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第9話 盗賊

翌日、僕らはカレー以外の料理を作るため、食材の買い出しにスーパー「ヨサゲヤ」に来ていた。

「お菓子♪お菓子♪」

「お酒♪お酒♪」

桜花とイボンヌは、とっても楽しそうだ。

目的が違う気がするが。



そんな浮かれている僕らを狙う一人の影がいた。




僕らは、そんなこととは露知らず。

買い物に夢中だった。

「お菓子♪お菓子♪」

「お酒♪お酒♪」

「お菓子とお酒は一つずつ!!」

「ケチっ!」

「ケチッ!」

この2人、相性が良いらしい。

「ケチじゃない!まったくもう。」


その時、一陣の風が吹いた。。。



僕のセンサーが危険を敏感に察知した!

今、何か盗られた!!

そして、反射的に逃げる影を追って走り出した。

速い!!逃げられる!!


「桜花!」

僕は、桜花に目配せする。

「わかった!束縛せよ!チェーン!」

桜花の魔法が影に命中した。

「うわッ!ちっくしょう!!」

桜花のチェーンはもがけばもがくほど締め付けられる。

よく見ると、影は、桜花くらいの年齢の少年だった。

手には、僕の魔法の杖を持っている。

・・・危なかった。

貴重な武器を盗られるところだ。


遅れてイボンヌもやってきた。

「あんたら速すぎるよ。」

息を切らしている。

「放せ!逃がしてくれたら、これ返すから!」

少年がバタバタともがいている。

僕は落ち着いて言った。

「君、名前は?」

「おいらは、ロック。ロック・ライオンハート。シーフ(盗賊)だ」

桜花と同じくらいの年だろうか?少し成長した”ピーター・パン”といった雰囲気のヤンチャさが漂っている。赤髪で茶色い瞳の青年だ。


「ロック。君は転生者だね?」

「転生?それは知らないけど、おいらは、この世界の人間じゃない。別の世界から来たんだ。」

「僕らもそうなんだよ。」

「あんたらも?」

「僕は博(ハク)。元の世界での名前は、ハック・フォクサー。魔法使いだ。」

「ハックって、あの大魔法使いのハックか!こいつはすげえ。」

「私は、桜花。元の世界での名前は、オウカ・ブロッサム。」

「オウカって、勇者パーティのヒーラーじゃねえか!?」

「私は、イボンヌ。アーチャーだ。」

「アーチャー、ってことはエルフか?」

「そうだよ。今は違うけどね。」

イボンヌが笑って言った。


僕は続けた。

「じゃあ、ロック。君はこれからどうしたい?」

「どうって?」

「僕らは、これから君の拘束を解く。君は、杖を返してこの場を立ち去るか。それとも、僕らの仲間になるか。二択だ。」

ロックはしばらく考えて答えた。

「なら、仲間になるよ。面白そうだから。」

「よし、決まりだ。桜花、拘束を解いてやれ。」

「わかった。」

桜花がロックの拘束を解いた。

「いやー、キツカッタ。手加減無しなんだもんな。」

「もう、盗みはするなよ。」

「わかった。おいら、これからずっと、あんた達についていくよ。」




こうして、盗賊(シーフ)のロックがパーティに加わった。




ひと騒動あったが、僕たちはスーパーに戻って、買い物の続きをした。

「お菓子♪お菓子♪」

「お酒♪お酒♪」

「めし♪めし♪」

・・・厄介なのが一人増えた気がする。


食材の買い物を済ませた僕たちは、家に帰った。

ちょうど、もう一部屋空いていたので、ロックの寝室は、僕の隣になった。


その夜は、ロックの話になった。

「おいらは、赤ん坊の時にスラムに捨てられて、スラムで育った。子供のころからずっと盗みをやって生きてきたんだ。そんな時に、勇者パーティ一行を見て、おいらもあんな風になりたいと思っちまった。そうなるためには、真っ当にならなきゃいけない。おいらは頑張って何とかギルドに登録して、ただの盗人からシーフになった。でも、しくじっちまったんだ。馬車の荷台から荷物を掻っさらおうとした盗人を見つけて。追っかけてる途中に、崖下に堕ちちまった。気が付いたらこの世界にいたってわけ。」


「ロック。苦労したんだな。」

僕は、ロックの明るさは、暗い過去の裏返しのような気がしていた。

「ロック。あたしをお姉ちゃんだと思って甘えてもいいんだよ。ヒック。」

イボンヌは少し酔っているようだ。

涙ぐんでいる。

「ロック。私が友達兼家族になってあげる。っていうか、みんな家族だと思っていいよ。」

「桜花のいう通りだ。僕らは家族だ。そう思ってくれ。」

「ハク、桜花、イボンヌ、ありがとう!おいら、家族ができて嬉しいよ。」

僕らの結束は深まった。


「そう言えば、ハク達は、ここで何してるんだい?」

僕は、今までの経緯をロックに話した。

「日記の男アバン・・・その転生者をやっつけるのが、とりあえずの目標ってことだな?」

「そうだ。他にも転生者がいるかも知れないし、いつ襲ってきてもおかしくない。いずれにしても、組織の狙いは桜花だ。」

「よし。桜花は、おいらが守る!」

「ロック、頼もしいな。」

本当に頼もしい仲間が加わった。

ただ、魔法使いとヒーラーとアーチャーとシーフ。

この変則的なパーティでどこまで敵に対抗できるのかは未知数だ。

勇者ユウならどうするだろう?

そんなことを僕は考えていた。

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