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第15話 魔城(ましろ)の夜

僕らの鍛錬の日々は今日も続く。

僕と桜花は、ついに特級魔法が使えるレベルに到達した。

イボンヌの弓の精度も100発100中に近いレベルになりつつある

ロックの足の速さは、恐らく世界最速だろう。

盗みのテクニックと隠密行動にも磨きがかかっている。

光竜の襲撃以来、敵の動きは無い。

敵のアジト探しも暗礁に乗り上げていた。

もう、八方塞がりだ。

「ねえ。ちょっと、いい?」

桜花が何やら地図を見ている。

「何だ?」

「気づいたんだけど、この地名、アジトっぽくない?」

桜花の指が差した場所。『魔城』と書いてある。

「なんか、そのままじゃないか?魔の城なんて。」

「そのまんまだから、怪しいのよ。行ってみる価値はあるんじゃない?」

桜花は真剣だ。

「あたしは、桜花に賛成だね。今の状況を考えると、可能性が少しでもあるんなら調べた方がいい。」

イボンヌは乗り気のようだ。

「おいらも、そう思うよ。行ってみようぜ。」

ロックも賛成か。

確かに可能性が少しでもあるなら、当たってみるべきだろう。

「よし、『魔城』に行ってみよう。」

僕らは『魔城』(ましろ)という場所に行ってみることにした。


数日後、

レンタカーを借りて、『魔城(ましろ)』に向かった。

僕の屋敷から数時間。

◇◇県△△郡魔城(ましろ)村。

この場所に、敵のアジトがあるのだろうか?

車一台通るのがやっとという感じの林道を抜けると、周りが開けた場所に集落があった。

ここで聞き込みをしてみよう。

もう夕方で薄暗くなってきている。

人はいるだろうか?

ゆっくりと車を走らせる。

「ハク!あそこに人がいるよ!」

さすがシーフ。

目が良い。

ロックが指さした方に畑仕事をしている人がいた。

車を止めて、その人の方に行ってみる。

「すいませーん!」

「何かね?」

「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが。」

「はいはい。」

元気そうなお爺さんだ。

「この辺で、最近、不思議なこととか、変わったことは無かったですか?」

「不思議なこと?特にないねー。」

「そうですか。」

車に戻ろうとしたその時。

「そういえば、最近、山越えた向こうで人が集まってるのを見たね。キャンプか何かだと思うけど。あそこは、昔の城跡で、土地が平らだから。」

・・・昔の城跡・・・何かありそうだ。

「ありがとうございました!」

お辞儀をして車に戻ろうとした。その時、お爺さんに呼び止められた。

「あんたら、遠くからわざわざ来たんか?」

「そうです。調べたいことがあって。」

「もう遅いから、うちに来んか?」

「そんな、大丈夫ですよ。」

「いやいや、これも何かの縁だから。飯食って泊まって、明日の朝、城跡に行けばいい。」

「僕ら4人なんで。」

「部屋は空いてるから大丈夫だよ。うちはあそこだから。」

お爺さんが指をさした家には明かりがついている。

大きな屋敷だ。

「車も止められるから。待ってるよ。」

強引に押し切られてしまった。。。


こうして僕らは、魔城村の集落に泊まることになった。

お爺さんの屋敷は、僕の洋館と同じくらいの大きさだった。

きっと地元の名家なんだろう。

歴史のありそうな古民家だった。

「よく、きたね。あまりおもてなしは出来ないけど、ゆっくりしていきな。」

「お言葉に甘えてしまって、すみません。お邪魔します。」

「おじゃましまーす。」

他の3人は遠慮がない。

「部屋は、この奥が空いてるから、好きに使っていいよ。布団もあるから。」

「ありがとうございます。」

広い部屋だ。

ふすまで区切れるようになっているけど、ふすまを外せば大広間になる。

2部屋分あるので、男子チームと女子チームに分かれることにした。

「風呂沸いてるから入ってな!」

お爺さんの声が向こうからする。

「わかりました!ありがとうございます!」

順番に風呂に入ることにした。

昔ながらの五右衛門風呂だ。

戦いの疲れも全部吹き飛んだ気がした。

「面白いお風呂だったね。」

桜花たちは、五右衛門風呂は初体験か。

僕も博(はく)として経験があるだけだが。

「おいら火傷しそうになったぞ。」

ロックは蓋を開けて入ろうとしたらしい。

「晩飯できたよー!」

「はーい。」

何から何までお世話になって申し訳ない。

僕らは居間に向かった。

お爺さんは、この広い家に一人暮らしだそうだ。

奥さんは5年前に亡くなったから、たまには賑やかで楽しいと笑っていた。料理はお爺さんの手作り。

元々料理人だったらしい。

「あんたら、酒は飲むかい?」

お爺さんに、酒を勧められた。

「2人は未成年なんで、ジュースでいいです。僕とイボンヌは、いただきます。」

「お客さん用にいい酒がある。」

お爺さんが一升瓶を持ってきた。

ラベルには、魔城の夜と書いてある。

「大吟醸の日本酒だ。どうぞ。」

僕とイボンヌは、遠慮なく頂くことにした。

「この酒、初めてだけど、美味しいな。」

イボンヌが上機嫌だ。もう、赤くなっている。

「これ、全部、うまいぞ!」

ロックが、口におかずを頬張りながら話すので、食べ物が飛び散っている。

「ロック、行儀が悪いぞ。」

「この野菜のしょっぱいの美味しいな。」

「イボンヌ。それは漬物っていうんだ。」

イボンヌは白菜の漬物が気に入ったようだ。

2人は無邪気でいいな。

僕もこんな時間が続けばいいと思い始めていた。

「ごちそうさまでした!」

お腹がいっぱいになって、僕らは、それぞれの部屋に戻った。


田舎の夜は静かだ。

僕らは、あっという間に眠りについてしまった。


キュッ、ガサガサッ。


物音で目が覚めた。

隣を見ると、ロックがいない。

トイレでも行ったのか?と思って、もう一度寝ようとしたとき、

キュッ、ガサガサッ。

また、音がした。

何かを引きずっているような音だ。

僕はふすまをそーっと開けて、廊下を見た。

すると、

人影が、何かを引きずっていた。

よく見ると、老人がロックの足を持って引きずっていこうとしている!

ロックは熟睡しているようで起きる気配がない。

ロックを引きずっているのは

・・・この家の爺さんだ!

「何をしている!」

僕は、爺さんの前に出た。

「あんた、見ちまったな。こいつはアバン様への手土産に連れて行く。」

「そうは、させない!」

「わしはオーガだ。簡単にはやられん!」

オーガ!転生者か!


僕は魔法を唱えた。

「炎よ、出でよ。ファイア!」

炎がオーガに直撃した。

ウゲッ!

「クソーッ!アバン様に報告せねば!」

オーガは、ロックを置いて逃げていった。

「な、なにっ!?」

ロックが目を覚ました。

「お爺さんは、オーガだった。ロックを連れて行こうとしてたんだ。」

ロックは驚いている。

「どうしたの!?」

桜花とイボンヌも出てきた。

僕は、今起こったことを3人に話した。

「・・・ということは、この近くにアジトがある。確定だね。」

桜花が言った。

「確かに、可能性は限りなく高くなった。」

「じゃあ、いよいよ、明日、突撃だね。」

「イボンヌ、それは気が早い。何があるかわからないんだ。まず偵察しないと。」

「じゃあ、おいらの出番だね。」

「そう、ロックに偵察をお願いしたい。明日決行だ。」


僕らは翌日に備えて、もう一度眠りについた。

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