ぼん太がしばらく気を失っておりますと、とつぜん何者かにはがいじめにされ、後ろ手にしばりあげられました。
そうして青白いヒトダマみたいな
「おうおう、こりゃよくうそをついた
うれしそうに言うのは、舌抜き当番の青鬼です。
その後ろからは大きなヤットコをカチカチいわせながら、アニキ分の赤鬼も近づいてきます。
「おおっと動くんじゃねえぞ。動けば動くほど痛い思いをすんのはオメエなんだからよ、ヒッヒッヒ」
言うが早いか、赤鬼はぼん太の口へヤットコをねじこみました。
「ハーッ、ヒヘェ!」
たまらずぼん太が悲鳴を上げますと、青鬼は満面の笑みを浮かべ
「アニキ聞いたかよ。こいつ『アーッ、痛え!』だって」
それにこたえ赤鬼は鼻息を荒くします。
「フン、こんなのはまだ
今度はのどの奥まで入ってきたもんですから、ぼん太ははきそうになりながらさけびます。
「ヒハイヒハイ、ハヘヘフヘ〜」
「えっ『痛い痛い、やめてくれ〜』ってか。やめろと言われてやめるバカがいるかよ、なあアニキ」
青鬼は、いちいちぼん太の言うことを赤鬼に伝え
それでぼん太をいびったつもりになって、はしゃいでるんですからどうしようもありません。
赤鬼の方も相手をとことんまでいじめぬくのが生きがいをばかりに、わざともったいぶって喜んでるのが丸わかり。
──なんだコイツら、虫ケラいじめて遊んでるガキと大して変わりゃしねえ。こんな頭のからっぽなやつらなら、村人たちをだますよりよっぽど簡単だぞ。
そう思った瞬間、ぼん太の中から恐ろしさがサーッと引いてくのがわかりました。
──よし、一丁やってみっか!
ぼん太は一か八かの大勝負に出ます。
「ホイ、ハイヘンハ!」
ぼん太がとつぜんそう言うもんですから、青鬼はちょっと難しい顔になります。
「なんだよ。『おい、大変だ!』って」
「ヘンハハイホウハ、ホハへハホ、ホンヘフホ」
「待て待て。ちいっと長えようだから、少しずつ言ってくれや」
青鬼にそう言われ、ぼん太はわざとゆっくり区切ってしゃべります。
「ヘ・ン・ハ・ハ・イ・ホ・ウ・ハ」
「閻・魔・大・王・が。何だよ、閻魔大王がどうしたってんだ」
たちまち青鬼の顔がさらに青くなります。
「ホ・ハ・エ・ハ・ホ」
「お・前・ら・を?」
「ホ・ン・ヘ・フ・ホ」
「呼・ん・で・る・ぞ……、だって?」
同時に赤鬼が裏返った声を出します。
「そりゃ大変だ!」
やっぱりぼん太の思ったとおり。
おっちょこちょいの赤鬼青鬼、とっさに閻魔大王のいる大広間の方をふり返りました。
──よし、今だ!
ぼん太はありったけの力で鬼どももけっとばし、あかりの届かない草むらへ転がっていきました。
そして物音を立てぬよう、ゆっくり後ずさりしながら岩かげにかくれます。
「しまった、逃げられちまった。青スケ、すぐさまみんなに知らせるんだ!」
「ガッテン!」
青鬼は火の見やぐらのようなものを一気にかけ上がり、カンカン割れんばかりに半鐘を打ち鳴らしました。
するとどうでしょう。
まるで力士の
「なんだ、またオメエらか」
現場を任されてる黒鬼が、まずは面倒くさそうな声を出します。
「またとは何だよ。前に逃げたジジイはオレらのせいじゃねえぞ。なあアニキ」
青鬼に続いて赤鬼も自分たちのぬれぎぬを晴らそうと言い返します。
「おう、何でもかんでもオレたちのせいにされちゃたまんねえよ。ありゃ確か、むらさき鬼がやらかしたんだ」
やぶから
「何だと、イイ加減なこと言うんじゃねえ。ありゃ針の山で居眠りした白鬼の
「ちょっと何てこというのさ。あたしゃそんなこたしないよ!」
どうやら以前にも
元々血の気の多い連中ですから、こうなったらもう手がつけられません。
そのすきにぼん太はもっと遠くまで逃げようと、入り組んだ山道をそそくさとかけ上がります。
と、その時です。
何者かに
おそるおそるふり向くとそこにいたのは……。
「ぼん太。お前、ぼん太だろ」
何やら、聞き覚えのある声です。
「まさかあんた、おとっつぁんか!」
「そうだ」
老いさらばえてはいましたが、その姿は父の
「やっぱり、お前もこっちに来ちまったんだなあ」
ぼん太の
「ワシがいなくなったばっかりに、お前の心はねじくれて、しなくてもいい悪さをするしかなかったんだな。ああ、申し訳ねえこった」
亀八はそう言うと、しばらくの間、
聞けば、とつぜん姿を消したのにはわけがあったんです。
ウメの体を気味悪がったなんていうのはうそ八百。
どんな病もすぐに治せると言い寄ってきたインチキ男たちにだまされ、帰れなくなっていたのです。
「何とそいつらは村に流れこんできた
亀八はそう言うと、
「……そうだったのか」
ぼん太にそれ以上、言えることなどありません。
長年うらみ続けた相手には、うらまれるわけなど何もなかったのです。
いい加減なうわさを信じ、勝手に父親を悪人に仕立て上げていた自分が情けなく、消え入りたくなりながら、ぼん太は父親のまっすぐな目を見つめ返すばかりでした。