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第27話:王都シーリスと地下迷宮①

 それはもう調査ではなく、生き残りを賭けた何かだった。


 最初の犠牲者は、お調子者のアデルモだった。


 死因は鉄球による圧死だった。あまりにも突然で、呆気ない死だった。


 二人目の犠牲者は、謙虚さが売りのバルトロだった。


 死因はトロールの一撃だった。頭を粉砕され、脳漿が私の上に降ってきた。


 三人目の犠牲者は、熱血漢のベルランドだった。


 死因は落とし穴への落下死だった。いきなり床が消えたのだ。


 四人目の犠牲者は、誠実さが売りのカストだった。


 死因はスフィンクスという化け物に頭から食べられたのだ。力で挑むのではなかったと後悔している。退却を余儀なくされた。


 五人目の犠牲者は、温厚なチーロだった。


 死因はアリゲーターだった。奴の悲鳴が耳から離れない。


 六人目の犠牲者は、寡黙さが売りのクレートだった。


 死因はスパイクによる刺殺だった。魔導具でたまたま見つけた縦穴がシュートになっていて、その出口の壁面にスパイクが無数に突き出していたのだ。


 七人目の犠牲者は、勤勉なダニオだった。


 死因はまたしても落下死だった。足場が天井を写した鏡になっていて石の床と見分けが付かなかったのだ。


 八人目の犠牲者は、責任感が人一倍強いエドアルドだった。


 死因はアーバレストだった。背後から矢を受けたのだ。後頭部を射抜かれたあいつの顔が忘れられない。


 九人目の犠牲者は、家庭を大事にする男フィリッポだった。


 死因は圧死だった。閉じ込められた部屋の壁がこちらに迫ってきたのだ。助けを求める奴の声が耳から離れない。


 十人目の犠牲者は、この私。騎士団長のジーノだ。


 死因は圧死だろう。フィリッポと同じだ。自分の骨が砕けていくごとに悲鳴を上げることしか出来なかった。



※ ※



「やっぱ朝風呂はいいよな〜」


「とろけるよねぇ〜」


 ロカンダを出立すると決めたその翌朝。二人は最後にもうひとっ風呂と、朝から湯船で蕩けていた。これから向かう王都シーリスまでは馬の脚で五日かかる。その間風呂に入るのはもちろんのこと、水浴びすらままならないのだから無理もない。


「いっそこの町に住んじまうか」


「あ、それいいねぇ〜」


 無理もない……?


「さて。んじゃ出発するか」


「嗚呼。お風呂ぉ……」


 そんなこんなで結局昼過ぎまで寛いだ二人は、ようやく重い腰を上げると宿場町ロカンダを後にしたのだった。


 よほど湯船が気に入ったのだろう。マルティナは町の入口が見えなくなるまで、後ろ髪を引かれるように何度も振り返っては残念そうにしていた。


 そして王都シーリスへまであと二日というところで――、


「姉さん。


「王都の近くでよくやるな」油断なく周囲に気を配り閃光手榴弾スタン・グレネードに手を掛ける。


「コソコソしてないで出てきたらどう?」


 姉を庇うように前に出たマルティナが通りを挟むように立ち並ぶ岩陰に呼びかける。


 その瞬間「チッ」という微かな舌打ちの後、風を切る音とともに両サイドから二人目掛けて矢が飛来した。


「ったく」と億劫そうにそれらを手にした剣ではたき落とす。


「――何っ?」


 という驚愕の声の後、更に矢が飛来する。


 しかしマルティナは、またもや一瞬ではたき落としてみせた。


「ほほう。感だけじゃなく腕も確かなようだな」


 矢が飛んできた方角とは違う岩陰から、野太い声とともに一人の巨漢が姿を現す。それに続くようにぞろぞろと、その手下であろう男たちが姿を見せた。


 言わずと知れた野盗のお出ましである。


「一応聞いておくけど、何か用?」


「そうだなぁ」巨漢の男は余裕の素振りでマルティナをつま先から値踏みするように、視線をその体に這わせる。その視線がある一点で止まったところでこう口にした。「殺すには惜しいな。どうだ、俺様の女にならねぇか? そうすりゃ後ろのも殺さずにおいてやるぞ」


「たっぷりかわいがってやるぜぇ」という下卑たテンプレ台詞が飛ぶ。


 マルティナはそんな男たちを睥睨しながら、はンっと小馬鹿にした笑い声を上げる。


「てめぇのナニ食い千切って死ねっ」


 親指で首を掻っ切るジャスチャーをしながら言い放つ。


「馬鹿な女だ。おい、野郎ども。女に生まれてきたことを後悔させていやれ!」


 言うがはやいか、手下の男たちが二人へ駆け出したその刹那。


――バンッ


 と男たちの足下に投げ込まれた閃光手榴弾が牙を剥いた。


 数的有利に余裕をかましていた男たちは、マルティナの影になっていたことも相まって、ベッキーの動きにまるで気が付いていなかったのだ。


 いや、例え気が付いていたとしても投げ込まれたそれが何なのか理解することもできなかったであろう。


「な、何をしやがったっ!?」


 一瞬で手下たちが昏倒する中、巨漢の男は耳をつんざくような音にこそ倒れなかったが、閃光で視力をやられたのだろうそれまでの余裕はどこへやら、顔を片手で押さえながら怒鳴り散らした。


 そこへいつの間にか馬を降りていたマルティナが音もなく男の懐に飛び込むと、長剣を持つその右手首を切り飛ばした。


 その瞬間悲鳴が上がる。男は残った左腕を力任せに横へ払ったが当たる筈もなく、返す刀で振るわれた剣に、今度はその左腕を切り飛ばされ再び悲鳴を上げる羽目になった。


 たまらず膝をついた男に「を甘く見すぎ」と冷たく言い放つと、同時にその首へ刃を突き立てる。


 口からの血の泡を吐き、何ごとか言おうとした男だったが、驚愕に目を見開いた状態でピクリとも動かなくなった。


 マルティナは事切れた男の胸板を蹴り飛ばすように剣を引き抜くと、どうと倒れる巨漢には目もくれずに残った手下たちの首を撥ね、止めを刺してまわった。


「一人は残しといてくれ」


「分かったぁ」


 最後の一人を後ろ手に縛り、身動きが取れない状態にしてから荷物のようにマルティナの馬に乗せる。


「こいつの首どうするぅ?」と巨漢の髪を鷲掴みにして顔を起こす。


「賞金首かもしれんからついでに持っていこう」


「ほ〜い」


 軽い返事で巨漢の首を切り落とす。それを羊の胃袋で作った革袋に入れリュックに仕舞う。


 二人は「お疲れさん」とハイタッチを交わすと、再び王都目指して馬を疾走らせたのだった。


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