僕らの鍛錬の日々は今日も続く。
僕と桜花は、ついに特級魔法が使えるレベルに到達した。
イボンヌの弓の精度も100発100中に近いレベルになりつつある
ロックの足の速さは、恐らく世界最速だろう。
盗みのテクニックと隠密行動にも磨きがかかっている。
光竜の襲撃以来、敵の動きは無い。
敵のアジト探しも暗礁に乗り上げていた。
もう、八方塞がりだ。
「ねえ。ちょっと、いい?」
桜花が何やら地図を見ている。
「何だ?」
「気づいたんだけど、この地名、アジトっぽくない?」
桜花の指が差した場所。『魔城』と書いてある。
「なんか、そのままじゃないか?魔の城なんて。」
「そのまんまだから、怪しいのよ。行ってみる価値はあるんじゃない?」
桜花は真剣だ。
「あたしは、桜花に賛成だね。今の状況を考えると、可能性が少しでもあるんなら調べた方がいい。」
イボンヌは乗り気のようだ。
「おいらも、そう思うよ。行ってみようぜ。」
ロックも賛成か。
確かに可能性が少しでもあるなら、当たってみるべきだろう。
「よし、『魔城』に行ってみよう。」
僕らは『魔城』(ましろ)という場所に行ってみることにした。
数日後、
レンタカーを借りて、『魔城(ましろ)』に向かった。
僕の屋敷から数時間。
◇◇県△△郡魔城(ましろ)村。
この場所に、敵のアジトがあるのだろうか?
車一台通るのがやっとという感じの林道を抜けると、周りが開けた場所に集落があった。
ここで聞き込みをしてみよう。
もう夕方で薄暗くなってきている。
人はいるだろうか?
ゆっくりと車を走らせる。
「ハク!あそこに人がいるよ!」
さすがシーフ。
目が良い。
ロックが指さした方に畑仕事をしている人がいた。
車を止めて、その人の方に行ってみる。
「すいませーん!」
「何かね?」
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが。」
「はいはい。」
元気そうなお爺さんだ。
「この辺で、最近、不思議なこととか、変わったことは無かったですか?」
「不思議なこと?特にないねー。」
「そうですか。」
車に戻ろうとしたその時。
「そういえば、最近、山越えた向こうで人が集まってるのを見たね。キャンプか何かだと思うけど。あそこは、昔の城跡で、土地が平らだから。」
・・・昔の城跡・・・何かありそうだ。
「ありがとうございました!」
お辞儀をして車に戻ろうとした。その時、お爺さんに呼び止められた。
「あんたら、遠くからわざわざ来たんか?」
「そうです。調べたいことがあって。」
「もう遅いから、うちに来んか?」
「そんな、大丈夫ですよ。」
「いやいや、これも何かの縁だから。飯食って泊まって、明日の朝、城跡に行けばいい。」
「僕ら4人なんで。」
「部屋は空いてるから大丈夫だよ。うちはあそこだから。」
お爺さんが指をさした家には明かりがついている。
大きな屋敷だ。
「車も止められるから。待ってるよ。」
強引に押し切られてしまった。。。
こうして僕らは、魔城村の集落に泊まることになった。
お爺さんの屋敷は、僕の洋館と同じくらいの大きさだった。
きっと地元の名家なんだろう。
歴史のありそうな古民家だった。
「よく、きたね。あまりおもてなしは出来ないけど、ゆっくりしていきな。」
「お言葉に甘えてしまって、すみません。お邪魔します。」
「おじゃましまーす。」
他の3人は遠慮がない。
「部屋は、この奥が空いてるから、好きに使っていいよ。布団もあるから。」
「ありがとうございます。」
広い部屋だ。
ふすまで区切れるようになっているけど、ふすまを外せば大広間になる。
2部屋分あるので、男子チームと女子チームに分かれることにした。
「風呂沸いてるから入ってな!」
お爺さんの声が向こうからする。
「わかりました!ありがとうございます!」
順番に風呂に入ることにした。
昔ながらの五右衛門風呂だ。
戦いの疲れも全部吹き飛んだ気がした。
「面白いお風呂だったね。」
桜花たちは、五右衛門風呂は初体験か。
僕も博(はく)として経験があるだけだが。
「おいら火傷しそうになったぞ。」
ロックは蓋を開けて入ろうとしたらしい。
「晩飯できたよー!」
「はーい。」
何から何までお世話になって申し訳ない。
僕らは居間に向かった。
お爺さんは、この広い家に一人暮らしだそうだ。
奥さんは5年前に亡くなったから、たまには賑やかで楽しいと笑っていた。料理はお爺さんの手作り。
元々料理人だったらしい。
「あんたら、酒は飲むかい?」
お爺さんに、酒を勧められた。
「2人は未成年なんで、ジュースでいいです。僕とイボンヌは、いただきます。」
「お客さん用にいい酒がある。」
お爺さんが一升瓶を持ってきた。
ラベルには、魔城の夜と書いてある。
「大吟醸の日本酒だ。どうぞ。」
僕とイボンヌは、遠慮なく頂くことにした。
「この酒、初めてだけど、美味しいな。」
イボンヌが上機嫌だ。もう、赤くなっている。
「これ、全部、うまいぞ!」
ロックが、口におかずを頬張りながら話すので、食べ物が飛び散っている。
「ロック、行儀が悪いぞ。」
「この野菜のしょっぱいの美味しいな。」
「イボンヌ。それは漬物っていうんだ。」
イボンヌは白菜の漬物が気に入ったようだ。
2人は無邪気でいいな。
僕もこんな時間が続けばいいと思い始めていた。
「ごちそうさまでした!」
お腹がいっぱいになって、僕らは、それぞれの部屋に戻った。
田舎の夜は静かだ。
僕らは、あっという間に眠りについてしまった。
キュッ、ガサガサッ。
物音で目が覚めた。
隣を見ると、ロックがいない。
トイレでも行ったのか?と思って、もう一度寝ようとしたとき、
キュッ、ガサガサッ。
また、音がした。
何かを引きずっているような音だ。
僕はふすまをそーっと開けて、廊下を見た。
すると、
人影が、何かを引きずっていた。
よく見ると、老人がロックの足を持って引きずっていこうとしている!
ロックは熟睡しているようで起きる気配がない。
ロックを引きずっているのは
・・・この家の爺さんだ!
「何をしている!」
僕は、爺さんの前に出た。
「あんた、見ちまったな。こいつはアバン様への手土産に連れて行く。」
「そうは、させない!」
「わしはオーガだ。簡単にはやられん!」
オーガ!転生者か!
僕は魔法を唱えた。
「炎よ、出でよ。ファイア!」
炎がオーガに直撃した。
ウゲッ!
「クソーッ!アバン様に報告せねば!」
オーガは、ロックを置いて逃げていった。
「な、なにっ!?」
ロックが目を覚ました。
「お爺さんは、オーガだった。ロックを連れて行こうとしてたんだ。」
ロックは驚いている。
「どうしたの!?」
桜花とイボンヌも出てきた。
僕は、今起こったことを3人に話した。
「・・・ということは、この近くにアジトがある。確定だね。」
桜花が言った。
「確かに、可能性は限りなく高くなった。」
「じゃあ、いよいよ、明日、突撃だね。」
「イボンヌ、それは気が早い。何があるかわからないんだ。まず偵察しないと。」
「じゃあ、おいらの出番だね。」
「そう、ロックに偵察をお願いしたい。明日決行だ。」
僕らは翌日に備えて、もう一度眠りについた。