数日後。
僕らは、イブの話を聞いて、訓練を再開していた。
「腕立て、300回!」
「は、はい!」
「スクワット、300回!」
「は、はい!」
「桜花は、魔法連続詠唱、300回!」
「イボンヌは、射的、300回!」
「ロックは、ダッシュ、300本!」
ロックがヘロヘロになっている。
「おいら、もう無理だ。」
イボンヌも腕が上がらないようだ。
「あたしも、もう無理だ。」
桜花は、また一人で怒っている。
「ハクも訓練しなさいよ!」
「僕もこう見えて訓練中なんだ!」
今後、予想される戦いを考えれば、もっと鍛えなくては。
僕だって、両手両足に付けている重りを以前の3倍の重さにして鍛えているんだ。
魔法使いだって体力勝負なのだ。
「訓練の後のごちそうはもちろん、今回もカレーだ!」
誰が何と言おうと、僕のカレーは美味い・・・はずだ。
たとえ10日連続であろうと。
「10日目のカレーが一番美味しいんだ!」
「もう、勘弁して。。。」
桜花、イボンヌ、ロック、3人ともウンザリしている。
「このカレーライスという料理は美味しいな!」
イブだけは、喜んで食べてくれた。
「イブ!この世界には、どうやって来るの?」
桜花とイブはだいぶ打ち解けたみたいだ。
「ぼくは、エルドランドとこの世界を自由に行き来できるんだよ。」
「へぇ、便利だね。」
イボンヌも話に入る。
「ミカエルも同じ力を持ってるんだ。だから、ぼくとミカエルは、2つの世界で、ずっと戦い続けてる。」
「ずっとって、いつから?」
ロックも入ってきた。
「そうだなー。200年以上かな?」
「200年以上って、イブは何歳なの?」
桜花の疑問も当然だ。
「250歳くらいだったかな。」
「250歳!やっぱり敬語使わなきゃ。」
「だから、年の話はしたくなかったんだよ。敬語は禁止ね。」
まぁ、女神って時点で、そうだろうなと思ったけど、どう見ても、高校生くらいにしか見えない。羨ましい。
「イブ。先代の勇者ノアって、どんな人なんだ?」
イボンヌは、先代の勇者のことが気になるらしい。
「ノアは、ミカエルと戦って、自分の命と引き換えにミカエルを封印した。それで、ぼくの力でこの世界に転生させた。見た目は、小汚いおっさんだな。ただ、その力はぼくのお墨付きだ。」
「小汚い・・・。」
「ノアは、エルドランドでは、魔法使いとヒーラーとアーチャーの4人パーティで旅してたな。」
「アーチャー・・・。」
イボンヌの様子がおかしい。
「勇者ノアと旅したアーチャーって、エルフなのか?」
ロックが何かに気づいたようだ。
「そうだ、エルフの男で凄腕だった。名前は確か、イワンだったか。」
「イワン・・・。」
イボンヌがやっぱりおかしい。
「実は、先代の勇者パーティのアーチャーは、あたしの父だ。」
「えーっ!」
桜花とロックと僕が同時に叫んだ。
「父とは、わけあって疎遠でね。ろくに話もしないうちに、あたしが家を出たから、その後のことはあまり知らない。」
「アーチャーは、生き残って帰って来たってきいたから、エルドランドにいるはずだ。」
「そう、たしかに父は帰って来たけど、飲んだくれの廃人になったって聞いた。あたしは、そんな父のようにはならないと思って、同じアーチャーになった。」
イボンヌ。彼女もいろいろと辛かったんだな。
「イブ、ノアは今どこにいるんだ?」
「ぼくの指示で、魔城村を調べてくれてる。」
魔王は、まだ真城村を拠点にしてるのか。
「イブ、四精獣のことはわかるか?」
「青龍、朱雀、白虎、玄武。の4体。それぞれに特技を持っている。一体ずつ細かく説明すると、
青龍: 水属性。治癒能力に加え、天候を操る力を持つ。
朱雀: 火属性。不死身の能力に加え、炎を操り、空間を歪める力を持つ
白虎: 風属性。速度を操る能力に加え、風を刃に変え、敵を切り裂く力を持つ。
玄武: 土属性。防御力を高める能力に加え、地震を操り、地形を変化させる力を持つ。
こんな感じだな。皆、自分の意思に反して、魔王ミカエルに操られている。」
「魔王ミカエルに操られているってことは、正気に戻る可能性があるってことか。」
じゃあ、倒すのではなく、正気に戻して、元の世界に帰してやればいい。
「四精獣。また、厄介な敵だね。」
イボンヌが身震いしている。
「それから、魔王ミカエルは、エルドランドの魔物を転生させて、魔物の軍隊を作ってる。この屋敷も狙われる可能性が高い。女神のぼくが居れば、防御は問題ないと思うが。」
とにかく、前回以上の激しい戦いになるのは、間違いないな。
「2つの世界を支配しようとしてる魔王ミカエルの細かいことは、実際に戦った経験のあるノアから聞けば良い。ぼくがここにいると分かれば、きっと、フラッと帰って来る。」
勇者ノアが鍵か。
僕らは、さまざまな情報を一旦、整理することにした。
今日は、カレーにアレンジを加えた。カレーのルウに日本のダシを加えて煮込む。それに、うどんを入れる。そう、カレーうどんだ。僕だって考えているのだ。
「カレーうどん、美味しい!」
桜花は、高評価だ。
「ダシか効いてるのが良いな。」
イボンヌの評価も高い。
「うどんもシコシコして美味しいぞ。」
ロックの評判も良い。
「ぼくは、なんでも美味しいぞ。」
イブは、この世界の料理が気に入ったようだ。
アレンジ作戦、成功だな。
プシュッ
トクトクッ
ゴクゴクッ
プハーッ
「この一口の為に生きてるな。」
イボンヌが上機嫌だ
「おいら達はアイスもらうぞ。」
未成年の、桜花、ロック、イブはアイス。イブは未成年ではない気がするが。
僕もお酒でイボンヌに付き合う。
テレビでは、お笑い芸人のバラエティ番組が流れている。
僕らは束の間の団欒を楽しんだ。
一方、その頃。
関東地方。魔城村。
黒衣の男こと、魔王ミカエルが転生魔法で、次々に魔物を呼び寄せていた。
「まもなく、魔物の軍が完成する。四精獣よ、準備を整えるのだ。」
「世界を混沌で覆い尽くすのだ!」
魔王ミカエルは、高らかに笑った。