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第23話 勇者ノア

僕らの訓練が順調に進んでいたある日。

1人のホームレスのような男が屋敷に向かっていた。


僕らは、訓練の疲れを癒すため、リビングでくつろいでいた。


プシュッ

トクトクッ

ゴクゴクッ

プハーッ

「この一口の為に生きてるな。」

イボンヌがまた上機嫌だ。

「風呂上がりのコーラ、美味しい♪」

桜花は満面の笑みで幸せそうだ。

「このサイダー味のアイスも美味いぞ。」

ロックは、アイスの食べすぎだ。

「このサイダーという飲み物は、シュワシュワして不思議だな。」

イブもリラックスしている。

僕もイボンヌに付き合って、ビールを飲んでいた。

この幸せな時間がずっと続けば良いと思っていた。しかし、幸せな時間は、ある男の来訪で終わりを告げる。

ピンポーン。

僕は玄関に向かった。

ドンドン。

扉を叩く音がする。

「どちら様ですか?」

「俺だ。開けてくれ。」

誰だ?僕は不安に思いながらも扉を開けた。

扉の外には、髭もじゃの小汚いおじさんがいた。

「ノアじゃないか?!どうした?」

僕の後ろにいた、イブが言った。

ノアだって?先代の勇者の?

言われてみれば、何処となく、ユウくんに似ている。

「ああ、女神様。こっちの世界に来てたんですね。」

そう言うと、ノアは中に入って来た。

「ノア、悪いと思ったけど、この屋敷は、今はハク達に使ってもらってるんだ。ぼくに免じて許してくれ。」

「女神様。そのことは、良いですよ。俺は怒ってない。」


ノアとイブは、リビングのソファに座る。

桜花達は、突然の来訪者に驚いている。ノアは、改めて話し出した。

「俺の名前はノア。元勇者だ。エルドランドから日本に転生してきた。今は、女神イブのために、魔王ミカエルの動向を探ってる。」

「勇者ノア。僕は、ハク。彼女は桜花。勇者ユウと一緒に旅をした仲間です。彼はロック、彼女はイボンヌ。皆、転生者です。」

僕らも自己紹介をした。

「ハックとオウカのことは知ってる。息子が世話になったな。ありがとう。」

「そんな、ユウくんに助けられたのは、私達の方です。」

桜花が話す。

「勇者ノア。あたしはイワンの娘です。父がお世話になりました。」

イボンヌが挨拶した。

「イワンの娘か。あいつは、どうしようもない酔っ払いだったけど、強いアーチャーだったよ。俺も何度も助けられた。」

「親父が・・・」

「イワンは、いつも娘の話をしてた。この旅が終わったら、家族と静かに暮らしたいと言ってたな。」

「うう、、、」

イボンヌが涙ぐんでいる。

「おじさん、何でいきなり来たんだ?」

ロックが当然の疑問をぶつける。

「君たちの活躍は、大体聞いてる。四天王は倒したが、魔王ミカエルは生きていた。今は、四精獣を味方にして、力を蓄えてる。」


グハッ!


勇者ノアが突然咳き込んだ。

少し血が出ている。

「大丈夫ですか?」

桜花が駆け寄る。

「回復せよ。ヒール!」

桜花の両手が光る。

しかし、効いていないようだ。

「無駄だよ。魔法は効かない。俺は助からない。」

「ノア、ぼくが無理をさせたからだな。すまん。」

「女神様の責任じゃないですよ。自業自得です。」

勇者ノアは、病気だ。僕たちに何かを伝えに来たんだろうか?


「ハク。俺は、最後をこの屋敷で迎えたい。しばらく、ここに置いてくれるか?」

「もちろんです。この屋敷は、元々あなたの物だし。そうですよね?」

「ハク、ありがとう。俺も出来る限り協力するよ。魔王ミカエルは手強い。」

「じゃあ、おじさん。おいらの部屋を使うと良いよ。おいらはココで寝るから。」

「ロックと言ったか?ありがとう。君は良いシーフだな。」

「へへっ。」

ロックも満更でもなさそうだ。


こうして、先代の勇者ノアが一緒に暮らすことになった。



僕らは、勇者ノアから直接指導を受けて、戦闘訓練をするようになった。

流石に本物の勇者だけあって、本格的な内容だ。確実に僕らの戦力は上がっていた。



一方、その頃。

関東地方、魔城村。

黒衣の男こと魔王ミカエルが玉座に座っている。

「四精獣よ、女神イブと勇者ノアが魔法使いハックと接触した。もう、時間が無い。ハックの屋敷を襲撃せよ。」

「御意。」

四精獣が魔王の前から、何処かへ消えた。

魔王ミカエルは不敵に笑っていた。



僕らの訓練も佳境を迎えていた。新たなスキルも使いこなせるようになった。魔力と体力の強化も勇者ノアの指導もあって、かなり進んでいる。

ハァ、ハァ。

「まだまだ!」

勇者ノアが剣を振るう。

キンッ!

それをロックがタガーで受ける。

「おいらも、かなり強くなっただろ?」

「甘い!」

うわっ!

ロックが倒された。

「くそーっ!ノアは、やっぱり強いな。」

「伊達に勇者をやってないからな。」

勇者ノアは、年老いたとは言え、まだまだ現役だ。

グハッ!

ノアが膝をついて血を吐いた。

「大丈夫か!?ノア!」

イブが駆け寄る。

僕らは、ノアをベッドに運んだ。


病気がノアの体を確実に蝕んでいた。

僕らは部屋を出て、しばらく、イブとノアの2人きりにすることにした。

「ノア、ぼくのせいで、すまない。」

「女神様。俺は、あなたのお陰で転生して、2度目の命をもらった。感謝してるんだ。」

「でも、ぼくの戦いに巻き込んでしまった。」

「この世界も、なかなか楽しかったよ。」

2人は、思い出話をした。


「ノア。もう、休んで良いよ。」

「その前に、女神様。ハク達に話がある。呼んでくれ。」

イブに呼ばれて、僕らも部屋に入った。

「ノア。話って、なんだ?」

「ハク。ミカエルとの戦いに俺は行けそうにない。だから、お前に伝えたいと思う。魔王の弱点を。」

「魔王の弱点?」

そんなものあるのか?

「魔王ミカエルは、光属性魔法と闇属性魔法の使い手だ。普通なら、弱点はない。」

「光と闇の両方の使い手か。」

「魔王の弱点は、光と闇の間『狭間の力』だ。それを探せ。」

「狭間の力。」

どうやって見つければ良いんだろう?

「俺が言えるのは、ここまでだ。ハク、魔王を倒してくれ。」

「ノア。わかった。任せてくれ。」

「頼んだぞ。ハク。」

それだけ言うと、ノアは目を閉じた。

後は僕らに任せて、ゆっくり休んでくれ。


それから3日後。ノアは息を引き取った。


「ぼくは、ノアを転生させた。それは、ぼくのエゴだった。ノア、すまない。君をむだに苦しめてしまった。」

「イブ。ノアは幸せだったと思うよ。」

僕はイブに言った。

「あたしは、父の話が聞けて良かったよ。勇者パーティの1人としての活躍の様子が聞けたし。」

イボンヌは父親の話が聞けて、過去のわだかまりが少しだけ無くなったみたいだ。

「おいらも、ノアに稽古つけてもらえて良かったよ。厳しかったけど、優しかった。」

ロックは、ノアに一番かわいがられていた。鍛え甲斐があったんだろう。

僕らは、屋敷の裏にノアの墓を作って、埋葬した。

ノアの遺志は、僕たちが受け継ぐ。

僕は決意を新たにした。


「そうは言ってもさー。」

ロックがソファに座って足をバタバタさせている。

「簡単に魔王なんて倒せないよねー。」

桜花は片肘をついている。

「魔王の動きなんて、そうそう分からないしねー」

イボンヌは、ビールを飲みながら横になっている。

「お前ら、ちょっと気が緩みすぎだぞ!」

僕は怒っている。

「まあまあ、サイダーでも飲んで落ち着きな。」

イブになだめられた。

しかし、こうしている間にも、魔王ミカエルは転生者を集めて、戦力を増している。じっと黙ってみているわけにもいかない。こちらからも動かなければ。

「『狭間の力』のことは、何か分かったの?」

桜花に痛いところを突かれた。

「光と闇の間の力としか分からない。どうしたら発動するのかも不明だ。」

僕は焦っていた。魔王ミカエルを倒すための唯一の手掛かり。これを解明して使えるようにならなければ、僕らの勝ちはない。

「イブやノアが言ってた、四精獣ってやつも気になるぞ。」

ロックが言う。

「ぼくが知ってる情報は、あれが全てだ。単体では、それほど強くないけど、まとまって襲ってきたら厄介だな。」

イブの言うとおりだ。

「水の青龍、火の朱雀、風の白虎、土の玄武。確かに、4体一緒に襲ってきたら厄介だ。彼らは心を魔王に操られている。そこをうまく突ければ、勝てるんじゃないか?」

僕の考えを言ってみた。

「それなら、私の自然属性の力で、説得してみたら?」

桜花が提案してくれた。確かに、心に直接干渉出来れば、可能性はある。

「確かに桜花の力は使えそうだな。」

イボンヌも同意見のようだ。

「いつ四精獣が襲ってきてもいい様に、対策を練っておこう。」

「わかった。ハク。」

「ぼくは、『狭間の力』について、もう少し調べてみるよ。」

「イブ、頼んだよ。」

僕らは、敵の襲来に備えて、それぞれ動き出した。


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