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第20話 女神

日本。関東地方の山間にある小さな村。魔城村。

ハクたちと魔王アバンが戦ったダンジョンの最深部。


黒衣の男が、呪文を唱えている。

両手を広げて力を込めると、怪しく光る魔法陣が現れた。

「四精獣よ、我は魔王ミカエル。我が呼び掛けに応えよ。」

魔法陣が眩しい光を放ち、中心から4体の魔獣が出現した。

四精獣と呼ばれる 水の青龍、火の朱雀、風の白虎、土の玄武 だ。

「古の魔獣よ、我に力を貸してくれ。」

魔王ミカエルは、そう言うと、四精獣に手をかざす。


魔王の手から黒い稲妻が四精獣に向かって放たれた、その瞬間、魔獣達が苦しみ出し、その瞳から生気が消えた。

「四精獣よ、我が意思のままに動くのだ。」

「ぎ、御意。」

四精獣は、魔王ミカエルにひれ伏した。

魔王は、高らかに笑った。


ハハハハハッ!


「アバンを倒した魔法使いハック!回復師オウカ!待っていろ!この世界を混沌で覆いつくし支配するのは、我だ!」



魔王アバンとの戦いから半年経った。

魔城村から遠く離れた郊外の町のはずれの森の中に建つ屋敷。

異世界エルドランドから日本に転生してきた、僕、桜花、イボンヌ、ロックの4人は、相変わらず、平和な日常を満喫していた。

「ハク!ハク!起きて!」

誰だ、僕を呼ぶのは?桜花か?

「ハク!起きろ!」

イボンヌも僕を呼んでる。

んん、何だ2人して。まだ、眠いんだ。寝かせてくれ。

「ハク!いい加減起きて!」

桜花に無理矢理、体を起こされた。

「何だよ、まだ寝させてくれよ。」

僕は、叩き起こされて、少しだけ不機嫌だ。

「ハク、何とかしてよ!」

桜花、なんか怒ってる?

「どうした。桜花、イボンヌ、そんなに怒って。」

「ハク、どうにかしてくれよ、あの音。」

イボンヌ、何言ってるんだ?

「イボンヌ、あの音って?」

「だから、あの音だよ。あのイビキ!」

イビキ!?

「いいから、来て!」

桜花が、僕の腕を引っ張っていく。

僕が桜花に連れて行かれたのは、ロックの部屋の前だった。


グォー!グォー!

物凄い、獣の声のような音が聞こえる。

「これって、ロックの?」

「イビキだよ!ハク、何とかしてくれ!」

イボンヌが、訴えて来る。

僕は、扉を開けて部屋の中に入った。

グォー!グォー!

耳を塞ぎたくなるくらいの轟音だ。窓が振動でビリビリと音を立てている。

「ロック!起きろ!」

グォー!グォー!

ダメだ。これならどうだ!

「ロック、起きろ!」

僕は、ロックの鼻をつまんだ。

フガッ!?

「く、苦しいっ!」

ロックが、目を覚ました。

「何するんだよ!ハク!」

「ロックのイビキがうるさいって、桜花とイボンヌが怒ってるんだ。」

「おいらのイビキ?!」

ロックは、ポカンとしている。

「とにかく、2人に謝ってくれ。」

「わかったよ、ハク。」

不服そうだけど、分かってくれたようだ。

部屋の外では、イボンヌと桜花が仁王立ちしている。

「イボンヌ、桜花。おいらのイビキがうるさくて、ごめんなさい。」

「今日から、気をつけてよ。」

桜花が言う。どう気をつけるんだろう?僕は言葉を飲み込んだ。


朝から一悶着あったが、僕らは、こんな感じで、平和に毎日を送っていた。

ピンポーン!

リビングでくつろいでいる時に玄関のチャイムがなった。

このチャイムが、僕らの平穏な日々の終わりを告げる合図だとは、まだ知る由も無かった。

「はーい。」

僕は、玄関に行って、ドアを開けた。

そこには、桜花と同じくらいの年頃の、小柄な女の子が立っていた。青いワンピースを着ていて、金髪の長い髪を編み込んでいる。

「どちら様ですか?」

僕が言い終わる前に、女の子は中に入ってきた。

「ち、ちょっと!勝手に入らないで!」

僕の声を無視して、ツカツカと廊下を歩いていく。

「君!待って!」

僕が止めるのを聞かずに、女の子はリビングの扉を開けた。


「あなた、誰?」

戸惑う桜花たちを無視して、女の子はソファに、座った。

「何なんだ?」

ロックもイボンヌも戸惑っている。

「君、いきなり何なんだ?」

僕も女の子のあとからリビングに入って、ソファに座る。

「人の家にいきなり入って来て、君は何なんだ?」

すると、女の子が口を開いた。

「人の家?この屋敷は、元々、お前たちのものじゃないだろう?」

この娘は、なんでそのことを知ってるんだ?


「君は誰なんだ?」

僕は、疑問をぶつけた。

「ぼくは、イブ。女神だ。」

「女神!?」

僕ら4人は同時に声を上げた。

「君達をこの世界に転生させたのは、何を隠そう、ぼくだ。」

なんだって?!

「君が、僕や桜花を転生させた女神だって?本当なのか?」

「嘘を言っても仕方ないだろう?ぼくは、正真正銘の女神だ。」

簡単には信じられない。

「じゃあ、証拠を見せてくれるか?」

「ぼくを疑うなら仕方ない。証拠を見せよう。」

女の子は、そう言うと、手を上にかざした。

「ライトニング。」

女の子の手から、無数の光の玉が出て、部屋を飛び回った。

「うわーっ!」

ロックが驚いて声を上げる。

「戻れ。」

女の子が言うと、光の玉が手に戻った。

「これで信じてもらえたかな?」

光魔法を軽々と使いこなすとは。女神というのは、本当らしい。

「わかった。君が女神だと信じよう。」


いつの間にか、イボンヌと桜花もソファに座っている。

「その女神様が、私たちになんの用なんですか?」

桜花は、まだ信じきれないようだ。

女神イブが、口を開く。

「闇竜アバンに倒された魔王ミカエルが、まだ生きている。」

「魔王ミカエル?」

アバンを倒した時、他には魔物は居なかった。でも、アバンの更に上のボスがいるというのは、たしかだ。遊園地で襲ってきた、ジェットがそう言っていた。

女神イブが続ける。

「魔王ミカエルは、エルドランドから古の四精獣を召喚して、この世界に混乱を起こそうとしている。」

「その、魔王ミカエルは、何者なんだい?」

イボンヌがイブに聞く。

「魔王ミカエルは、闇竜アバンと光竜アベルの父親だ。勇者ユウに倒されて、この世界に転生した。ぼくは、この世界とエルドランドの均衡を守るために、ミカエルとずっと戦ってきた。」

「アバンの父親。そうか、ユウくんが倒したのか。」

僕は、勇者ユウが魔王を倒したという事実に安堵していた。と同時に、魔王がこの世界に転生したことに不安も感じていた。

「私達は無駄死にじゃなかったんだね。ハク。」

桜花も複雑な思いだろう。


「その魔王ミカエルの狙いは何なんだい?」

イボンヌが不安そうな顔で聞く。

「ミカエルの狙いは、エルドランドとこの世界の2つの世界を混沌で支配すること。その為に桜花の予知能力を利用しようとしてるんだ。」

やはり、桜花の予知能力が狙いか。

桜花の顔が曇った。

「じゃあ、そのミカエルって奴をぶっ倒せばいいんだな?」

ロックが笑って言う。

「ぶっ倒すか。そう簡単なら良いけどな。」

イブの言う通りだ。そうは簡単に行かないだろう。

「どっちにしても、敵の狙いが桜花なら、あたし達も備えないとだね。」

イボンヌは前向きだ。


「訳あって、ぼくはミカエルと直接戦えない。だから、ミカエルと戦う戦士として、ハクと桜花を転生させたんだ。悪いことをしたと思ってるよ。」

「でも、そのおかげで、イボンヌやロックと出会えたんだから、女神様は気にしなくていいよ。」

桜花、たしかにその通りだ。

「イブ様。僕らは覚悟が出来てます。魔王ミカエルのことは任せてください。」

そうだ、僕らは転生したおかげで、今がある。魔王ミカエルを倒すのは、僕ら4人の使命だ。

「ありがとう。あと、ぼくに敬語は使わなくていいよ。呼ぶ時はイブでいい。」

「わかった。イブ。」

こうして、僕らの平穏な日々は、終わりを告げた。

女神イブ。見た目は、少女なのに、秘めている魔力は底がしれない。

「それから、ぼくは、しばらくこの屋敷に住むからな。」

「へ?」

思わず変な声が出た。もう部屋が空いてないんですが、。

「心配するな。この家には地下室があるだろう?ぼくは、そこでいい。」

「でも、女神様が地下室って訳には、、、。」

桜花が心配そうだ。

「大丈夫。ぼくのことは気にするな。お前たちは戦いに専念してくれれば良い。」


「イブ。この屋敷のことは、何で知っているんだ。」

僕は不思議に思っていることを聞いた。

「この屋敷は、先代の勇者の為に、ぼくが用意したんだ。」

「先代の勇者?」

「勇者ノア。今の勇者ユウの父親で、この世界に転生した伝説の戦士。今は、ぼくのために仕事をしてもらっている。」

「ユウくんの父親がこの世界に!?」

桜花が驚く。

「ノアにも、悪いことをした。ぼく自身の問題なのに。」

もう一つ、疑問があった。

「地下室にあった魔導書や魔法の杖は、もしかして、イブが持ってきたものなのか?」

「そうだよ。ハクの為に、ぼくが用意したんだ。役に立っただろう?」

やっぱり、そうだった。これで謎が解けた。

「イブ。僕らは君の期待に応えたいと思う。だから、これからよろしく。」

僕らは、女神イブと同居することになった。

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