僕は、夢を見ていた。
ここは、エルドランドと呼ばれる異世界。
僕は、勇者パーティの魔法使いだ。
ついに魔王ミカエルの城に向かう。
いよいよ最後の戦いだ。
勇者ユウ、戦士コウ、紅一点のヒーラーのオウカ、そして、魔法使いの僕・ハック。
僕らは、あと一歩で魔王に辿り着くところまで来ていた。
そこに、魔王の側近である闇竜(ダークドラゴン)・アバンが立ちはだかった。
僕は渾身の火炎魔法・インフェルノでアバンを攻撃するが、炎は簡単に弾き飛ばされる。
次の瞬間、アバンの手が振り下ろされた。
そして、目の前が真っ白になった。
『ハック、ハック!』
遠くで、オウカが呼ぶ声がする。僕は声のする方に手を伸ばした。
僕は、目を覚ました。
また、同じ夢。
アバン、あいつは、いつまでも僕を苦しめる。
しっかりしろ!ハク!
こんなことでは、魔王ミカエルには、勝てない。
パンパン!
僕は両手で頬を叩いた。
リビングに下りて、テレビをつける。
朝のワイドショーを放送している。
いつもの光景だ。
僕はキッチンで、人数分の目玉焼きを焼いて、軽く炙ったベーコンを乗せる。コーヒーはインスタントだ。お湯を沸かして、コーヒーの粉を入れたマグカップに注ぐ。牛乳とオレンジジュースを用意して、あとは、パンを焼けば朝食の準備完了だ。
「おはよう。」
地下室からイブが上がってきた。まだ、眠そうだ、髪の毛が爆裂魔法を喰らったようになっている。
「これは、金〇焼きだな!」
「目玉焼きです。」
「そう、それ!ぼくは、目玉焼きが大好きだ。」
「歯磨いて、顔洗って来い。イブ。」
「わかったぞ。」
イブは、本当に女神なんだろうか?時々疑わしい。
「おはようー。」
イボンヌが2階から下りて来た。
「ロックのイビキには、もう、ウンザリだよ。」
今日も寝不足のようだ。
「歯磨いて、顔洗って来い。イボンヌ。」
「ああ。ハクは、良く寝れるよなぁ。」
イボンヌの寝不足対策は考えないとだな。
「ハク、おはよう。」
「桜花、おはよう。」
桜花も下りて来た。
「今日も朝食の支度ありがとう。」
どういたしまして。そう言ってくれるのは桜花だけだ。
「歯磨いて、顔洗って来い、桜花。」
「は〜い。」
まだ子供だな。
3人がリビングに戻って来て、朝食を食べ始めたころ。
2階から、ロックが下りて来た。
ドタドタドタッ
「おはよう!おいら、また最後か。」
「歯磨いて、顔洗って来い。ロック。」
「おいらの、目玉焼き、取っといてくれよ!」
誰も食べないよ。
ロックが慌ただしく、リビングに戻ってきた。
いつもの朝食風景。平和な光景だ。
しかし、魔王ミカエルの脅威も迫っている。
「みんな、そろそろ食材が無くなりそうだから、今日はスーパーに買い出しに行くぞ。」
今日は、僕らの味方、町の奥様御用達のスーパー「ヨサゲヤ」に買い出しに行く事にした。
「お菓子♪お菓子♪」
「お酒♪お酒♪」
「アイス♪アイス♪」
お菓子とお酒とアイスは、一つずつ!
「ケチッ!」
「ケチッ!」
「ケチッ!」
ケチじゃない!!
・・・まったく。
「良いじゃないか?お金なら、女神であるぼくが居るから心配ないぞ。」
「女神様ー!」
「女神様ー!」
「イブ様ー!」
「イブ、甘やかさないでくれ!」
困ったもんだ。
その様子を窺う影が。
ケケケケ。桜花を魔王ミカエル様にお届けするのだ。
転生した魔物だ。
「お菓子ー!!」
桜花がお菓子が欲しくておかしくなっている。
「桜花!単独行動は危ない!」
キャーッ!
・・・言わんこっちゃない。
「桜花!どうした!」
僕らは、叫び声がした方に駆けつける。
そこには、数人の男に絡まれている桜花がいた。
「ケケケケッ。桜花、捕まえた。魔王様が喜ばれるぞ。」
コイツら、転生者か!
「束縛せよ!チャーム!」
桜花の魔法が炸裂する。
ケケケーッ!
男達が、捕縛され動けなくなった。
「イボンヌ、お願い!」
「よし!あたしの矢を喰らえ!」
シューッ!バシッ!
グゲッ!
男達の急所に矢が命中して、男達は消えた。僕とロックは出る幕無しだな。
「大丈夫か?桜花。」
「うん。私も強くなったでしょ。」
「僕が居なくても大丈夫そうだ。」
でも、少し寂しい。
ハプニングもあったが、買い物を続けた。イブの許しが出たので、お菓子とお酒とアイスは、2つずつにした。
抱え切れないくらいの買い物をして屋敷に戻った。
あー、疲れた。それにしても敵が襲って来るとは、いよいよ気を引き締めないといけない。
「今日、襲って来た敵は、明らかに
桜花を狙ってた。魔王ミカエルの手下だろう。今回は、底辺の転生者だったけど、これからは、ボスクラスも襲って来ると思う。今までよりも気を引き締めて行こう。」
僕は、みんなに話した。
「ごめんなさい。私のせいで。」
桜花が謝る。
「桜花は謝らなくて良いよ。」
イボンヌが言う。
「そうだよ。おいらが桜花を守るから、安心しな。」
ロックは頼もしい。
「そう言えば、ぼく、君たちに言わないといけないことがあるんだ。」
イブが切り出した。
「君たちが転生した時に、ぼくからプレゼントを贈っておいた。」
「プレゼント?」
「新しいスキルを追加しておいた。ハクは、光属性の魔法。桜花は、自然属性のスキル。イボンヌは、雷属性のスキル。ロックは、影属性のスキル。これからの戦いに役立つはずだ。」
「イブ、ありがとう!」
「早速、訓練しないとだな。」
僕は、早くも訓練メニューを考えていた。
翌日、早速、新スキルを試してみることにした。
「まずは、ロック。影属性だ。影を利用して、いろいろなことができる。隠密行動に役立つと思うよ。」
「よし、やってみよう。シャドウ!」
ロックの体が影の中に消えた。影だけが素早く動いている。そして、影からロックが現れた。
「これは便利だ。気に入ったよ。」
ロックの特性にピッタリのスキルだ。
「次は、桜花。自然属性のスキルだね。動物と会話したり、天気を操ったり出来る。」
「やってみるね。雨よ降れ!」
晴れ渡った空が急に曇り、雨が降り出した。ドンドン激しくなる。
「空よ晴れろ!」
激しい雨がピタッとやんだ。
このスキルも使えそうだ。
「次はイボンヌ。雷属性のスキルだ。
矢に雷を、纏わせて攻撃できる。」
「よし、やってみよう。」
イボンヌが弓を引く。
「雷よ、落ちよ。」
矢の先に稲光が起きる。イボンヌが矢を放つと、稲妻を纏った矢が真っ直ぐに飛び、木に命中した。そして、木が燃え出した。
「うわー、これは良いな。使えるよ。」
「最後はハク。光属性の魔法だね。これは、アバンやミカエルが使うのと同じ。」
「よし、やってみよう。ライトニング!」
光の矢が一瞬で真っ直ぐに飛んでいく。遠くの大木に命中した。
「うん。使いこなせそうだ。」
「ぼくから君らへのプレゼントは、以上だ。使いこなせるように頑張ってくれ。」
「ありがとう、イブ。使わせてもらうよ。」
それから、僕らは新スキルの訓練を始めた。