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第25話 四精獣の襲撃

日本。関東地方のとある森。

魔王ミカエルに操られた四精獣が動き出していた。

僕の屋敷の方に密かに歩みを進めている。

その眼は狂気で血走っているが、その中心には微かな光が宿っていた。

水の青龍、火の朱雀、風の白虎、土の玄武。

4体の影が確実に忍び寄っていた。


僕らは、買い物を終えて、屋敷に帰ってきた。


「うわー。疲れたー。おいら、もうだめだ。」

両手に抱えきれない荷物を持たされたロックは、ソファに倒れこんだ。

「寝てないで、食べ物は冷蔵庫にしまってよ。」

イボンヌがさっさと買ったものを仕舞いながら言った。

「今日はカレーじゃないのが食べたいなー。ハク。」

桜花がプレッシャーをかけてくる。

「よし、今日はリクエストに応えてカレー以外のものを作ろう。」

僕だって、料理のレパートリーは沢山あるのだ。

「ぼくは、何でもいいよ。この世界の料理はみんな美味しい。」


イブも女神様なのに、片づけを手伝っている。考えてみれば、僕らは、イブが女神様だっていう意識がほとんどない。それでいいのだろうか?まあ、本人がこの調子だから、良いのだろう。

エルドランドとこの世界を行き来しながら、数百年の間、魔王ミカエルと戦い続ける女神イブ。その目的は、2つの世界の均衡と調和を保つこと。その均衡が魔王によって壊されたとき、何が起きるのだろう?混沌と無秩序、世界が魔物に支配されるのか。それを防ぐために、僕たちやノアが転生者としてこの世界に呼び出されてきた。今までどれだけの転生者が、この世界に来たのだろう?この戦いはいつまで続くのか?僕らにこの戦いを終わらせることが出来るのだろうか?

「さっきから、ハクは、何ぼーっとしてるの!手伝って!」

桜花に怒られた。

プシュッ

トクトクッ

ゴクゴクッ

プハーッ

「この一口の為に生きてるな。」

イボンヌがビールを開けた。

「労働の後のコーラは本当に美味しい♪」

桜花、コーラの飲み過ぎは太るぞ。とは言えない。

「このモナカってアイスも美味いぞ。」

ロックは、アイスを全種類制覇しそうな勢いだ。

「このサイダーという飲み物は、この世界で一番美味いな。」

イブもサイダーの飲み過ぎは・・・。

そして、僕はイボンヌに付き合って、ビールを飲んでいた。

僕らは、これからの激しい戦いを忘れようとしているかのように日常を楽しんでいた。念のために、屋敷全体に封印は掛けてある。これは、桜花ではなくイブの魔法だ。イブは女神というだけあって、魔力も桁違い。おかげで守りはイブに任せて、攻撃に専念できる。これは大きな利点だ。

ソファでくつろいでいると。窓ガラスがビリビリッ振動したように感じた。

ロックが異変を察知する。

「何かが来るぞ!!」

緊張感が高まる。

「戦闘準備!」

僕が叫ぶと、全員が動き出した。

「イブは地下室にいてくれ。もしもの時は呼ぶから。」

「よし、わかった。頼んだぞ。」

イブは地下室に行った。

僕は、杖を手にして身構える。

他の3人も装備を整えてやってきた。

「よし、外で迎え撃つぞ。」

僕らは、玄関から外に出た。玄関前の広いスペースで迎え撃つ。

ドドドドドドっ。

地響きとともに前方に黒い影が見えた。

来るっ!

一つに見えた影が無数に分かれた。

光竜の時と同じ。転生者の群れだ。

今回は、短期戦で行くぞ!

「炎よ、出でよ!インフェルノ!」

広範囲に炎の壁が現れる。

突っ込んできた敵は瞬く間に黒焦げになっていく。

シュー!バシッ!

炎を抜けてきた敵は、イボンヌが矢で射貫く。

「おいらの俊足も見てくれよ。」

ロックが素早い動きで撃ち洩らした敵にとどめを刺していく。

敵の群れは、あっという間に蹴散らされていく。

そして、大方倒したところで、敵の動きが止まった。

ゴゴゴゴゴゴッ。

地響きが激しくなる。

4体の影が現れた。これは・・・四精獣!

水の青龍、火の朱雀、風の白虎、土の玄武。

魔王ミカエルに操られし、古の聖獣。

彼らを倒さなければ、魔王にはたどり着けない。

「来るぞ!」

僕らは身構えた。

ドドドドドドドドッ

大きな亀のような生き物が突っ込んできた。土煙を壁のように巻き上げている。

「嵐よ、起これ!ストーム!」

一瞬、体が浮くが、止まらない。ならば、壁には壁だ。

「氷よ、出でよ!アイス!」

氷の壁が現れる。

ドカッ。

氷の壁は簡単に破られた。

「束縛せよ!チェーン!」

桜花の魔法で動きが止まった。

「これでも喰らえ!」

シュー!キンッ!

イボンヌの矢は固い甲羅で弾き返される。

「なら、おいらの攻撃で!」

ロックが、甲羅以外の部分を攻撃する。効いている!

「炎よ、出でよ!インフェルノ!」

頭を狙って炎を放つ。

ギャー!

やはり甲羅以外の部分が弱点だ。


さらに攻撃を加えようとした瞬間。

真っ白い虎が現れた。

一瞬で目の前に現れる。危ない!

鋭い爪で攻撃される。

が、間一髪、ロックに助けられた。

「ロック、ありがとう!」

すると、そのままロックは、素早い動きで白い虎を切りつける。

「こいつは、あたしが仕留める!雷よ纏え!」

シュー!バシッ!

イボンヌの雷を纏った矢が突き刺さる。

グワーッ!

かなり効いているようだ。

よし!とどめだ!

「炎よ、出でよ!インフェルノ!」

白い虎の全身が赤い炎に包まれる。

動かなくなったようだ。

「束縛せよ!チェーン!」

白い虎に束縛魔法をかける。


次に現れたのは、青い竜だ。いきなり水流で攻撃してきた。

「イボンヌ!頼む!」

「わかった。雷を纏え!」

シュー!バシバシッ。

雷を纏った矢が竜に突き刺さる。雷が効いているようだ。

ガーッ!

竜が地面に叩きつけられた。かなり弱っている。

「束縛せよ!チェーン!」

3体をまとめて束縛した。


残るは、火の鳥だけだ。

「みんな、気を抜くな!行くぞ!」

「おう!」

僕は全力の魔法を放つ。

「水よ、出でよ。ウォーター!」

イボンヌが矢を放つ。

「雷よ纏え!」

ロックが切りつける。

「こいつ!これでどうだ!」

火の鳥も力尽きて地面に落ちた。

桜花が4体まとめて束縛魔法をかける。

僕らの勝利だ。

その時だった。

空中に黒い霧のようなものが現れた。

低い声が聞こえる。

「四精獣が倒されたか。流石だな、大魔法使い。」

「ミカエルか!?」

「そう、私が魔王ミカエル。」

「お前は絶対に倒す!」

「できるかな?」

魔王がそう言った瞬間、桜花の体がフワッと浮き、あっという間に、黒い霧に取り込まれた。

キャー!ハック!

オウカ!

「桜花は預かった。返してほしくば、私の城に来い。魔城村で待っているぞ。」

そう言うと、黒い霧は消えた。桜花がさらわれてしまった。

「桜花!くそっ!」

「おいら、何も出来なかった。」

「クソッ。桜花をさらうなんて、卑怯な。」

桜花をさらわれたショックで僕は言葉を失っていた。

その時、頭の中で誰かの声がした。

「魔法使いよ。私たちを解放してくれてありがとう。私たちは四精獣。私たちからのお礼を受け取ってくれ。」

僕の体の中で何かが生まれた。これは・・・闇の力?

「魔法使いよ。私たちからの贈り物、闇属性の魔法だ。何かの役に立つだろう。」

「四精獣、待ってくれ!僕たちを助けてくれ!」

「それは出来ない。私たちは元の場所に帰ろう。さらばだ。」

四精獣の体が光り、宙に浮いていく。そして、光の粒になって消えた。


僕は、四精獣から闇の力を授かった。

しかし、魔王ミカエルに桜花をさらわれてしまった。

僕らは、うなだれて屋敷の中に戻った。


リビングには、イブが待っていた。

「大体のことは、わかっておる。桜花がミカエルにさらわれたんだな。」

僕はイブに聞いた。

「ミカエルは桜花を使って何をしようとしてるんだ?」

「恐らく、桜花の予知能力で危険を察知しようとしているんだろう。」

「桜花には、未来の危険を察知する能力がある。ということは、こちらの動きも予知されるということか。」

「そういうことだな。」

どんな罠が仕掛けられているか分からない。でも、桜花を助けなければ。

「あたしは、桜花を助けに行くよ。」

「おいらもだ。」

イボンヌとロックが僕の考えを見越してか、桜花を助けに行くと言ってくれた。

「どんな罠があるか分からない。それでも一緒に行ってくれるか?」

「もちろんだ。」

イボンヌとロックが応える。


「ぼくからも提案があるんだけど。」

イブが真剣な顔で言う。

「こうなったのは、君たちを巻き込んだ、ぼくの責任でもある。だから、ぼくも一緒に行かせてもらえないだろうか?」

「イブも一緒に?もちろん良いとも。こっちからお願いしたいくらいだ。」

「ありがとう。では、ぼくも旅支度をするとしよう。」

こうして、イブが仲間に加わった。

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