放たれた方を見て目を凝らした。

木の陰に弓矢を持った人影がいる。

僕は魔法の範囲を絞り込み、狙いを定めた。

「炎よ、出でよ。フレーム!」

炎の矢が人影に向かって飛ぶ。

うわぁ!

命中だ。

僕は念の為、大男に、もう一度アイスの魔法をかけたあと、木の影に向かった。

そこには、弓矢を持った女が倒れていた。

僕は女を捕え、大男のところに連れて行った。

「桜花、頼む。」

「うん、わかった。束縛せよ、チェーン!」

2人の敵が、魔法の鎖で捕縛された。

僕らは場所を変えることにした。



さて、2人から情報を聞き出そうか。

男の方は、明らかに戦士(ウォリアー)だろう。

いかにも戦士という感じの体も顔もいかつい男だ。

女の方は、弓使い(アーチャー)だ。

金髪で長い髪を結んでいて、外国人のような顔をしている。目つきは鋭いが、吸い込まれそうな碧い瞳をしている。

そして、恐らく、2人とも転生者だ。

「君らは、何者で、誰から指示された。言え。」

「俺は戦士のジェット。あいつは、アーチャーのイボンヌ。2人とも、この世界の人間じゃない。」

「転生者と言うことだな?」

「そうだ。」

僕らの他にも転生者がいた。日本には一体、何人の転生者がいるんだろう?

「どうやって転生したんだ?」

「俺とイボンヌは、同じパーティだった。ある日、強力な魔物に遭って、死んだんだ、そして、気付いたらこの世界にいた。」

「それで?」

「そこに、ある男が現れた。君達に力になって欲しいと言われた。訳がわからなかったが、ついて行ったよ。そしたら、何から何まで世話してくれた。この世界のことも教えてくれた。」


「男の目的は?」

「この世界の魔王になると言っていた。」

あいつだ。『日記の男』!

「その男は、転生者なのか?」

「自分も転生者だと言っていた。名はアバン。」

「アバン・・・。聞いたことがあるような。」

「アバンにはさらに上のボスがいるらしい。」

「さらに上・・・そいつの名は?」

「そいつの・・・グッ、ガハッ、」

ジェットが急に苦しみだした。

そして、血を吐いて絶命した。

「・・・なんて、惨いことを。」

桜花は思わず手で顔を覆う。

僕は、桜花を抱き締めた。


イボンヌには、今のところ異常がない。

「あ、あたしは、死にたくない!!助けてくれ!!」

イボンヌが泣き叫ぶ。

「桜花、イボンヌに掛かった呪いを無効化できるか?」

「やってみる。無効化せよ。ヴォイド!」

桜花のかざした手が青白く光り、イボンヌを包む。

イボンヌを包んだ光が四散して飛び散った。

「大丈夫。呪いは解けたよ。」

「ほんとかい?あ、ありがとう。恩にきるよ。改めて、あたしはイボンヌ。アーチャーだ。」

「イボンヌ。君は行く場所はあるのかい?」

僕は聞いてみた。アーチャーが仲間になれば、遠距離攻撃が出来るし、心強い。

「今のあたしに行く場所なんて無いよ、都合がよすぎると思うけど、もし良ければ、あんたの仲間にしてくれるかい?」

「もちろん。」

こうして、イボンヌが仲間になった。

「イボンヌさん、よろしくね。私はヒーラーの桜花。」

「僕は、魔法使いのハッ、博(ハク)。」

「ハク、あんた、もしかして『大魔法使いハック・フォクサー』かい?」

「・・・その名前は、こっちの世界では使ってない。」

「やっぱり、ハックか!私はとんでもないお方に喧嘩を吹っ掛けたんだね。」

「やめてくれ。君はもう仲間だ。」

「ありがとう。ハク。」

イボンヌは笑って言った。


こうして、僕らはイボンヌが加わり3人パーティ(?)になった。




家に戻った僕らは、ひとまず休息を取ることにした。

幸いなことに、まだ空き部屋があったので、イボンヌには桜花の隣の部屋を使ってもらうことにした。

「イボンヌさんのこと、詳しく教えて?元の世界では、どんな感じだったの?」

桜花はイボンヌに興味津々だ。

「あたしは、この世界では普通の人間だが、もともとはエルフだ。」

「エルフ。不老不死の?」

「エルフでも急所に致命傷を受ければ死ぬ。あたしも勇者ユウ一行に憧れて冒険者になったんだけど、旅の途中で運の悪いことにドラゴンとの戦いになってね。ジェットもあたしも死んだんだ。」

「イボンヌさんは日本での記憶は無いの?」

「それが、思い出せないんだ。アバンの魔力のせいかも知れない。2人分の記憶があっても混乱しそうだし、このままでもいい気がするけど・・・。」

「私たちは、こっちの人生の記憶もあって、元の世界の記憶はあいまいなの。だいぶ、戻っては来てるけど。」

「アバンを倒すつもりなら、本来の力を取り戻さないとと無理なんじゃないかな?」

「そうかー。ハク、もっと鍛錬しなくちゃだね。」

桜花に言われて、僕は深く頷いた。

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