「おい、起きろ!」
とつぜん
まず目に入ってきたのは、色とりどりの鬼。
どいつもこいつも、身の毛がよだつような恐ろしい顔をしています。
「次はオメエの番だ。とっとと行きやがれ!」
そうどやされて向かった先は、見たこともないようなでっかい
鏡には
──へえ、やっぱりオイラ、死んじまったのか。
のんきにそんなことを思っておりましたら、
「ありゃ、ウチの小屋じゃねえか」
板の間にしかれた布団には、むすめみたいに若くて美しいウメと、生まれたばかりのぼん太がすやすやと
そのかたわらにはなんと、父
「ああ、こんなりっぱな赤ん坊は見たことねえ。これからはしっかりお前たちを守るぞ。命をかけてもなあ……」
うれしそうに目を細め、やさしく話しかける亀八。
それを見て、ぼん太は鏡をたたき割りそうになります。
「フン、何だい。オイラたちを見捨ててトンズラしたくせに」
でもすぐに場面が切り替わったので、ぼん太はふり上げたゲンコツをおろし、また鏡に見入りました。
おだやかに過ぎていく、幸せだったころの日々。
ぼん太は
うそをつく必要もなく、つきたくなる気持ちすら知らずに、だれもが見ほれるようなたくましい男へと成長していきました。
村一番のべっぴんさんが
嫁になるはずのむすめもその鏡に映し出されはしましたが、ふしぎなことに、ぼん太はその名前すら思い出せませんでした。
美しいと思ったはずの姿も、
そうこうしてるうちにまた場面は替わり、ぼん太がうそをつき、悪さばかりしてるおなじみの光景が映し出されました。
するとここでぼん太はヒョイッと背中を向け、つまらなさそうにあたりをうろつき始めます。
どうせあとに続くのはろくでもないことばかりですから、まじめに見るのが嫌になったんでしょうね。
するととつぜんぼん太の目の前がまっ暗になり、腹の底までふるえるようなダミ声がひびきました。
「コラッ、オメエは最後まで見ねえのか!」
おそるおそる頭を上げますと、かべと見違えるほどの大男が立ちふさがっています。
──あっ、
ぼん太はすぐにピンときました。
なんせその姿が、村の寺にかざってある
「最後まで見にゃ、あとあと申し開きもできんぞ」
閻魔大王はこぼれ落ちそうな目玉をギョロッと動かしますが、ぼん太はふてぶてしくこう言い返すだけです。
「フン、申し開きなどするもんか。どうせオイラは地獄行きに決まってら」
自分のやってきたことは、自分が一番よく知ってるもんです。
悪あがきするだけムダなことと、はなからあきらめてたんでしょうね。
すると大親分をコケにされたとばかりに、鬼たちがカンカンになってつめ寄ってきます。
「
「コテンパンにしてやる」
しかし、さすがは閻魔大王。
荒ぶる鬼たちを指一本で制し、こう言うだけです。
「まあ待て。何もここをうす汚ねえ血でよごすこともあるめえ。とっととそいつを地獄へほっぽり出せ」
「ガッテン!」
向かった先はバカでかい不気味な
その奥から聞こえてくるのは、地獄の
ぼん太はこれを耳にしてハッとします。
自分がいなくなったことでウメは生きる気力をなくし、間もなくこっちへやってくるかもしれません。
その時、自分のせいでウメまで悪く思われたら取り返しのつかないことになります。
「あ、あの大王様……」
さっきまでとは打って変わって弱々しい声を出すぼん太。
「フン、やっぱり恐ろしくなったか」
閻魔大王はそれ見たことかと、満足そうな笑みをもらします。
「いや、オイラはどうなったっていいんです。でも、その代わりといっちゃなんですが、オイラのおっかさんだけは
ぼん太はがんじがらめになりながらも、
でも閻魔大王の返事は実にそっけないもんでした。
「フン、お前のおっかあじゃ中身も知れたもんよ。親子仲良く、地獄で舌を引っこ抜かれるがよいわ、ガッハッハ!」
すべて聞き終わらぬうちに、ぼん太はとびらの向こうへポイッと投げ捨てられ、頭をしたたかに打ちました。
そこは血なまぐさい悪臭におおわれた、まっ暗やみの世界。
そう、まさしく地獄そのものでありました。