翌日、僕らはカレー以外の料理を作るため、食材の買い出しにスーパー「ヨサゲヤ」に来ていた。
「お菓子♪お菓子♪」
「お酒♪お酒♪」
桜花とイボンヌは、とっても楽しそうだ。
目的が違う気がするが。
そんな浮かれている僕らを狙う一人の影がいた。
僕らは、そんなこととは露知らず。
買い物に夢中だった。
「お菓子♪お菓子♪」
「お酒♪お酒♪」
「お菓子とお酒は一つずつ!!」
「ケチっ!」
「ケチッ!」
この2人、相性が良いらしい。
「ケチじゃない!まったくもう。」
その時、一陣の風が吹いた。。。
僕のセンサーが危険を敏感に察知した!
今、何か盗られた!!
そして、反射的に逃げる影を追って走り出した。
速い!!逃げられる!!
「桜花!」
僕は、桜花に目配せする。
「わかった!束縛せよ!チェーン!」
桜花の魔法が影に命中した。
「うわッ!ちっくしょう!!」
桜花のチェーンはもがけばもがくほど締め付けられる。
よく見ると、影は、桜花くらいの年齢の少年だった。
手には、僕の魔法の杖を持っている。
・・・危なかった。
貴重な武器を盗られるところだ。
遅れてイボンヌもやってきた。
「あんたら速すぎるよ。」
息を切らしている。
「放せ!逃がしてくれたら、これ返すから!」
少年がバタバタともがいている。
僕は落ち着いて言った。
「君、名前は?」
「おいらは、ロック。ロック・ライオンハート。シーフ(盗賊)だ」
桜花と同じくらいの年だろうか?少し成長した”ピーター・パン”といった雰囲気のヤンチャさが漂っている。赤髪で茶色い瞳の青年だ。
「ロック。君は転生者だね?」
「転生?それは知らないけど、おいらは、この世界の人間じゃない。別の世界から来たんだ。」
「僕らもそうなんだよ。」
「あんたらも?」
「僕は博(ハク)。元の世界での名前は、ハック・フォクサー。魔法使いだ。」
「ハックって、あの大魔法使いのハックか!こいつはすげえ。」
「私は、桜花。元の世界での名前は、オウカ・ブロッサム。」
「オウカって、勇者パーティのヒーラーじゃねえか!?」
「私は、イボンヌ。アーチャーだ。」
「アーチャー、ってことはエルフか?」
「そうだよ。今は違うけどね。」
イボンヌが笑って言った。
僕は続けた。
「じゃあ、ロック。君はこれからどうしたい?」
「どうって?」
「僕らは、これから君の拘束を解く。君は、杖を返してこの場を立ち去るか。それとも、僕らの仲間になるか。二択だ。」
ロックはしばらく考えて答えた。
「なら、仲間になるよ。面白そうだから。」
「よし、決まりだ。桜花、拘束を解いてやれ。」
「わかった。」
桜花がロックの拘束を解いた。
「いやー、キツカッタ。手加減無しなんだもんな。」
「もう、盗みはするなよ。」
「わかった。おいら、これからずっと、あんた達についていくよ。」
こうして、盗賊(シーフ)のロックがパーティに加わった。
ひと騒動あったが、僕たちはスーパーに戻って、買い物の続きをした。
「お菓子♪お菓子♪」
「お酒♪お酒♪」
「めし♪めし♪」
・・・厄介なのが一人増えた気がする。
食材の買い物を済ませた僕たちは、家に帰った。
ちょうど、もう一部屋空いていたので、ロックの寝室は、僕の隣になった。
その夜は、ロックの話になった。
「おいらは、赤ん坊の時にスラムに捨てられて、スラムで育った。子供のころからずっと盗みをやって生きてきたんだ。そんな時に、勇者パーティ一行を見て、おいらもあんな風になりたいと思っちまった。そうなるためには、真っ当にならなきゃいけない。おいらは頑張って何とかギルドに登録して、ただの盗人からシーフになった。でも、しくじっちまったんだ。馬車の荷台から荷物を掻っさらおうとした盗人を見つけて。追っかけてる途中に、崖下に堕ちちまった。気が付いたらこの世界にいたってわけ。」
「ロック。苦労したんだな。」
僕は、ロックの明るさは、暗い過去の裏返しのような気がしていた。
「ロック。あたしをお姉ちゃんだと思って甘えてもいいんだよ。ヒック。」
イボンヌは少し酔っているようだ。
涙ぐんでいる。
「ロック。私が友達兼家族になってあげる。っていうか、みんな家族だと思っていいよ。」
「桜花のいう通りだ。僕らは家族だ。そう思ってくれ。」
「ハク、桜花、イボンヌ、ありがとう!おいら、家族ができて嬉しいよ。」
僕らの結束は深まった。
「そう言えば、ハク達は、ここで何してるんだい?」
僕は、今までの経緯をロックに話した。
「日記の男アバン・・・その転生者をやっつけるのが、とりあえずの目標ってことだな?」
「そうだ。他にも転生者がいるかも知れないし、いつ襲ってきてもおかしくない。いずれにしても、組織の狙いは桜花だ。」
「よし。桜花は、おいらが守る!」
「ロック、頼もしいな。」
本当に頼もしい仲間が加わった。
ただ、魔法使いとヒーラーとアーチャーとシーフ。
この変則的なパーティでどこまで敵に対抗できるのかは未知数だ。
勇者ユウならどうするだろう?
そんなことを僕は考えていた。