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第18話 魔王

アバンが新魔王となった、その頃。

ダンジョンを進む僕らは、

休息をしていた。

光竜、水竜、火竜を倒した。

四天王のうち3人を倒したことになる。

向こうの世界で勇者がダークドラゴンと魔王を倒しているとしたら、日本に転生して来ているはずだ。

!?

僕は思い出した。光竜は死ぬ間際、『兄上』と叫んでいた。

そして、その顔は、アバンに何処となく似ていた。

もしかして、『日記の男』アバンは、ダークドラゴンなんじゃないか?

僕は身震いした。

「みんな、聞いてくれ。」

他の3人に話そう。

「アバンの正体は、最後の四天王・ダークドラゴンだと思う。」

「アバンがダークドラゴン!」

桜花が息を呑む。

「僕と桜花は、元の世界でダークドラゴンに殺されている。だから、今回も勝てるか分からない。」

「でも、やるしかないよね。」

「おいらも戦うぜ。」

イボンヌとロックは頼もしい。

「じゃあ、雪辱戦だな。がんばろう!」

イボンヌの言う通りだ。今度は勝つ!

「そうだな。やるしかない。やろう!」

改めてバーティの結束が固くなった。

桜花だけが、不安げな顔をしていた。

桜花の様子がオカシイ。

「どうした、桜花。」

「ううん、何でもない。」

「何か気になるなら言ってくれ。」

「・・・。」

「わかった。言いたくないなら言わなくて良い。行こう。」

桜花の様子は気になるが、今は、考えている余裕はない。

先に進もう。


ダンジョンは、細い通路が延々と続いている。

しばらく進むと、また、広間に出た。

周りに四天王の石像が立っている。

「さっき倒したヤツもいるぜ。」

ロックが石像を触りまくっている。

「ロック。あまり触るなよ。何か罠があるかも知れない。」

「大丈夫だって、、、あっ。」

「あっ?」

嫌な予感がする。。。

次の瞬間、部屋全体の床が無くなった。

「ウワーッ」「キャーッ」

僕らは下に落ちた。

滑り台のようになった落とし穴は、左右に曲がっていて、どこまでも続いているようだ。


ドスン。

「痛タタッ。」

薄暗くて丸い部屋に落ちて来た。

周りには蝋燭が立っている。

そして、奥には玉座があり、人影が見える。

僕は身構えた。

「博くん、桜花さん、イボンヌさん、ロックくん。いらっしゃい。」

聞き覚えのある声だ。

「アバンか?」

「そう、ダークドラゴン改め、エレメントドラゴン。そして、魔王。アバン。」

「ま、魔王!」

僕は、アバンの闘気が以前より大きくなっているのを感じていた。

「その節は随分世話になったね。博くん、桜花さん。」

「あの時のようには、行かないぞ。アバン。」

「そうなら、楽しめそうだ。特に桜花さん、あなたには、大変お世話になったからね。」

桜花の表情が暗くなり、体が震えている。

「桜花、なにがあった?」

「私は、あの時、ハックが死ぬのを目の前で見ていた・・・。」

桜花は静かに話し出した。





エルドランドの辺境にある魔王の城。

ダークドラゴンが、勇者ユウ達の前に立ちはだかった。

渾身の火炎魔法を放った大魔法使いハックは、その直後、ダークドラゴンの攻撃の直撃を受けて、死んだ。

「ハック!」

私は、叫んだ。ハックが、殺された・・・。

涙が溢れそうだけど、今は泣いているときじゃない。

ダークドラゴン、絶対に許さない!!


戦士コウが斬りかかるけど、弾き飛ばされる。

勇者ユウが叫ぶ。

「オウカ!僕とコウに攻撃補助魔法を!」

私は魔法を唱える。

「強化せよ!キャー!」

ダークドラゴンの攻撃を受けそうになった私を、コウが間一髪で救ってくれた。

「大丈夫か?オウカ。」

「コウ、ありがとう。」

このままでは負ける。

私は覚悟を決めた。

「ユウくん、コウ、今までありがとう。」

「オウカ!まさか!?やめろーっ!!」

私は、ダークドラゴンに向かって飛んだ、そして、魔法を唱えた。



「セルフ・ディストラクション(自爆魔法)!!」


私の体が眩く光った。




ウワーッ!!

意識が消えゆく中。ダークドラゴンの断末魔の声を聞いた。


・・・よかった。

これで勇者は、魔王のところに行ける。


ユウ、コウ、後は任せたよ。。。

私は一足先にハックのもとへ。。。





黙って話を聞いていた僕は、なんとか声を絞り出した。

「自爆魔法を使ったのか。桜花。」

桜花は、笑って、

「うん。あいつがココにいるということは、倒せたんだね。よかった。」

僕は言葉を失った。

「まさか、その命を捧げまでして、私を倒すとは。恐れ入る。」

「アバン、許さん!」

僕は怒りに震えた。

アバンが高らかに笑う。

「だが、私はこの世界に転生した。この世界の魔王になるのだ!」

「そうはさせない!」

イボンヌとロックが叫ぶ。

「みんな!戦闘態勢だ!」

攻撃あるのみ。

あの時のようには行かないぞ!

「先に行かせてもらうぞ。エレメント!」

水の球と火の球が同時に飛んで来る!


「桜花!」

「防御せよ!バリア!」

間一髪、バリアが水と火を弾く。

今度はこっちの番だ。

「地よ叫べ!クエイク!」

アバンの足元の床が激しく揺れる。

地割れに落ちる寸前に飛び上がった。

「喰らえっ!」

空中のアバンをイボンヌの矢が襲う。

バシッ。

簡単に弾かれてしまった。

ロックが死角からアバンの体に斬りつける。

「どうだ!このやろう!」

素早い動きで足、腕、胴、頭、と斬りつけて行く。

しかし、

「うるさいハエめ!」

バシッ

右ストレートを喰らって、壁まで飛ばされた。

「ウッ。」

「ロック!大丈夫か!」

うめき声が聞こえる。どうやらすぐには動けなさそうだ。


僕は魔法を唱えた。

「風よ吹け、ストーム!!」

物凄い風が吹きアバンの体が壁に叩きつけられる。

すぐに、イボンヌの連射攻撃が放たれる。

シュシュシュシュー!!バシッバシッ!!

グハッ!

効いている。まだまだだ!

アバンが、反撃する。

「ライトニング!」

「伏せろ!」

僕は咄嗟に叫ぶ。

これは、アベルの光魔法。

まさか、、、吸収したのか?

「見たか!四天王の力!」

やはり、四天王の力を取り込んだのか。

「みんな!アバンは四天王の力を取り込んでる!気をつけろ!」

更にアバンが畳みかけてくる!

「ダークネス!」

闇の霧が迫ってくるが、桜花のバリアがそれを弾く。

今度は、こっちの攻撃だ。攻撃の手を緩めるな!

「炎よ、出でよ。インフェルノ!」

僕は魔法を連射した。

「ウオーーーーッ!!」

とにかく、手を止めるな!

グハッ。


アバンには魔法が効いている。

もっとだ、もっと!

ロックは、まだ動けない。

イボンヌの矢は弾切れだ。

僕が、やらなくては!

「桜花!強化してくれ!」

「わかった!強化せよ!リインフォース!」

「炎よ、出でよ。インフェルノ!」

「ウオーーーーッ」

とにかく連打だ!!

グハーッ!


「あたしの矢はもうないんだ。桜花、ハク!頼む!!」

イボンヌが悔しそうに叫ぶ。

アバンは虫の息。

もう少しだ!


!!?


急に全身の力が抜ける感覚がした。

魔力が、もう・・・尽きる!。

クソッ!


僕は魔力が切れて力尽きた。

ダメだ、勇者ユウなら、まだ諦めない。

何とかするんだ!

クッ、力が、入らない。



桜花が、僕の方を見て、笑った。

何だ、何を考えてる?

まさか!やめろ、やめてくれ!!





桜花が、飛んだ。




「ロック!イボンヌ!ハク!楽しかったよ。ありがとう!」


「桜花!やめて!!」

イボンヌが涙声で叫ぶ。


「桜花、やめろ!」

僕も全力で叫んだ。


意識が飛びそうだ。

桜花を止めなくては!





「ハック、大好きだよ。」

桜花が笑って言った。





そして・・・、

「セルフ・ディストラクション(自爆魔法)!!」

桜花の体が、光に包まれた。





「ウァー!またしても!!」

アバンが叫ぶ。

「オウカーッ!!!!!!!!!!」

僕は声の限りに叫んだ。






そして、世界が真っ白になった。








戦士ユウと僕らパーティは、ドラゴニアの戦いでの活躍がエルドランド王に認められて、勲章を受けた。

そして、戦士ユウは勇者の称号を得た。

「ユウくんって、勇者って感じじゃないよね。」

オウカが笑って言う。

「確かに、僕らにとっては、ユウくんだからね。」

コウも笑う。

「僕にとっては幼馴染みたいなものだしね。」

僕も笑った。

「自分でも勇者って、まだ、しっくり来てないよ。」

ユウは、相変わらずだ。

僕らは、最強の4人だ。

この4人なら、どんな強敵にも勝てそうな気がする。

その夜は、4人で呑み明かした。


帰り道。

僕とオウカは2人になった。

「ハック、今日は楽しかったね。」

「ユウくんとコウくんは、まだ呑むってさ。どんだけ飲むんだろ。」

「ユウくん、勇者なのにね。」

オウカが笑う。か、かわいい。

「僕は、明日に備えて早めに寝るよ。」

「私も。」

「そう言えば、オウカは、なんでヒーラーになったの?」

「私は、お父さんがヒーラーだったの。だから、自然に私もそうなりたいって思った。」

「そっか。」

「ハックは、なんで魔法使いに?」

「僕は、子供のときから魔力が高かったから、消去法だな。」

「私、魔法使いってカッコいいと思う。」

「そうかな。あまりそう思わないけど。」

「ハックが詠唱してる姿、すごくカッコいい。」

なんか、恥ずかしくなってきた。

その日は、なかなか眠れなかった。






「ハクッ!ハクッ!」

僕は目を開けた。

目の前には、イボンヌがいた。

う、ん、頭が痛い。

体を起こして周りを見回した。

瓦礫の山が出来ていた。

「うーん。いてー。」

ロックが起き上がった。

「アバンは?」

僕はイボンヌに聞いた。

「アイツは消えたよ。その代わりこれ。」

イボンヌの手に光る玉があった。

これは、

「これは、ドラゴンソウルだ。」

ドラゴンの魂。エルドランドの精霊たちの間では万能薬として使われるらしい。死者も生き返るという話を聞いたことがある。


「桜花は?」

そうだ、桜花は、どうなった?

「自爆魔法で・・・。うう。」

イボンヌが泣き出す。

そうか、跡形も無く消えてしまったのか。

「桜花、遺体はなくても、せめて墓を作って弔ってあげよう。」


「おーい。桜花の体、ここにあるよ。」

ロックが僕らに向かって言った。

体がある?なら、ドラゴンソウルなら、もしかして!!

「イボンヌ!ドラゴンソウルを僕に!」

「ハク?」

イボンヌからドラゴンソウルを受け取る。

そして、桜花のところに向かう。


桜花は、まるで眠っているようだ。

でも、息をしていない。触れた手は冷たくなっている。

「桜花、頼む!」

僕は、ドラゴンソウルを桜花の口から喉に押し込んだ。

光が桜花の喉から食道、胃へと動いて行く。

そして、体の中で光を増す。

桜花の体が眩い光に包まれた。




永遠と思える時間が過ぎた。


桜花の指が微かに動いた。

青白かった顔にも赤みが戻ってくる。

そして、静かにまぶたを開いた。


「う、うーん、、、ここは?」



桜花が目覚めた。



「桜花!」

瓦礫に埋もれていたロックが涙を拭きながら駆け寄る。

「桜花!」

いつも陽気なイボンヌが泣きじゃくっている。

「桜花!」

僕も泣いてしまいそうだ。



「うーん。ハック、おはよう。」

桜花が笑った。

「オウカ、おはよう。」

僕は泣きながら笑った。


ロック、イボンヌ、僕、そして桜花。

僕ら4人は、勝利を抱き合って喜び、泣いたのだった。

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