「シモン、さっき『鬼』というモンスターを入荷した。こいつらを配置すれば、ダンジョンに新しい風を吹かせることができる」
カルロスさんは伸びをしながら、「配置場所を決めるのはお前に任せた」と放り投げてきた。いや、頼りになると信頼されているのか?
「ちょっと、カルロス。『入荷』なんて言い方はないじゃない。モンスターにだって人権が――モンスター権があるはずよ」
エミリーさんが割って入る。
モンスター権か。なるほどエミリーさんらしい考えだ。
「悪い、表現がよくなかった。シモン、配置が終わったらギルドのジャスミンに伝えてくれ。『鬼に困っている』という依頼を一件出すように」
「え? 配置したばかりで依頼が出るはずは……」
「ほら、配置しても周知しなくちゃ意味がない。いわゆるサクラだよ、サクラ」
まさか、こんなやり取りは当たり前なのか? なんだか、モンスターもかわいそうな気がしてきた。
管理課の部屋を出るときに「風貌も伝えておくように」とカルロスさんから追加注文があった。それくらい、楽勝だ。
「よし、順調だな」
カルロスさんは満足げだ。「鬼」の存在が知れ渡ったことに。
トントンとドアがノックされる。
「どうぞ!」
ドアを開けると、そこにはギルドの管理人ジャスミンさんの姿があった。なんだか困っているように見える。
「僕でよければ力になりますよ」
僕の言葉にイラっとしたのか、眉毛がぴくっと動く。え、何かまずいこと言った?
「シモンさん、あなたから鬼の風貌を教えてもらいました。『棍棒を持っていて狂暴だ』と。そう周知したら、鬼を討伐したという冒険者が増えました。でも、彼らの大半はゴブリンを鬼だと勘違いしています。それに、一部の冒険者は鬼を倒したと言って報酬を余分にもらおうとしています」
あ、これはやらかしたな。
「エミリーさん、鬼の詳細を教えてください。このままでは、ギルドが破産します」
「鬼とゴブリンの違いね。オーケー、後で詳細なレポートを送るわ」
ジャスミンさんは満足したのか、鼻歌を歌いながら部屋を後にした。
「シモン……」
カルロスさんから雷の予感!
「でかした! ジャスミンが訂正文を出せば、より鬼の存在が広まる!」
「そうでしょう。僕だって無能じゃありません!」
これで、僕への信頼度が上がったはず。次は大きな仕事を任せてもらえるに違いない。新米を卒業する日も近いだろう。