「ハック!起きろ!」
ここは、エルドランドと呼ばれる世界。僕ら、勇者ユウ一行は、ファイアドラゴンと戦っていた。
「ハック!気が付いた。良かった。」
オウカが安堵の表情を浮かべている。
僕は、どうしたんだっけ?
「ハックはしばらく休んでいろ。ここは、僕とコウで何とかする。」
そうだ、僕はファイアドラゴンの炎の直撃を受けて、酷い火傷を負って倒れたのか。
「オウカ、ありがとう。」
僕が助かったのは、オウカの回復魔法のおかげだ。
「ハック。もう無茶しないで。」
オウカを泣かせてしまった。僕も起きて戦わなくては。
「僕も戦うッ!」
体が言うことを聞かない。ダメージが大きかったようだ。
「ハックは寝てて。後はユウくんが何とかしてくれる。」
「オウカ!強化魔法を頼む!」
コウが苦戦しているようだ。
「わかった!強化せよ!エンパワー!」
「よし、いくぞ!」
コウが火竜に切りつける。
ウオー!!
火竜がコウに気を取られている。今がチャンスだ!
勇者ユウが空中から、火竜の首めがけて落下してきた。
「喰らえ!」
頭から首、胴体へと、ユウが振り下ろした剣が、火竜の体を真っ二つに切り裂く。
バターンッ!
火竜の体は左右に分かれて倒れた。
やった。ユウくんが火竜を倒した。
「ハック!やったよ!ユウくんがファイアドラゴンを倒した!」
「ああ、やったな。」
「ハック!僕らついにやったな!」
ユウが駆け寄ってくる。
「さすがは勇者だ。」
コウもやってきた。
僕らは無敵のパーティ。何が来ても大丈夫。
僕は足手まといじゃないだろうか?
そんな思いが頭をよぎった。
現代。日本。
僕らは、魔城村に乗り込む準備をしていた。
四精獣から授かった闇属性の魔法は、正直、魔王に通用するとは思えない。でも、一応は強化することにした。中級レベルの魔物になら効果があるはずだ。
イボンヌとロックは、休養してもらうことにした。四精獣との戦いでかなり疲れているはずだ。英気を養ってもらわなくては。
イブは、回復魔法と光魔法、それに、時間と空間を操る魔法が使える。桜花がいない穴を埋めてもらうには申し分ない。魔王ミカエルの情報も教えてもらわなくては。
四精獣との闘いから、一週間後。
僕らは、魔城村に向かって出発した。
車を走らせること数時間。魔城村の城跡まで再びやってきた。
アバンとの戦いが、つい昨日のことのような気がする。
標識の所に車を停めて、森を抜けると、
そこには洋風の城があった。
周囲は黒い霧に覆われ、木々が立ち枯れている。
「こんな城、あったっけ?」
ロックが口をあんぐり開けている。
「これは、ミカエルの仕業だな。ここは日本だぞ。まったく趣味が悪い。」
イブがあきれて言う。
城の前には悪魔の像が装飾された城壁がそびえ立っていて、その真ん中に鉄製の門があった。
僕らが門の前まで行くと、勝手に門が開いた。
ゆっくりと門の中に入る。すると、
ガシャリ。
門が閉まった。
「開かないぞ。」
ロックが開けようとしてもビクともしない。
僕らは、城に向かった。
門の外から見た時よりも広く感じる。城までが遠い。
どうやら空間が歪んでいるようだ。
敵が全く出てこないのも逆に気味が悪い。
いかにもという感じの魔王の城は、グレーの石で出来ていて、禍々しい雰囲気を漂わせている。
入口の扉は、高さ3メートルはある大きさだ。
「いよいよ、ここからが本番か。」
僕は息をのんで、扉をゆっくりと開けた。
ギィという音を立てて扉が開く。
中は薄暗い。何とかその広さが判るくらいの明るさだ。
「よし、闇を照らせ。ライト!」
イブが魔法を唱えると、周りが明るく照らされ、全体が見えた。
中央に大きな階段。左右に扉があって、奥に部屋があるようだ。
「一つずつ、潰していくしかないな。」
まずは左の扉から行くことにした。
扉を開けると、大きな部屋があった。どうやら食堂のようだ。
中央には大きな肖像画がかかっている。
「あれは、魔王ミカエルだな。本人に似て不細工だ。」
イブがいつになく毒舌だ。
食堂の奥には台所があったが、特に何も無いようだったので、僕らは元の広間に戻った。
今度は、右の扉だ。
扉を開けると、何かの作業部屋のような部屋があった。奥にもう一つ扉がある。
僕は、その奥にある扉をゆっくりと開けた。
魔王の城の奥深く。
魔王ミカエルが、両手をかざす。
その先には、魔法陣が怪しい光を放っている。
「死者の国より、甦れ。そして、我の僕として、再び働くのだ。我が息子よ!」
魔法陣が光り、黒い稲妻が走る。その中心から巨大なドラゴンが現れた。それは、桜花の自爆魔法で死んだはずの、エレメントドラゴン・アバンだった。
「父上。」
「よくぞ、戻った。息子よ。」
「父上の為、このアバン、再び仕えます。」
「頼むぞ。」
復活したアバンの目は、復讐に燃えていた。