その恐ろしげな様子を見れば、だれだって
気の弱い者ならバタッと
何より恐怖をさそうのは、
鬼たちの上げるケダモノのようなさけび声はもとより、
「さあて、ちょっくら
しかしウメも負けてはいません。
「それが何です。私は生きてる間、針どころか
閻魔大王はさすがに口元をピクッとさせましたが、何のまだまだとばかりにしゃべり続けます。
「フン、そんなこと言えんのも今のうちよ。お次は血の池地獄じゃ。ここに入ればヌルヌルドロドロ。それにまたニオイのひどいことひどいこと。あまりのニオイにどんな鼻づまりだって一発で治っちまうぞ」
それでもウメは一歩たりとも引きません。
「大王様、私は体中デキモノだらけでしたから血やニオイなんてなれっこですだ。そんな体を嫌がりもせずにやさしく
「ぐぬぬ……」
負けず嫌いの閻魔大王、くやしそうに
ウメにとっちゃどんな地獄の
地獄に行けば共に苦しむ
しかし大王たるもの、こんなところで引き下がっては手下たちに示しがつきません。
「そこまで言うならしかたねえ。ちょっとバアさんには刺激が強すぎるが取っておきを見せてやらあ!」
閻魔大王が勢い余って前のめりになりながら指をさすと、鏡には亡者たちがドボンと
これぞ
釜の水ははじめこそ歯の根も合わぬような冷たさですが、鬼たちがたきつける
亡者たちの姿もそれに合わせてまっ青からまっ赤にかわり、しまいにゃだれがだれだかわからなくなるありさま。
しかしウメときたら、これを見てほがらかに笑い出すんですから見事なもんです。
「ああ大王様、ありがとうごぜえます。これでやっと長年の夢がかないますだ。私は生きてる間ずっと親子三人で温泉につかってみたかったんです。これなら茹で上がるまでの間に温泉気分が味わえますだ」
閻魔大王はもうお手上げです。
「ガッハッハ、こりゃ話にならんわい。やい鬼ども、バアさんとこのジジイとせがれはどこにおる。今すぐ地獄から連れ出してこい」
それを聞いて、鬼たちの顔はいつにも増して青くなったり赤くなったり。
というのも実は鬼たち、亀八とぼん太に逃げられたことを、まだ閻魔大王に
「それがそのぉ」
「えっとですねえ」
いつもの
鬼たちはあらぬ方を向いてビクビクおどおど。
「なんだ、まどろっこしい!」
閻魔大王の声にいら立ちが混じります。
「ええ、正直に申し上げますと大王様、悪いのはコイツなんですよ」
「何言ってんだい。そもそもオメエが先にジジイを取り逃したんじゃねえか」
「何だと。しょ、
今にも取っ組み合いを始めそうな二人を取り押さえながら、黒鬼は他人事みたいに言います。
「まったく大王様、ウチの鬼どもときたら本当にどうしようもありませんねえ」
これにカチンと来たのか、ほかの鬼たちも
「何だよ、大王様にはだまってろって言ったのはオメエだろ」
「そうだそうだ。調子のいいことばっかぬかしやがって」
「大王様、コイツは亡者に
「それに若いむすめばっかえこひいきして、鼻の下伸ばしてやがんだ」
黒鬼は
「オメエら、うそはいけねえよ。うそつきは舌を引っこ
「そんなら、まずはオメエの舌からだ」
そう言いながら、赤鬼が商売道具のヤットコを持ち出したところで、閻魔大王がついに
「ええい、だまれだまれだまれ〜いっ!」
そのダミ声の大きさたるや、大広間を地震のようにグラグラと揺さぶるほど。
鬼たちは情けない声を上げながら柱やかべにしがみつく始末。
とその瞬間でした。
だれもが思いもしなかった、とんでもないことが起こったのです。